第37話 新年

文字数 985文字

 ケルベロスとの戦いから数日で年が明けた。

 テイマーとケルベロスをこちらの世界に送り込んだ事について、サリー婆は大変ご立腹で、エルフ国王を直接詰問して懲罰を課すと息巻いて、ヴィンセントを生き証人として連行の上、タイガさん達と本国に戻ったのだが……皆まだ帰って来ない。

 ナナの身体は、イラストリアに復元してもらった手足も特に問題もなく……と言うより、昔から気になっていたアザや切り傷痕も綺麗に無くなっていて、前より状態が良いみたいだ。

 今日、ナナは、相模原にあるNPOの施設に、新年のあいさつも兼ねて、母親の麻美に面会に来ている。
 麻美も、以前とは大分様子が変化して来ていて、とげとげしさが無くなり、会話もゆっくりで、本当に優しい目でナナを見てくれる様になった。
 それだけでもナナは大満足なのだが……。

 施設を後にして、電車に乗りながらナナは思索する。

 エリカと出会って、もうすぐ一年か……あと、二年。
 イラさんの言ってた方法は、他人に犠牲を強いるものなので、絶対取りたくはないのだが、お母さんの顔を見ちゃったせいか、今日はいつもより、もっと生きていたいという気持ちが強い様な気がする。

 エリカも深層で、そのナナの気持ちは強く感じている様で、事あるごとに、デルリアルにも、何か方法が無いかちゃんと聞くからと言ってくれる。

 はは。私、このままだと、自殺した事、後悔しちゃうかな……いや、もうしてる?

 駅の改札を出たら、中山先輩ら、書道部のメンバーが待っていた。
 これからみんなで鶴ケ丘八幡宮に初詣に行く予定なのだ。

 長谷川いのりも、もちろん参加している。

 あの後、エリカが夢魔の悪夢をいのりの両親に見せ、進学に限らず、もう少し娘の好きな様にやらせてくれる様、強要したのが効いているのだとは思う。

(この人達とも、いつか……)
(ナナ! そんなに気に病むな。このエリカ様が絶対何とかしてやるからさ。
 お前と百合百合すると、マナが作り放題なのもわかったし、絶対なんとかなるさ。いやっ、あたいは別に、お前と百合百合したいわけじゃないからな!)
(はは……エリカ。ツンデレ!)

 でも、そうだよね。
 なんかエリカが言うと、本当に出来そうな気もするし……。
 どっちに転ぶにしても、私は、今を精一杯楽しむだけだ!

 そう思いながら、ナナはトントンと八幡宮の石段を登っていった。

(第二部・終 続く)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み