エピソード4:扉の先へ

文字数 1,099文字

…………
 しかし、リラは無反応だった。そのためしばらくの間そのまま見つめあうことになり、なんともいえない沈黙の時がながれた。いぜんとしてリラから反応がなくいたたまれなくなったエリは、手を彼女の足から離し地面から出てきた。すると、リラも動くものを自動で追跡するカメラかなんかのように顔を上げていった。そしてエリの全身が現れると今度は真正面で目と目をあわせた。それでもリラは丸い目のまんま石像のようにかたまったままだったので、エリは気まずそうに声をかけた。
……あの
 すると、
――――あ、ああ、エリ……帰ってきてたんだ。てっきりドアから戻ってくるもんだと。幽霊だもんね、そりゃ
 心ここにあらずといった様子でリラは返事をした。その姿にエリは心苦しくなって小さな声をもらした。
ごめん
 するとリラはうつむき拳を握ってプルプルと震えはじめ、
――――もう! ほんと、そうだよ!!
 そして爆発した。
 死ぬほどビックリしたんだから! 帰ってこないと思ったら、いきなり足をつかまれてさ。しかも、ちょっと……あれ、ひんやりしてるからよけいにだよ。もう、マジでビックリしたんだから
……ごめん
あ……いや、ぜんぜん大丈夫だよ。ただちょっと、ちょっとだけいつもより驚いただけって話だから
 自分の爆風にさらされたエリが叱られたこどもみたいにうつむき服をギュッとつかんで落ち込んでしまったので、リラはやりすぎたと思って慌てて言った。ところがかえって気を遣わせてしまったとエリはさらに肩を落とした。そんな彼女を見てリラはため息をそっとついて、ギュッと力が入っている両手を取ってやさしく微笑んだ。
ほらほら、むこうがわ見てきたんでしょ? なにかあった?
……ううん
それなら次に行ってみよ! いまのことならほんとに全然気にしてないから。むしろどんどんやってほしいぐらいだよ
 そう楽しげに言ったリラだが、エリは意味が読み取れなかったらしく首をかしげた。
だってさ、エリは幽霊なんでしょ? なら壁の通り抜けるのも宙に浮かべるのもそうだけど、本物の幽霊としかできないようなこともっともっと、それこそできることはぜんぶやりつくしたいもん。せっかく会えたんだから!
 満開の花を咲かせて、最後にリラは言った。
だからごめんね。あたしもちょっと言い過ぎたよ
ううん、そんなことない
じゃ、おたがいさまってことで。次に行こ?
うん
 エリが元気よくうなずき、そうしてふたりの間にあった気まずい空気はどこかへ飛んでいって楽し気な雰囲気に包まれた。そして二人は扉へと向き直り、リラがノブをつかんだ。
開けるよ
いいよ
 エリの返事を聞いてリラは視線を扉に戻しゆっくりとノブを回した。
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