エピソード9:的当て
文字数 1,423文字
パリン!
ふたりはびっくりして思わず左を向く。ミス・ハンターはいつのまにか銃を抜いていた。そして彼女たちが呆然としているあいだにまた、パリン。
予想していた以上の実力差にリラは慌てて顔を戻した。
エリも銃を構えなおすが力弱くこぼす。
リラの言う通りスタートから二十秒ぐらいまでミス・ハンターの独擅場だった。彼女の反応速度と射撃の精密さが大人げなさすぎて引くほどだった。リラとエリの目が動く影を捉えて脳が「的だ!」と認識した時には、もう彼女の引き金は引き終わっており、音とともにたちまち的は消されてしまう。ふたりは打つ手がなくただ時間が過ぎるのを悶々と待つほかない。次々とミス・ハンターに点が加算されていくなか、突如彼女のほうから変な音がし気になって振り返ると、そこにはなんとリロードに失敗して足元に転がっている弾倉を拾おうと慌てふためく彼女の姿があった。どうやら彼女は本物らしく一回一回弾倉を取り換えているらしいのだが、そんなことよりも人間業とは思えない正確無比な射撃と反応速度を見せる軍人からは想像もできない光景に、リラは勝負を忘れて見入ってしまった。
そこへエリが声をかける。
意外な場面を見たせいで一瞬何が来たのかリラはわからなかったが、すぐに思い出し視線を前に移した。的がひとつ増えていた。隣はまだ拾えていない。今が絶好のチャンス――リラは言った。
二人は自分の標的に狙いを定めて右手の人差し指に力をこめた。パリン! パリン! と二回音がして、右のスクリーンの0が2に変わった。初得点が嬉しすぎて飛び上がりたくなったがそこはなんとかこらえて、次に備えた。それというのもミス・ハンターのリロードが終わっていたから。
その後、出現する的の数が増えさらにそれがミス・ハンターの弱点のようで時々リロードに失敗することもあってリラとエリも点を稼げるようになったものの、彼女の驚異的な射撃能力の前ではあまりに無力で点差は開いていく。そして残り時間は一分を切った。
残り時間が少なくなりエリは聞いた。
エリはリラを見る。
リラもエリを見て、それからウインクをした。
エリは大きくうなずいた。
それからもじりじりと差をつけられていき、残り時間が二十秒を切ると互いのスコアが見えなくなった。そして残り十秒となった。エリはスナイパーライフルを置いて大砲のもとへ急ぐ。撃ち方は練習の時に教わっているので大丈夫なはずだが、念のため頭の中で繰り返した。エリに託し一人残ったリラは、ちょっとでも差をつけられないようにしっかりと確実に狙っていく。時間は七秒、六秒、そして五秒――その瞬間、大量の的が真っ暗な空間一面を埋め尽くした。
エリは大砲の尻についているレバーを全力で下した。鼓膜が破れそうな程の爆音が轟き、的がビルの窓ガラスが全部一斉に割れたかのような音をたてて消滅した。あと二秒ほどあったが耳鳴りでそれどころでなく、ゲームはそのまま終了した。