エピローグ

文字数 873文字

 若葉色のカーテンのすきまから心地よい春の朝の光が部屋にさしこみ、ベッドの上の穏やかに眠る彼女の顔を照らし出す。注がれた朝陽に刺激され、リラは小さく唸りながら目をさました。体を起こし、めいっぱい伸びをして、寝ぼけまなこで自分の部屋を見渡した。頭はまだぼぉーとするけれど、目の前に広がる部屋と新しい記憶のなかの部屋とに違いがあることはすぐにわかった。悲しみが胸のなかに広がる。リラはベッドから降りて、散らばった服をまたぎ、窓に近づくとバッとカーテンを開けた。あたたかな日差しが彼女をそして部屋中を明るく染めあげる。振り返って、もう一度全体を眺めた。クローゼット、床、本棚、机、細かいところまで目を凝らしてみて、ため息をひとつこぼした。呆れるほどの再現度だった。オバケのイラッとくるにやけづらで調子のいい文面の看板をかかげた姿がまざまざと目に浮かぶ。窓辺から離れベッドに戻り腰かけたとき、誰かが扉を二回ノックした。
リラ、まだ寝てるの? 朝ごはんできてるから早く降りてきなさい
 お母さんだった。
わかった!
 と扉に向かって返したはいいもののリラは動こうとしない。逆にベッドに倒れて、右腕で目を覆い隠した。全部が夢のようなできごとだった、あるいは本当に夢だったのかもしれない。でも、どちらにせよ確かに自分のなかにある。ボロ部屋で目が覚めてエリに出会ってから、あらゆる難関をふたりで突破して、最後にこの部屋で楽しく遊び優しく微笑んでくれたあの瞬間まで、すべてを鮮明にまぶたの裏に描くことができる。それとともに喜怒哀楽――様々な感情が湧き上がってくるが、そのどれもが彼女の心を元気づける、活気づける、勇気づける。太陽のように明るく熱い炎が燃え上がる。やる気に満ちあふれたリラはベッドから飛び上がると、拳を固く握りしめ叫んだ。
よーし! やるぞっ!!
 これから長い長い戦いが待っている。そこでは以前敗れてしまった敵にまた立ち向かわなければならないし、もっと強力な未知の難敵を相手にしなければならないだろうけれど、リラの目にはハッキリとした目標が、希望が映っていた。
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