第30話 真相

文字数 2,386文字

 結局、あの黒板の落書は、不特定の男子の悪ふざけとして処理され、書いた本人は名乗り出なかった為、数日後にはクラスは何事もなかったかの様に落ち着いた。

 もちろん、クラス内でエリカが一発ぶちかましたのも大きかっただろう。
「嘘じゃねえってんなら、ちゃんと名乗り出ろ! 
 匿名の奴が何言っても事実とは認めねえ」と。 

 そして、長谷川いのりが、事の真相をナナに話してくれたのは、あの公園の日から、一週間後の事だった。

 事の発端は、夏期講習の時、いのりが塾の友人から、いっしょに読者モデルをやってみないかと誘われた事だった。
 コンビニとかでも販売されている有名なティーンズ向けファッション誌で、採用されるかどうかは分からないけど、オーディションみたいな形で自由に参加出来るとの事だった。
 高校生の女子なら、誰でもこういうものにあこがれて不思議はないだろう。
 いのりも二つ返事で、参加表明をした。
 
 撮影オーディション当日。
 指定されたスタジオに行くと、そこにはプロデューサーという人と、なぜか塾の田中先生がいた。なんでも、このプロデューサさんと田中先生が旧知の仲で、田中先生も写真撮影の腕前がプロ級という事で、アルバイトでこの仕事もしているという話だった。

 TVでよく見るアイドルの衣装や、アニメキャラのコスなど、十数点の衣装が用意されていて、いのりはそれを順番に身に着け、田中先生がそれを次々撮影していった。

 水着もどうかと言われたが、さすがにそれはとお断りして、その日は帰宅した。

 二週間位して、先日のやつは雑誌に採用されなかったが、惜しかった。
 もう一度応募してみないかと、田中先生からお誘いがあった。
 撮影した写真を田中先生にもらったが、自分が見ても結構イケている様に思え、悔しいので、再度チャレンジした。

 そして今度は水着にもなった。

 でも、やはり本採用にならなかったと連絡があった。
 さすがに自分では読者モデルは無理か……そう思い、田中先生が三度目の話を持って来た際、丁重にお断りした。
  
 そうしたら、田中先生は、とんでもないものを、いのりに見せた。

「これって……私が着替えている時の……ビデオ録ってたんですか!?」
「ああ、メイキングも必要だからね」
「でも、そんな話、一言も……それにこの録り方……下着も丸見え……。 
 あっ! じゃ、水着に着替えた時は!?」
「ああ……ちょっと待って……これかな?」

 何よこれ、全部丸見えじゃない! 

「先生! これって……」
「長谷川さん。大丈夫。心配いらないよ。ご両親には分からないから。
 それに、僕に協力してくれれば、お小遣いもあげられるし、志望校のランク上げも容易いしさ」

「それって……塾の成績だけいじるんですか?」
「はは。親が喜べば、君も何かとやりやすいだろ? 君の両親、うるさいもんね。
 あとは君が頑張って成績を上げて、いい大学に入ればいいだけさ」

 そして、それから……長谷川いのりは、塾講師田中の言いなりになった。

 ◇◇◇
 
「その田中って奴。絶対許さない……」ナナは全身を怒りで震わせている。
 おーおー、これならいざって時には、マナには困らなそうだ。

 長谷川いのりには、対策を考えるからと言って、今日の所は帰ってもらい、ナナはエリカと対応を協議する。

「出来れば、いのりの事は表沙汰にしたくない。どうすればいいと思う?」
「でもよー。それ、麻美と違った意味で、親の責任もあるんじゃね? 
 そんなに進学が大事かね。
 それよりも娘が活き活きと生活する方がどんだけいいか、分かってねえよな。
 ま、何にせよ、そのまま事が発覚すると、いのりと親はうまくいかないだろうけど、親にも何等かのケジメつけてえな。
 その塾の先公のほうは、地獄に送りゃいいんだが……」

「両親には、事実でなくていいので、なんか夢落ちで悟らせられない? 
 塾の方は……その田中だけじゃなくて、誘った子も怪しいし、どんだけ同じ様に苦しんでる子がいるかもわかんない。迂闊に田中だけ吊るしても、もっと悪い奴がいるのかも知れない」
「夢落ちは……悪くねえな。でも、例の夢魔の悪夢しか見せらんねえぜ? 
 あれ、かなりショッキングなんだけど……。
 そんで塾の方だが、様子探るにしても……ナナ。お前が潜入出来ねえかな?」

「そっか。両親の教育は多少やりすぎでも仕方ないか。子供のためだし……
 それで、塾に潜入する件だけど……お金かかるよね?」

 さすがに、今のナナの立場で、塾の費用まで出してほしいとは、施設にも吉村さんにも言えない。試しにいくら位かかるものなのか、いのりに聞いてみたが、やっぱり払えそうにない。だが、その時、いのりから冬休みなら無料体験講習というのがあると聞いた。

 それだ!
 
 学校で落書きされた事を、いのりが田中に伝えたら、ほとぼりが冷めるまでという事なのか、幸いにもあれから撮影のお誘いは来ていないらしい。 
 だがナナが田中と接触するには、いのりの協力が不可欠だ。
 つらいだろうが……とお願いした所、いのりは快く橋渡しを引き受けてくれた。

「多分、私が再開したいと言ったら、あいつはまた撮影を再開すると思う。
 その時、友達も連れて行きたいと言えば……。
 それで、あいつ、どうも塾の中でターゲットを探している様でね。
 つらかったけど、あいつが動画上げてるサイト見てみたの。
 そしたら見た事のある子が何人も……。
 身元も割れているし、脅しやすいんでしょうね。
 だから、あなたが何を考えているのか分からないけど……絶対無茶はしないでね、ナナちゃん!」

「大丈夫だよ。私、こう見えても本気になったら強いんだよ! 
 だいたい、私に恐喝なんてまったく効果ないし……」

(まっ、強いのはあたいなんだが……でも、実際にはナナのマナを使うか……。
 だが、あいつらだけには、マジで気を付けないとな)

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