エピソード10:ステージ1クリア
文字数 1,239文字
けっこう広い迷路、そこそこ重たい箱、おまけにちょっとしたハプニング、いろいろあってなかなか大変だったけれども、ついにふたりはあと最後の箱をもうひと押しというところまできた。
リラは、両手を箱に当てた前傾姿勢のまま、隣のエリに顔だけ向けて言った。その顔には汗に濡れた前髪がぺったりとはりつき、雫があごの先で垂れっぱなしのままになっていた。でも、声も表情も元気にあふれていた。
エリも同じように前傾姿勢のまま顔をリラのほうに向け、その元気さに応えるように力強くうなずいた。そしてふたりは顔を正面にもどすと、「せーのっ!」と一緒にかけ声をあげ、めいっぱい両腕両足に力をこめた。最後の巨大な箱がズズズと大きな音をたて動いていく。一歩、二歩、そして三歩と進んだところで、二人はいっせいに両手を突き出した。巨体が突き出た空間のなかへ、わかっていても箱と壁が一体化したと思えるほど、気持ちよくおさまった。
箱を押し切ったのと同時にリラは背中から倒れた。
エリはリラのそばによって微笑みながら言った。
その時、寝ころんでいたリラからは彼女の微笑みがよく見えた。ちょっと垂れ下がった眉に真っ黒な瞳、小ぶりの鼻に薄く小さな唇。ボサボサのかみのけに隠されていたものと、初めてちゃんと向き合った。リラの脳裏にぼんやりとした映像と断片的な声がよぎっていった。彼女はガバッと起き上がった。びっくりしてエリはおもわず一歩退いた。
そこでエリを見上げながら、リラの言葉は止まった。が、すぐに右手で頭をかいて続けた。
エリはなにも聞かずにリラの後ろに回りしゃがんだ。
リラは首をめいっぱいひねりながら嘆いた。
リラがそう言って首を元に戻すと、リラはさっそく彼女のパジャマにくっついているクズを払い始めた。しかしその手つきが、荒っぽいお母さんとは正反対に柔らかく、筆で撫でられているかのようにくすぐったくて、ついリラはもじもじと体を動かしてしまう。かまわずエリは手を動かし続けた。実のところ、すぐにパジャマは綺麗になったのだが、くすぐったいのを我慢しているリラがおもしろくてエリはやめられなかったのだ。やがて満足したエリは、最後にことさら優しくひとなでして終わらせた。最後のイタズラにリラは犬みたいに体をぶるっと震わせた。
立ち上がりながらエリは言った。するとリラが振り返った。その顔はなんだか怒っているようだった。
しかし、じょじょにリラの顔はほころんでいく。
そして最後には笑いながら怒っていた。