エピソード1:なかみ
文字数 1,370文字
そのあとに続いてエリも入ってくるとオバケはふたりに近づいた。リラが身構えたのにたいしてエリは直立不動のまま。やがてあと一歩というところまで来るとオバケは止まって、唐突に思いも寄らぬ行動にでた。だらりと垂れ下げていた白いキノコのカサのような両手を、ギザギザとした口のなかにつっこんだのだ。そしてもぞもぞと自分の口? それとも体? のなかをまさぐって、ある物を取り出し、それをふたりに差し出した。自分の中をまさぐっていたさまを気持ち悪いものを見る目で眺めていたリラは、その差し出された道具に視線を移した。オバケの手にあるのはふたつのトランシーバーだった。長方形の本体の天辺左からアンテナが伸び、その隣には回してつける電源があり、正面上部には横長の画面といくつかのボタンがある。カバーにはそれぞれ色がついていて、黄色と白色とどうやら服の色に合わせているらしい。
差し出されたトランシーバーをまじまじとリラが見ていたら、オバケが「はやく取れ」と言わんばかりに両手をぐいぐい突き出してきたので、しかたなしに彼女は手に取った。肉体からではないとはいえ中から取り出したものだから変な液体でもついているんじゃと怪しんでいたが、その心配は必要なかった。リラが受け取るとエリも左手に持った。するとオバケは執事かなんぞかのように脇によって、左手をお腹に当て右手で後方の両開きの扉を指し、うやうやしく礼をした。 道を開けられたふたりは視線を交わしたあと、頭を下げているオバケの前を通り、木製の意匠に凝った両開きの扉の前まで歩いた。そこで気になってリラが後ろを振り返ると、オバケはまだ姿勢を崩さずにいた。しかし、その時オバケも体を捻って様子をうかがったのでふたりの視線がぶつかった。ふたりして「マズイ」と思ったのか慌てて体をもとに戻すと、リラはため息をついて言った。