エピソード15:〇リー

文字数 1,771文字

 一方で、トランシーバーでのやりとりからしばらくして、黙々と屋敷内を調べ回っていたエリはついに最後の部屋にやってきた。そこはがらんとした空き部屋で見る物も少なく、あっという間に全体の調査を終えられた。これで一階の探せる場所はおそらくすべて探したはずだが、二つ目のアイテムも隠し通路もどちらも発見できなかった。虚しい静寂があたりにたちこめ、どうしようと不安が心の中にわいてくる。本当に全部の部屋を調べたのか、調べていたとしたらもう一度最初から見て回ったほうがいいのか、そんなことを考えていたらリラから通信が入った。
こちら、リラ。今は大丈夫ですか? どうぞ
 エリはあわてて
こちら、エリ。大丈夫です。どうぞ
二つ目のアイテムを発見できました!
 トランシーバーからリラの元気のいい声が発せられた。
ほんとに?
うん! それでエリの方に隠し通路あった?
ううん、いちおう全部の部屋を回ったけど見つけられなかった
そうかぁ。……ね! エリっていまどこにいるかわかる?
うん、たしか一階の右下らへんに空き部屋があると思うんだけど……
 エリが地図を頭のなかで広げながら質問に答えると、
ちょっと待って
 との声のあとガサガサいう音が聞こえ、
あー、あったあった
 と続けてリラは言った。
そこにいる
わかった!
 そうしてテンションの高い返事があって通信が終わるのかと思いきや、繋がっていることを示しているランプがまだ点いたままだった。エリは首をかしげた。繋げたままになることは――自分で失敗したからよくわかっている――意識しないとほとんどならない。だから、リラはたぶんわざと繋げたままで黙っていて、きっと何かをしようとしている……はず。そうエリは判断して同じく口を閉ざして待っていると、やっぱりその時が来て、トランシーバーからいつもより高い声が聞こえてきた。
もしもし、あたしリラ。いま、ゴミ部屋にいるの
 それで通話が切れた。今度はランプも消えている。エリはふたたび首を、しかし今回は大きく、傾けた。変に黙っていたのは自分の場所を教えるために地図を見ていたからなのか。最後の通話からするとそういうことになるけど、それだとボタンを押しっぱにしていたことや言い方がすこし不自然。それに教えられても地図のない自分は場所がわからないし、教えてはい終わりでは次どうするつもりなのかもわからない。合流するのか探索を続けるのか。エリはリラの突飛な行動に戸惑い、どうしたらいいのか判断がつかず、その場に立ちつくした。すると最後の通話から十秒ぐらいして――もしかしたら十秒も経たずに――リラから通信が入った。
もしもし、あたしリラ。いま、保管庫にいるの
 そして、またそれだけ言って切れてしまった。しかし、点と点が繋がり、エリは自分の耳を疑った。おそらくリラの言った保管庫というのは、あの不思議な品々が飾られてある部屋のはず。とするならリラは二階からものの十秒程度で一階の端っこまで移動したということだ。はたしてそんなことができるのか。彼女が嘘をついていることも考えたが、意味があるとは思えない。エリは信じがたい出来事に頭が混乱して、しかし次に起こる事態を予期して、自然と耳を澄ませた。すると、背後からトットットッと小刻みの小さな音が聞こえてきた。エリの肩がビクッとはねる。そしてカチッと何かを押す音が微かにし、手元のトランシーバーのランプが点灯した。
もしもし、あたしリラ。いま、空き部屋の前にいるの
 エリはノイズ混じりの声とくぐもった小さな声とに挟まれた。それから間もなく後ろでカチャっと何かが外れ、ギーっと開く音が部屋に響き、誰かが間違いなく近づいてくる。そしてピタッと後ろで止まったと思うと
もしもし、あたしリラ、いま、あなたの後ろにいるの
 彼女のトランシーバーのよりもハッキリとした声がした。
 エリはすこし間を置いてからゆっくりと振り返った。すると満面の笑みをたたえたリラと目が合い、間髪置かず彼女がガバッと襲いかかってきた! おもわずエリは目をつぶった。すると、あたたかくて柔らかいものに包み込まれ、顔のすぐ左から楽しそうな声がした。
やっとつかまえた! へへ、どう? おどろいた?
うん、どうやってここまで来たの?
 棒立ちのまま目を開けてエリが聞くと、リラはパッと離れた。
それはね、ちょっとついてきて
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