エピソード3:かくれんぼ
文字数 1,443文字
たちまち静寂があたりにたちこめる。この部屋では風と雨と木々の音は聞こえてこない。リラとエリはしばらくのあいだ解放されたときのまま突っ立っていた。やがておもむろにエリのほうからリラに声をかけた。
その声でリラは我に返った。そしてため息をついて言った。
しかし、打って変わって凛々しく顔を決めて言った。
あいかわずゲームに疎いエリは聞きなれない言葉に首をかしげる。
エリはトランシーバーを見せながら聞いた。
リラはそう言って自分のトランシーバーも見て考えはじめた。やがてすこし自信なさげに口を開いた。
リラは悩んだ。こうしてエリといられるのはこのゲームの間だけだろうから、なるべく長く一緒にいていろんなことがしたい。でも一介のゲーマーとしてせっかくのアイテムを使わずして遊ぶのももったいなく思う。どっちも捨てがたいとそこまで考えて、ひとつの単純な答えに行きついた。
なにも一度でクリアしなければいけないわけではないから(初見でクリアしてやりたいけど)リラはどっちの状況も楽しむことにした。
ふたりは入口へと向かい扉を開けた。ふたたび風雨がふたりの鼓膜を打ち、視界が暗く黒に染まる。月明かりも変わらない。だけど、今は何者かの潜む静けさも感じられる。
エリが左右を見ながら聞いた。
リラはそう答えながら曲がり角まで行き、そこで身を隠した。
エリが尋ねると、
リラはひそひそと答えた。
不思議に思いながらエリも言う通りに、でもちょっと浮いて、身を隠すとリラが続けて小さな声で言った。
エリも声を潜めて言った。
そうしてふたりは頭だけ角から出して待ちはじめた。風が吹きすさび雨が降りしきる。リラの息づかいが聞こえる。四つの黒い瞳は同じく黒い空間を注視している。やがて、正確な時間はわからないがおそらく同じくらいのタイミングで、白黒の廊下に金属音が鳴り火の色をした切れ込みが入った。そしてカンテラを持ったオバケが姿を現した。
リラがちょっと顔を上に向けて得意げに言った。
それでふたりは引き続きオバケの動向を観察した。カンテラを持って出てきたオバケは丁寧に扉を閉めると、左右を確認してカンテラの音とともに廊下の奥へと漂いだした。ある程度進むとどうやらそこは丁字路になっているようで、またカンテラを左右に振って確認すると右へ曲がった。オバケの姿が消え、カンテラの火も段々とほのかになっていき、やがて廊下はモノクロの世界に戻った。