第31話 冬期講習

文字数 2,900文字

 期末テストでの赤点は何とか免れ、ナナは塾の冬期講習に向かった。
 塾は藤沢駅前にあり、全国的にも有名な大手で、無料講習という事もあってか、満員盛況だった。

 そんな中、いのりはつらかっただろうと思うが、なんとか田中に話をしたと、RINEが入った。
 
 すると、講習が終わった後の帰り際、一人の女子がナナに近づいてきた。
(こいつが、いのりが言ってた友達ってか?)

「あなた、来宮ナナさん? わたしは、加藤みゆり。
 長谷川いのりさんに聞いたんだけど、あなたもお金困ってて、長谷川さんと同じアルバイトしたいんだって?」

(ちっ。またアルバイトかよ……。
 リヒトといい、今の学生は仕事を何だと思ってんだ!
 まあ近頃は、闇バイトとか言っても実際は犯罪らしいしな……)

「うん。私、施設暮らしでお小遣いとか自由にならないし……。
 ウリなら前にもやった事があるよ」
「そう……でも、大丈夫よ。実際に身体は売らなくても……撮影だけだから……。
 今時、そんなんで足付いたら、ヤバいしね」

「……他にもいるの?」
「何?」
「このバイトしてる子、結構いるのかな?」
「さあね。せんせのサイトでも見て見たら……?
 まあ、三十人は下らないんじゃない?」
「そっか」

「それじゃ、三日後の午後一時に、長谷川といっしょに、あそこのコンビニの前に来てくれる? プロデューサーが迎えに行くから」
「あなたも来るの?」
「いいえ。私は、希望者を品定めするだけ。塾生で容姿がそれなりならOKよ。
 あなた、美人じゃないけど、ちっちゃくて可愛いし。
 プレイによってはマニア受けするわ」
「ははは……」

 ◇◇◇

 三日後。
 ナナといのりは、加藤みゆりが指定したコンビニの前にいた。

 ナナは、いのりに帰っていいと言ったのだが、いのりも、ナナ一人にはさせないと言ってくれた。本当は、いのりがいないほうがエリカが暴れやすいのだが、その気持ちがナナにはうれしかった。

 しばらくすると、黒いワンボックスカーが来て、中からサングラスに無精ひげの、見るからに怪しそうなおっさんが出て来た。

「君たちが今日のモデルさん? ああ、君は前に会った事あるね」
「あっ、プロデューサーさん。今日は宜しくお願いします」
 いのりが怒りを押し殺しながら慇懃に話しているのが分かる。

「で、こっちの子が、新しいモデル希望だね……なんかちっこくてリスっぽいね。
 あとで、衣装も工夫しようね」

 その後、二人は、プロデューサーを名乗る男と共に車に乗り、行きついたのはラブホテルだった。

「あの、プロデューサーさん。今日は、スタジオじゃないんですか?」
 いのりが恐る恐る尋ねた。

「ああ、君は初めてじゃないし、そっちのリスの子はウリもやってたって、みーちゃんに聞いたから……こっちのほうが、手っ取り早く稼げるよ!」

 いのりの顔が瞬時に強張ったが、ナナは平然といのりの手を強く握った。
「大丈夫……私に任せて……」

 ◇◇◇

 いやー。ラブホテルなんて、高橋以来か。ほんとに下品な造りだな。
 すでに表はエリカと入れ替わっており、ナナは深層で怒りのマナをチャージし始めている。

 部屋に入ると、男がいて、すでに撮影準備は完了しているようだ。

「田中先生。今日は宜しくお願いします……」
 いのりの言葉で、こいつが田中と分かる。

「いえいえ、長谷川さん。あなたから声をかけてもらってうれしいですよ。
 あなたのV、結構人気ありましてね。今日は渾身の一作にしましょうね。
 それにお友達も、幼女好きにはたまらない感じで、いいですね……」

 ほんとにクソ虫だぜ……どうやって地獄に落とそうか……。
 エリカは、マナが溜まるのを待ちつつ、魔力発動するタイミングを待った。

(おい、ナナ。ここにいる奴全員、いのり残して半殺しでいいんだな?)
(もちろん!)

