第33話 方法

文字数 2,873文字

「……成程な。
 ナナといのりを助けてくれて……タイガ、とりあえず礼を言うわ。
 それにしても、婆さん、あんた何者だ? 
 かなり高齢なエルフの様だが、秘めてる魔力も飛んでもねえしな」

「ふっ。天下の大魔王から褒められるとは、わしもまんざらでもないかいな。
 まあ、天海の名前で神君家康公にお仕えして以来、わしはずっとこの国で、陰の実力者として、時の為政者にアドバイスしていたもんでな。
 大抵の事は何とか出来るのさ……」

「ナナ。神君……って何だ?」
(よくわからないけど、確か昔の偉い人……。
 私、こないだも歴史は赤点スレスレで……)
「ま、いいや。で、あたいに話ってなんだよ?」

「ナナちゃんの事情は大体把握してる。でも、なんでお前が手を貸してる?
 弱きを助け、強きをくじくとか……魔王の所業とは思えんぞ」
 タイガが不思議そうに問う。

「ああん? そんなの当たり前だろうが! 
 魔族だろうが人間だろうが、越えちゃなんねえ一線てのはあるんじゃねえのか!? 
 だいたい、弱い奴守れない様で、魔王なんか務まるか!」

「うーん。なんで勇者が魔王に正義とか倫理見たいな事を説かれなければならんのか……まあいい。
 それで、お前。この身体をナナちゃんに返して、さっさと俺に成敗されろ!」

「そいつはお断りだ。あたいはナナと約束したんだ。
 三年間この身体を借りる替わりに、その間ナナに人としてのいい想いを出来るだけさせてやるってな! 今出ちまったら、ナナは本当にここで成仏しちまう……」

「でも、三年って……それ貴方の身体が復活する予定でしょ?」
 今度はイラストリアが問う。
「まあ、お見通しか……そうだよ。
 三年たったらまた自分の身体が復活するんで、そっちに戻る。
 その時点で、ナナも成仏する……」

「お前さー。せっかくここまでやったんだから、自分の身体に戻るのをあきらめて、ナナちゃんの生涯を全うさせてやろうとか思わない? 
 それなら、俺達も潔くお前の追討をあきらめるさ」

「無茶いうな。エルフやお前らの非道に、どれだけの魔族が泣かされていると思ってるんだ! ナナも大事だが、その同胞たちも同じ様に大事なの!」
「おい! 言うに事欠いて、勇者様に非道とか……」
「まあ、それは今は置いときな!」いきり立つタイガを、サリー婆がいなした。

「で、魔王エリカ。本当に三年後どうするんだい?」
 サリー婆が心配そうに尋ねる。

「……今は、わからねえ。とりあえず、三年後に部下の魔道師デルリアルと落ち合う事になってるんだが、その時にでもナナの事相談しようかと……安全のため、お互いの居場所はギリギリでないとわからねえ様にしちゃったし……」

「まったく……呆れた楽観主義者ね。ナナちゃん。あなたはどうなの?」
 イラストリアの問いに、ナナが表に出て答えた。
「私は、エリカの方針でいい。もともと自殺を選んだのは自分だし、今の生活は、ラッキーな延長戦みたいなものだと思ってる。文句を言える立場にない」
「そんな……」

「イラストリア。それで相談なんだが……」
 またエリカが突然表に出て、イラストリアはちょっとびっくりした。
 こんなにコロコロ入れ替われるんだ……。

「お前、賢者だろ? 何かいい方法とか無いのかよ。あったら教えて欲しい。
 もしナナの魂が、ちゃんと身体に戻れるって言うんなら、事と次第によっちゃあ、あたいは、あんたらに滅ぼされても文句は言わねえ!」

「ふーん、言い切ったわね。
 まあ、有るっちゃ有るんだけど……真っ当な方法じゃないわよ?
 でも、あなたが滅んでもいいって言うなら、教えてあげないでもない……」
「もったいぶるな!! 早く教えろ! 魔王に二言はねえ!」

(ダメ! エリカ。私の為に誰かが犠牲とか……もう、うんざりだよ!!)
(ナナ……)

「あー。すまんイラストリア。ナナが、あたいが犠牲になるのはダメだって……」
「あー、そうか。そうなっちゃうよね。ごめんナナちゃん」
 そう言って、イラストリアはだまってしまった。

「じゃが……知識としては教えておいた方がいいんじゃないか? 
 半端な知識で無茶をされても困るじゃろ?」
「サリーさん……そうですね。それじゃ、魔王エリカ。ナナちゃんに免じて、方法は教えます。どうするかは、来たるべきその日まで、ナナちゃんとよっくよく相談して下さい!」
「おうっ!! 分かったぜ」

 ◇◇◇

「反魂の術って聞いた事ある? 
 まあこれは、魔法って言うより、陰陽道とか呪術・錬金術の領域なんだけど……
 分離しちゃった魂を特定の器に戻す儀式よ」

「いや。聞いた事はねえ。でも、魂を器に戻すって事は……」
「そうよ。それでね、その術を施す時に、賢者の石ってのが必要なの」
「賢者の石……それは聞いた事あるぞ。
 お前らはそれが造れて初めて賢者を名乗れるんじゃなかったっけ?」

「そう。よく知ってたわね」
「やったー! それなら解決じゃねえか! イラ。お前が賢者の石作ってくれて、その……反魂の術ってのをやれば、ナナは……」

「あわてないで……その賢者の石が問題なのよ。
 あなた、あれをどうやって作るかは知らないわよね?」
「ああ……」
「あれはね。魂が原料なの。しかもとびっきり純粋な……。
 賢者の石の精度が悪いと、そもそも蘇生率というか生着率がめちゃくちゃ悪くて、下手をすると、戻したいものが悪霊やアンデッドになっちゃう……」

「つまり……ナナをよみがえらせる為に、だれか純粋な奴の魂が必要という事か。
 ……それで、あたいの魂ならって思ったのかよ!?」
「魔王が自分を純粋って言うかな。でも、まあそう言う事よ。まあ、ナナちゃんくらい純粋な魂ならGR等級の賢者の石が出来るかもしれないけど、あなたじゃね。
 それに、さっきのナナちゃんの考えだと、誰かを犠牲にってのは難しいかもね」

「そうだな……でも、ありがとう。ちょっと時間かけて考えてみるわ……」
「あなたにありがとうとか言われると……なんか気持ち悪いわね」
「ほっとけ!」

 その時だった。
 突然、ドゴーンという激しい空間振動が、その場にいた全員を襲った。

「うわっ! なんじゃこりゃ!? 気持ち悪いー」タイガが悶絶した。
 エリカもイラストリアもサリー婆も同様に、激しい悪寒に襲われた。

「何? 今の……ようやく落ち着いてきたけど……エリカ。あんた何かした?」
 イラストリアがエリカに向かって文句を言った。

「いや、あたいじゃねえ……これ、何かのマナ波動だ」
「そうじゃな。それも、かなりここから離れた発信源みたいだが、それでこの邪悪さとは……魔王でも渡って来たのか?」
「あたいは、ここにいるっちゅうの!」

「ババ様。俺とイラでちょいと見てきますわ。何か嫌な予感がする。
 イラ、大体の発信位置は判かるよな?」
「ええ、任せて」

 そう言って、タイガとイラストリアは、マナ波動の発信源目指して外に飛び出して行った。

「魔王エリカ。あんたも今日は、ナナちゃんと家に帰りな。
 もう身バレしてるんだ。今後の事はあらためて……な」
「ああ、分かった」

 そうして、エリカは白樺堂を後にして、帰路についた。


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