第51話 浄化

文字数 2,008文字

「あれー、おばあちゃん。結構やるねー。
 でも、幾らなんでもそろそろマナ切れるんじゃない?」

 芳野の攻撃を、サリー婆のマナを使ってフューリアが防御しているが、こっちはどんどんマナを消費しているのに、なぜかあちらにその様子は見えない。
「サリーさん。なんであっちはマナがあんなに……」
「ああ、今ゆっくり分析はしてられんが……。
 あやつ、自分の魂を削っているんじゃなかろうか。
 深層で魂がマナを生成するというのは、魂をマナに変換しているのかも知れんと常々考えておったのじゃが……。
 どうやらこやつは、すでにそのやり方を知っている様じゃ」

「えー。それじゃ、ナナちゃんに限らず、魔王が深層でマナ作るのもダメなんじゃないですか!」
「ああ、そうかもな。じゃが今はそれしか頼れん! 魔王。今の話聞いてたか?
 そう言う訳で、こっちももう持たん。早よなんとかせい!」

 ◇◇◇

 早よなんとかせいと言われても……。
 ナナの暴走を抑えながら、自分のマナを貯めるのは至難の業だぞ。
 だが、そうか。魂をマナに変換するってか。だが、こりゃバクチだな。
 あたいも悪霊化したりして……しかし、このままじゃ全滅だ。
 後の事はばばあに何とかして貰うとして、芳野はあたいが止めるしかないよな。
 
(ばばあ! 聞こえるか!!)
 エリカは念話でサリー婆と短い言葉を交わして、魔力の発動に入った。

「ナナ。すまんが、ちょいと手を離すぞ。お互い、後で無事に会おうな……
 えっと、あれの応用だよな……質量じゃなくて……魂欠損(ソウルデフィシエンシー)

 エリカがそう唱えた瞬間、それまでエリカが深層で作ったマナが、エリカの掌の上に収束した。そして、それにとどまらず、エリカの魂そのものからも光の帯が流れ出し、それも掌に収束していく。

 ほどなく、エリカの手の内に、マナが収束して出来た、サッカーボール大の光の玉が生成された。

「はは、意識飛びそう……でも、こんだけ集めりゃ……全浄化(オールピューリフィケーション)!」
 その声で、エリカの掌に集まったマナが爆裂飛散して、太陽の様に明るい光が深層から広がり、外の結界内までくまなく照らした。

「えっ? 何よこれ……」
 光は考える間も与えず、芳野やサリー婆、フューリアを飲み込んだ。

 ◇◇◇
 
「おーい魔王。生きとるか?」
「くそばばあ。自分の魔法で死んだりしねーよ。
 と言うか……ありがとうな。おかげでナナは深層でぐっすり眠ってる」
「ああ、お前の立っての願いじゃ仕方ない。お前の浄化で、ナナの周りの悪しきマナも吹っ飛んだ様だったんで、間髪入れずスリープをかけた……。
 これ、付けておくからな」
「ちっ、強欲ばばあ!」

「あの……敵はどうなりました?」
 ようやく視力が戻ってきたのか、フューリアが目をこすりながら起き上がった。

 結界はすでになく、ナナの昔の部屋の中で、芳野が仰向けに倒れていた。
 サリー婆が近寄って確認したが、芳野の魂は見当たらず肉体は事切れていた。

「あの浄化を食らったら、ネクロマンサーのつまらん細工や、恨みだけで動いていた悪しき魂など、一たまりもないじゃろう。
 恨みに囚われて我が身を亡ぼすとは……哀れな奴じゃ……。
 じゃが、そのマスターっちゅうのは、どこにおるんだい?」

「チュロスもそうだったが、自分の意のままに魂を動かせる様にして、それをあっちの世界から遠隔操作しているんだろうな。しっぽ捕まえんのも大変そうだぜ」
「そうじゃな。だが、芳野との接点はどこで……それは少し調べてみるわい」
「……頼むわ。ただし、無料でな……」

 ◇◇◇

 サリー婆によって、小平芳野は自室で病死という事で、表向き処理された。

 そして、ナナは……サリー婆はあれからスリープを解除していない。
 危険域まで魂の摩耗が進んでいるのではという危惧が払えず、有効な手立てが見つかるまで、このままで行こうとサリー婆に説得され、エリカは泣く泣く承諾した。
 あの時、魂そのものをマナに変換しているという実感が、エリカにも確かにあった。それ以来、気持ちの持ち様なのかも知れないが、エリカもなんとも気分がすぐれない。

 そして夜。
 部屋の冷房をキンキンに効かせて、エリカはナナに会いに深層に降りる。

 ナナの魂は、膝を抱えて丸まったまま深層で宙に浮いている。
 永続的なスリープ状態なので、冬眠(コールドスリープ)と言ってもいいだろう。
 
「ナナ。本当にごめんな。いい想いさせてやるって言っておきながら、こんなつらい目にばかり会わせちまって。
 お前がしゃべらねえのが、こんなに寂しいだなんて……。
 ああ、いけねえ。これでマナ作ったら、あたいも損耗しちまう。
 だが、こんなにつらいんなら、もうあたいの復活は置いといて、すぐナナに肉体を返してやった方がよほど楽なんじゃないか……。
 ナナは怒るだろうけど……今度ばばあに相談してみっか」
 
 そんな事を考えながら、エリカは、ナナの魂を優しく抱きかかえながら、ゆっくり頭を撫でてやるのだった。

(第三部・終 続く)
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