 やがて、衣装が運びこまれ……って、なんだ?
 男共がぞろぞろ部屋に入ってきやがる。

「それじゃ、今日は、二対四って事で。
 いのりちゃんとリスちゃんは、上下のお口を使ってね!」

「ちょっと待って、先生! 本番行為は無しで、撮影だけじゃないんですか!」
 いのりが絶叫する。
「うん、でもリスちゃんは稼ぎたいみたいだし……。
 友達なら君も付き合いなよ!!」

(くそっ、ナナ。もう待った無しだ! 全員ぶっ飛ばすぞ!)
(うん、やっちゃってエリカ!)

「そんじゃあ、身体強(サイヤ…)……何!」
 魔力詠唱しかかって、途中でエリカがそれを中止した。
(ちょっと、どうしたのエリカ!)

 くそ、この気配……あいつらが近くに居やがる! ここで魔力使ったら……。
 エリカには、タイガとイラストリアがすぐ近くにいる様に感じられ、魔力を放つ事が出来ない。
 と言うより、表に出ている状態で、魔導探査(アクティブソナー)を打たれたらおしまいだ!

(だめだ、ナナ。替われ!)
(えっ! って……えーーーーーー!?)

 結局、ナナが表に出る事となり、エリカは深層から魔力を放つタイミングを伺う事になった。

(ちょっと、エリカ。どうしちゃったの? 
 これじゃ、私はともかく、いのりも犯されちゃうよー)
(すまん、ナナ。ちょっと事情があってな。
 心配するな、隙見て攻撃は放つから……)

 ナナといのりは、プロデューサーが指示したアニメキャラのコスに着替えさせられ、大きなベッドの上に転がされた。その周りには、若い男が四人で二人を取り囲み、股間をギンギンにさせていた。

「あっ……あっ……ナナちゃん、お願い。助けて……私まだバージンなのよ……」
 いのりが半泣きでナナにすがる。

(くそっ、エリカの準備が出来るまで、私が時間稼ぐしかないか……)
 意を決してナナが叫ぶ。

「プロデューサーさん! 最初は、私が四人相手じゃダメですか!?」

「えっ? ナナちゃん!?」 
 いのりもプロデューサーも周りの男たちもビックリしたようだったが、カメラを構えていた田中がいきなり甲高い声で笑いだした。

「くっははははははー。いいねいいねー、君。
 ウリをやってたって言うのは嘘じゃないみたいだね。
 そんじゃご要望通り、まずは一対四だ。
 もう、君壊れちゃっていいからさ……。
 せいぜいマニア受けする絵を撮らせてくれよな!
 おいお前ら。こいつがションベンちびろうがクソもらそうが構わんから、最上級の快感を喰わせてやれ!」
「おお!!」
 掛け声とともに、四人の男がベッドの上のナナに飛び掛かった。

(ちくしょー、間に合わねー……って、おや! 奴らの気配がねえ!
 くっそー、ようやくどっか行ったか……ナナ、待たせたな!
 そんじゃいくぞー……まずは、テレポートッ!!)

 その瞬間、長谷川いのりの身体が、部屋から消えた。
 
(お次は、お前らのメンタル、みんなぶっ壊してやる!!
 ギガイリュージョンドリーム!)

 しかし……様子がおかしい……。
(あれっ? 効いてねえ……マナが足りねえか?)

「エリカ、ダメだよ……なんか効いてない!」
 ナナが絶叫した次の瞬間! ものすごい衝撃がエリカの意識を襲った。

(うわっ! これは……賢者の精神攻撃か……。
 くそ、やつら撤退したフリして……。
 こりゃダメだ……ナナ……すまん……)
 
 そして、エリカは深層で意識を失った。


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