エピソード8:よめないなまえ
文字数 1,136文字
興味の惹かれるものはあらかた見終わり満足したところで、リラは手のひらの夏を閉じた。
エリもそれに同意して春を閉じた。
そうして風変わりなオバケの図鑑を片付けようとしたとき、ふと気になってリラはちょうど本棚に戻しかけている本の背表紙の下の方へ目をやった。丑三水鏡冥冥――そう書かれていた。しかし、
読むことができずリラはそうつぶやいた。
そう返事をしながらリラは本を渡した。受け取ったエリはその名前とやらを見てみた。しかし、彼女もまたお手上げだった。
本を返しながらエリは言った。
それを本棚に戻しながらリラは答えた。
エリにそう言われリラは思い出すのをやめ、他の本を調べ出した。すると左から右へ右から左へ、上から下へ下から上へ、あっちにもこっちにも同じ文字がズラッと並んでいた。途中で頭がくらくらときたので調べるのをやめたが、八、九割がたを丑三水鏡冥冥が占めていた。調査を終わらせたリラはエリの方を振り返って、目をパチパチとさせながら驚いたように言った。
そうして二人は本棚の調査を終え、次の所へと足を動かした。二人の向かった先は机で、プレジデントデスクやエグゼクティブデスクと呼ばれる、大きな木製の、両脇に引き出しがついているものだ。映画やドラマ、小説にマンガ、それにゲームなど色んな創作物で、革張りの椅子に座った組織のトップが両肘をつき手を組んで偉そうにしているところを見かける。そんな大層な机だが、ここのものは椅子どころか、二人が調べたところによると、引き出しの中身も何かを書くためのペンや紙すらもなく、あるのはぽつんと寂しく置かれた一冊の本だけだった。
リラがいつものように代表して、その本を手に取った。表紙には『丑三水鏡冥冥』と記されていた。