エピソード3:白い袋はどれだけふくらむか
文字数 1,821文字
リラは勢いよく扉を開け、エリはすり抜けて、迷路に飛び込んだ。
リラはすぐさまあたりを見渡した。さっそくそれと思われるものを正面すこしさきに発見し走っていってみると、果ての見えない真っ暗な宇宙のような天井からピアノ線なのか蜘蛛の糸なのか透明な糸が垂れさがりその先に箱がくっついていた。それがお菓子なのはあきらかだったが、ラッピングされていてどのお菓子なのかはわからないようになっていた。
紐を投げてくる様子もなく、足も向こうの方が遅い、リラは負ける要素が全くないと白い歯を見せ意気揚々と次の角を右に曲がった。
もうオバケは追いかけてきていなかった。リラはスピードを落として、やがてその場に止まった。
そして一息つき、袋の口を広げた。底に三つの箱がある。あのオバケから逃げている最中にもお菓子をしっかりと手に入れていたのだ。その時――走りながらぶらさがっているお菓子を取っている時、話に聞いたことのあるパン食い競争をやっている気分だった。そして実際にパンを口だけで取るのはそうとう難しいだろうなと思った。そんなくだらないことを袋をのぞき思い出して、それからリラはニヤッと笑った。今頃エリはどうしているのか? 何個ぐらい取れたのか? 自分のほうが多いのか、少ないのか? コンビニやスーパーの棚を思い浮かべそれに並んでいるものと袋のなかのを比べて、どれなんだろうか? とかそういうことを考えて口角が自然と上がってしまう。
ある程度休憩ができたのでリラはゲームを再開した。ところが、移動してすぐに目の前の丁字路からオバケがリラのいる通路に入ってきた。「あっ」と思いリラが踵を返すとその先からもオバケが、しかも目があった瞬間に様変わりして、こっちに向かっていた。それで「ヤバい!」とふたたび振り向くと、すでに最初のオバケも変貌していた。それから振り返って振り返って、あっちみてこっちみて、あたふた、と絶体絶命の挟み撃ちになすすべなくその場で右往左往しているうちに、二体のオバケは着実に距離を縮めて、やがて無残にもリラは二本のお縄についてしまった。
白いひもでミイラみたいにぐるぐる巻きにされたリラは自分をつかまえたオバケたちに叫んだ。
彼らはクスクスと笑っている。
捕まってしまったとはいうものの拘束時間は十秒間だけなのであっという間に過ぎて、オバケはリラを縛っているひもを解くとそれぞれ天井へ飛んでいったり床へもぐりこんでいったりして、彼女のもとから姿を消した。
そんなオバケたちの後ろ姿に向かってリラは悔しそうに声をあげる。
はたしてその声は届いたのか、迷路はしんと静まり返り、ゲームは再開した。