プロローグ:舞台裏

文字数 845文字

本当にだいじょうぶ?
 床材が色褪せひび割れくすんだ壁には蜘蛛の巣がおまけに付く、あのボロ部屋で黄色のパジャマに身を包み背を向けて寝そべっている女の子を横目に、エリは隣にいるオバケに尋ねた。
だいじょうぶですよ。なんにも心配することはありません。進行も裏方仕事も全部わたしたちがしっかり務めをはたしますから
 腰に手を当てたふうな格好をしてオバケは答えた。
あなたたちだから心配なんだけど……
それではここで止めますか? 今ならまだ間に合いますけど
 オバケの挑発的な問いに、エリはビクッと肩を跳ねさせてオバケに恨めし気な視線を向けたあと、すこしうつむき考えはじめた。やがて考えが決まったようで口を開いた。
やる。リラにどう思われるかわかんないけど、やりたい
ですよね! せっかく神様がお願いを聞いてくれたんですから。こんなことそうそうないんですよ
 オバケはエリの答えに嬉しそうな顔をして返した。
ところであの件についてですが、やらなくていいんですか?
 そう言ってオバケは口の中から赤ペンを取り出した。それを見たエリは慌てて首を振る。
それはいいよ。リラが余計に怖がっちゃイヤだし
そうですか……真っ白な服に赤いシミ、幽霊っぽくていいアイデアだと思うんですが
 残念そうにオバケが肩を落としたその時、すこし離れた場所で寝ているリラの口から唸り声が漏れた。
では、わたしはこれで
 エリは固い表情でうなずく。それを見てオバケはちょっと考えたあと、エリに声をかけた。
エリさん
 強張った顔でエリが振り返る。
今夜の主役はリラさんだけではないんですよ。リラさんとエリさん、ふたりが主役なんですから、上手くいくかどうかなんて気にせずあなたもめいっぱい楽しんでください
 思いがけない言葉にエリは目を丸くしたが、すぐに
うん。ありがと
 と言って微笑んだ。それにオバケも笑い返すと、とうとうリラが体を起こし始めた。慌ててオバケが煙のように姿を消すのを見届け、エリは深呼吸をし力強くうなずくと、音もなく起きたばかりの彼女の背後に忍び寄った。
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