第61話 人と魔族
文字数 2,413文字
エリカはそのままデルリアルのアジトに戻り、サリー婆たちと合流した。
「そうか……そんな状況じゃったか。もしかしたら幹部連中にもカルパシィーの手が回っとったんかもしれんな。それでこれからどうする?」
「取り合えず、デルリアルや残った連中を再編して、いつでも動ける体勢は作りたい。カルパシィーの出方によっちゃ、協力も敵対もありうるだろうしな。
その上で今回、やっぱりあたいの肉体再生が重要な事が骨身に染みたぜ」
「じゃあエリカ。まだ当分、こっちの世界にいられる?」ナナが深層から問う。
「なんだナナ。何かあるのか?」
「あの……せっかくなので、もう少しこちらでマナの修行していい? こっちの世界のマナに慣れたなら、もう新幹線で京都・奈良の観光行き放題だよね?」
「はっ、上等だ。それじゃ新エリカ軍の再編作業に、もう少し付き合ってもらうとするか」
◇◇◇
「カルパシィー様、おめでとうございます。魔王エリカのカリスマもすっかり剥がれ落ちました。今やあなた様が魔族の盟主です」ヴィンセントがそう言う脇に、パイスバンも立っている。そしてエリカの元を離れた魔族幹部の大多数も同席し、宴会が催されていた。
やがて周りの一同に促されて、カスパシィーが前に出て語り始めた。
「皆さんのお陰で、ようやく魔族が一つにまとまりました。我々はこれから、エルフ・人間王国に攻め入り奴らを血祭に上げる段階に移ります。是非、最後までお力添えを。なに、今は勇者も戦士も倒れ、奴らも迎撃態勢は整っていません。
そう遠くない未来に、我々魔族がこの世界の頂点に立つ事でしょう」
「うおー! カルパシィー様、乾杯!!」
「乾杯!!」
カルパシィーの演説に、場内のあちこちから歓声が響いた。
「あーあ。来宮さん、戦う前に負けちゃったのか……ちょっと残念」
その光景を眺めながらそう言ったのは、うしろの壁際にいたリヒトだ。
すでに魔法の練習の成果が現れ、半身不随な自分の身体を自力である程度動かせるようになっており、車いすや杖なしで歩き回る事が出来るまでになっていた。
「ほら、調子に乗って歩きまわるな。お前が人間だと分かると面倒だぞ」
リヒトのそばにミルラパンが付き添っている。
「えっ。そうなの? 魔族の人はそんなの気にしないと思ったんだけど……。
マスタ……いや、エリカも来宮の身体に入ったりしてても一応魔王とは認められてたみたいだし」
「魔族はだいたい人間が嫌いなもんだろ。あいつらのお陰で住みづらい世になったんだ。しかしリヒトは、あのナナという人間をえらく気にしている様だが……あれに気があるのか? 同族だしな」
ミルラパンの問いに、リヒトが人差し指をミルラパンの口に押し当てて言う。
「そんな訳ないでしょ。僕の一番のお気に入りは君なんだから……」
「リヒト。おまえ本気で殺すぞ!」ミルラパンがすごんだ。
「はは、なんだか仲が良さそうですね」
そう言いながらカルパシィーがリヒトとミルラパンの所に歩み寄ってきた。
「マスター。冗談でもそういう事は言うな……」ミルラパンが険しい顔で言う。
「いや失敬、ミルラ。実は、君とヒリト君に頼みがあるんだ。私の主力の軍勢はすでにエルフ国内に侵攻させる準備に入っていて使えないが、是非、君たちでエリカに止めを刺してきてほしい。まあ、ほとんどの魔族はこちら側についたんでもうほとんど力は残っていないと思うのだが、念には念をという事でね」
「だけど、僕らだけじゃ、力不足じゃないですか? 見た目は来宮だけど中身は魔王エリカだし……」リヒトが薄ら笑いを浮かべながらそう言った。
「ふっ。だからこの人も手伝ってくれる。これなら、エリカと残りの勇者チームを屠れるだろ?」そう言うカルパシィーの後ろには、ヴィンセントが立っていた。
◇◇◇
エリカが自分に従ってくれる魔族達の再編をデルリアル達と行っている合間をみながら、ナナはマナコントロールの練習を続けていた。
