第25話 小作人

文字数 877文字

「さて、きみはそろそろ死ぬのだが、今、天国行か地獄行か、キップの発行に手間取っているところなのだよ」
「あ、そうですか」
「この世で、きみはずいぶん苦しんだ気になってるね。自分を苦しめることは、自分以外の者も苦しめることになる。とすると、きみはあまり、徳を積んでいないことになる」
「そうですか」
「きみの行き先は、もう決まっているのだがね。いちおう、本人の言い分も聞いておけ、とお上から達しが来てね」
「はあ」
「何か言い残したいことはあるかね」
「べつに、とくにありませんや。今までも、言いたいことならいっぱい言って来やしたし。どこにでも、お好きなところへ連れてってくれて構いまへん」
「そう言うと思ったよ。特に、どこへ行きたい希望はないのかね」
「へえ。ありません。どうとでもしてくだせえ」
「まあ、またお前はここへ来ることになるのだが。ここは、お前のようなどっちつかずの半端者が来るところなのでね。それまでの時間、とりあえず宇宙に行ってもらう。あの世もこの世も、じつは宇宙にあるのでね。まぁちょっとしたリハビリだ。で、ここでまたお前は試されることになる。一回目の試用期間は終了、ということだ」

「なんか、三回目か四回目の気がします」
「何回やっても、べつに構わないよ。もうちょっと、健康に気をつけておればよかったな、今回は。まあ、どっちにしても死ぬのだが。あと、もうちょっとひろい心をもっておればよかったな」
「はあ」
「まぁお前はきっと地獄を望むだろう。天国じゃ申し訳ねえと言って。といって、エンマさんや針の山や血の池では恐れをなし、涙を流すだろう。なんでこんなことになったんだろう、と訳も分からずに」
「へえ」
「一定のリハビリ期間を修了したのち、お前は朝が来るように起き上がる。宇宙は暗いからね、ここで目を覚ますことになるだろう」
「…」
「じゃ、そういうことで。一応、お前がこの世であれこれ考えていたらしいことは、お上のほうにも伝えておいた。結局、お前、考えすぎていた、ということになるだろう。それが人間というものであったにしても」
「はあ」
「じゃ、またな。お達者で」
「はい」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み