「どうだナナ。もうこの世界のマナ濃度でも大丈夫そうか?」
「どうかな。まだ油断すると気持ち悪くなるけど……このくらい適応出来れば、あっちの世界なら問題ないかも」
「そっか。それじゃあたいの仕事も一段落したし、一度戻るか?」
「うーん。それもありだけど、もう少しこっちの世界に居てもいい? お母さんが施設出て来るまでまだ一ヵ月ちょっとあるし、マナのコントロールだけじゃなくて、魔法の練習もちょっとしたいんだよね」
「分かった。とはいえ、魔法の行使となると……こう、うまくイメージが作れるかっていうところで、ほとんど才能だからなー。あたいよりむしろ人間の術者に習う方がいいかも知れんが」
「イラストリアさんとかに教えてもらえたらなー」
「はは、無理だろ。あっちはいつカルパシィーが攻めてくるか分からん状態でドタバタ見てえだしな」
そう言っていたら後ろで声がした。
「その気配は……ナナちゃんが表だね! 調子はどう?」
「あれ。イラストリアさんとフューリアさん。どうしたんですか?」
「ええ。カルパシィーとの衝突に備えて、予めエリカ達がどんな動き出来るのかも確認しておこうと思ってね……というか王城下だとタイガとコンスタンの事もあって、気が休まらなくてね。ちょっと息抜きに来たってのが本音かも」
イラストリアが笑いながら言った。
「なんだよ。あたいがあんたらのボディーガードかよ……って言うか、勇者チームが今、王都放っておいて大丈夫なのか?」
エリカが表に出て茶化す。
「もう。ちゃんとワープポイント置いて来たから……エルフ軍も準備は進んでいるし、一応、次の勇者チームも編成されたから大丈夫よ。多分……」
「それじゃ、ここにいる間でいいんで魔法教えてくれませんか?」
いきなり表にナナが出る。
「わっ、ビックリした。ナナちゃんか……いいわよ。付き会ってあげる!」
こうしてナナは、短期間ではあるが、イラストリア達に直接魔法の指導を受ける事となった。
「そうか……そんな状況じゃったか。もしかしたら幹部連中にもカルパシィーの手が回っとったんかもしれんな。それでこれからどうする?」
「取り合えず、デルリアルや残った連中を再編して、いつでも動ける体勢は作りたい。カルパシィーの出方によっちゃ、協力も敵対もありうるだろうしな。
その上で今回、やっぱりあたいの肉体再生が重要な事が骨身に染みたぜ」
「じゃあエリカ。まだ当分、こっちの世界にいられる?」ナナが深層から問う。
「なんだナナ。何かあるのか?」
「あの……せっかくなので、もう少しこちらでマナの修行していい? こっちの世界のマナに慣れたなら、もう新幹線で京都・奈良の観光行き放題だよね?」
「はっ、上等だ。それじゃ新エリカ軍の再編作業に、もう少し付き合ってもらうとするか」
◇◇◇
「カルパシィー様、おめでとうございます。魔王エリカのカリスマもすっかり剥がれ落ちました。今やあなた様が魔族の盟主です」ヴィンセントがそう言う脇に、パイスバンも立っている。そしてエリカの元を離れた魔族幹部の大多数も同席し、宴会が催されていた。
やがて周りの一同に促されて、カスパシィーが前に出て語り始めた。
「皆さんのお陰で、ようやく魔族が一つにまとまりました。我々はこれから、エルフ・人間王国に攻め入り奴らを血祭に上げる段階に移ります。是非、最後までお力添えを。なに、今は勇者も戦士も倒れ、奴らも迎撃態勢は整っていません。
そう遠くない未来に、我々魔族がこの世界の頂点に立つ事でしょう」
「うおー! カルパシィー様、乾杯!!」
「乾杯!!」
カルパシィーの演説に、場内のあちこちから歓声が響いた。
「あーあ。来宮さん、戦う前に負けちゃったのか……ちょっと残念」
その光景を眺めながらそう言ったのは、うしろの壁際にいたリヒトだ。
すでに魔法の練習の成果が現れ、半身不随な自分の身体を自力である程度動かせるようになっており、車いすや杖なしで歩き回る事が出来るまでになっていた。
「ほら、調子に乗って歩きまわるな。お前が人間だと分かると面倒だぞ」
リヒトのそばにミルラパンが付き添っている。
「えっ。そうなの? 魔族の人はそんなの気にしないと思ったんだけど……。
マスタ……いや、エリカも来宮の身体に入ったりしてても一応魔王とは認められてたみたいだし」
「魔族はだいたい人間が嫌いなもんだろ。あいつらのお陰で住みづらい世になったんだ。しかしリヒトは、あのナナという人間をえらく気にしている様だが……あれに気があるのか? 同族だしな」
ミルラパンの問いに、リヒトが人差し指をミルラパンの口に押し当てて言う。
「そんな訳ないでしょ。僕の一番のお気に入りは君なんだから……」
「リヒト。おまえ本気で殺すぞ!」ミルラパンがすごんだ。
「はは、なんだか仲が良さそうですね」
そう言いながらカルパシィーがリヒトとミルラパンの所に歩み寄ってきた。
「マスター。冗談でもそういう事は言うな……」ミルラパンが険しい顔で言う。
「いや失敬、ミルラ。実は、君とヒリト君に頼みがあるんだ。私の主力の軍勢はすでにエルフ国内に侵攻させる準備に入っていて使えないが、是非、君たちでエリカに止めを刺してきてほしい。まあ、ほとんどの魔族はこちら側についたんでもうほとんど力は残っていないと思うのだが、念には念をという事でね」
「だけど、僕らだけじゃ、力不足じゃないですか? 見た目は来宮だけど中身は魔王エリカだし……」リヒトが薄ら笑いを浮かべながらそう言った。
「ふっ。だからこの人も手伝ってくれる。これなら、エリカと残りの勇者チームを屠れるだろ?」そう言うカルパシィーの後ろには、ヴィンセントが立っていた。
◇◇◇
エリカが自分に従ってくれる魔族達の再編をデルリアル達と行っている合間をみながら、ナナはマナコントロールの練習を続けていた。
「どうだナナ。もうこの世界のマナ濃度でも大丈夫そうか?」
「どうかな。まだ油断すると気持ち悪くなるけど……このくらい適応出来れば、あっちの世界なら問題ないかも」
「そっか。それじゃあたいの仕事も一段落したし、一度戻るか?」
「うーん。それもありだけど、もう少しこっちの世界に居てもいい? お母さんが施設出て来るまでまだ一ヵ月ちょっとあるし、マナのコントロールだけじゃなくて、魔法の練習もちょっとしたいんだよね」
「分かった。とはいえ、魔法の行使となると……こう、うまくイメージが作れるかっていうところで、ほとんど才能だからなー。あたいよりむしろ人間の術者に習う方がいいかも知れんが」
「イラストリアさんとかに教えてもらえたらなー」
「はは、無理だろ。あっちはいつカルパシィーが攻めてくるか分からん状態でドタバタ見てえだしな」
そう言っていたら後ろで声がした。
「その気配は……ナナちゃんが表だね! 調子はどう?」
「あれ。イラストリアさんとフューリアさん。どうしたんですか?」
「ええ。カルパシィーとの衝突に備えて、予めエリカ達がどんな動き出来るのかも確認しておこうと思ってね……というか王城下だとタイガとコンスタンの事もあって、気が休まらなくてね。ちょっと息抜きに来たってのが本音かも」
イラストリアが笑いながら言った。
「なんだよ。あたいがあんたらのボディーガードかよ……って言うか、勇者チームが今、王都放っておいて大丈夫なのか?」
エリカが表に出て茶化す。
「もう。ちゃんとワープポイント置いて来たから……エルフ軍も準備は進んでいるし、一応、次の勇者チームも編成されたから大丈夫よ。多分……」
「それじゃ、ここにいる間でいいんで魔法教えてくれませんか?」
いきなり表にナナが出る。
「わっ、ビックリした。ナナちゃんか……いいわよ。付き会ってあげる!」
こうしてナナは、短期間ではあるが、イラストリア達に直接魔法の指導を受ける事となった。