第55話 魔女っ娘ナナ?

文字数 2,244文字

 サリー婆が手をまわしてくれて、ナナは施設から白樺堂に引っ越しをした。
 卒業後はここに就職するという触れ込みである。
 そして時を同じくしてフューリアも引っ越して来た。

「それじゃ、スリープ解除するぞ。魔王は深層で監視していてくれ」
「分かった。婆さん、お互い慎重にな」
 そしてエリカは深層に潜り、ナナの様子を見守る。
 外からフューリアが支援してくれており、深層の二人の周辺にはちゃんと魔法防壁(マジックバリア)が張られ、ナナが不用意にマナに触れない様備えている。
 サリー婆がスリープを解除し、凍った様に見えたナナの魂がだんだん色を帯びて、生気が戻って来た様に思える。

「ん……あっ……あれっ? 私……ここって……エリカ?」
「ああ、あたいだよ。おはようナナ」
 あはは、もう……三ヵ月ぶりだぜ。って、ここで感極まっちゃまたマナ作っちまう。冷静に、冷静に……。

「ナナ、気分はどうだ?」
「うん大丈夫。でもすっごく寝ていた気がするけど……いまどうなってるの? 
それに……芳野は?」
「ああ、ちゃんと説明してやるさ。
 でも分かってるだろうが、くれぐれも興奮するなよ!
 それでなくても外でばばあとフューリアが懸命にサポートしてくれてんだ」
「わかった。深呼吸するね」

 そしてエリカは、ナナが興奮しない様、顔色を伺いながらゆっくりと今までの経緯を説明した。

「そうなんだ。芳野はもう……。
 でもひどいよエリカ。私は、私の方がこの身体出て行くって言ったじゃない。
 なんであなたが出て行く話になっているのよ。それに反魂の術は嫌だって……」
「まあまあ、そう興奮するなって。結局、反魂の術はすぐには出来ねえんだ。それにお前を引っこ抜く方法も不明だ。
 ただあたいは和議・停戦の準備の為に、魔族連中を取りまとめにあっちに一度行かなくちゃなんねえ。それにはお前の身体で行くしかねえんだが、あっちはそれこそ春日大社の比じゃねえくらいマナが濃い。そこでまたお前が影響を受けちまうと大事なんで、いっそお前自身でマナをコントロールしてもらおうって言うのが、フューリアが考えた作戦なんだよ」

「ふーん。でもそうか。私が自分でマナの流れをコントロール出来れば、京都も奈良も新幹線も問題なくなる?」
「ああ、そういうこった。だからお前にはこれから魔法を習ってもらう!」
「うはー。なんかドキドキしてきた。でも……私に出来るのかな?」
「だから興奮すんなって。まっ、勇者チームにゃ入れないだろうが、身体の表面や深層を流れるマナさえコントロール出来れば、マナの影響は受けにくくなるだろうし、魂の摩耗も防げるはずだ。当面のスキル目標はその辺だな。マナのコントロール自体は魔法の基礎みたいなもんだし、難易度はD級ってところかな」

「そうなんだ。それじゃ私、頑張ってみるよ。はは、子供の時から魔法少女はあこがれだったんだ! マジカルトゥインクルーって、可愛い服に変身するの」
「いや……そういうのは、マナがコントロール出来る様になってからチャレンジしてくれ」

 ◇◇◇

「そうそう! さすがマナ触った事あるだけに飲み込み早いねー」
 白樺堂でマナのコントロール練習をするナナを指導しながら、フューリアが感心しきりだ。

 ナナが自身でマナをコントロール出来る様にと練習をはじめて早一ヵ月。
 サリー婆が疑似的に作ったマナの流れをキャッチして取りまとめる練習を行った事で、ナナは自分の周辺のマナをかなり自在に集められる様になって来ている。
 ただし、白樺堂の外に出てしまうと突発的状況にはまだ対応出来ない可能性があり学校も通えないので、家庭の事情という事で休学届を出している。
 まあ夏休み中にエリカが補習を頑張ったお陰で、来年の卒業に支障は出ない見込みだ。

「そろそろ。集めたマナを使う練習してもいいかも」
 フューリアの言葉にナナが反応する。
「それって、魔法使うって事ですか?」
「そうそう。でもマナさえちゃんとコントロール出来れば、後は何というか……具体的なイメージ?」

「はあ? それは一体?」
「例えば、相手に水魔法で攻撃する場合、具体的に相手に水をぶっかけるイメージを想像して、そのイメージに沿ってマナをこねくり回す様な感じかな?」
「はは……全然ピンときません」

(当たり前だ。すぐに出来てたまるかよ! 何事も一歩ずつだぜ)
 深層でエリカがつぶやくが、魔王のクセにいつもこうした堅実な物言いをする。
 まっ、そりゃそうよね。ナナもそうは思う。
 
「それじゃ、フューリアさんもイラストリアさん達も最初はこうやって練習していたんですか?」ナナの問いにサリー婆が答えた。
「そうじゃ。普通は二、三年マナコントロールの基礎をやってから、適性に合わせて得意なものの習得に分化していくんじゃ。イラストリアなどはそれこそ二十年以上かけて修行し賢者になっとる。タイガもひたすら身体能力強化に取り組んだんじゃ。
 じゃがナナよ。お前才能あるぞ。ちゃんと修行したら将来、勇者パーティーも夢じゃないかも知れん」
「はは……こっちの世界じゃマナが使えてもあんまり役に立たないですよね? 
 でも、私にもそんな才能があったんだ。ちょっとうれしいかも」

「それに……魔法の具現化には確かにイメージが大事なんじゃが、想いも重要でな。
 人の強い想いが魔法を強化する事もある。今まで人一倍苦労してきたお前なら、そうした想いをうまく魔力化出来るかもな」
「……頑張ります」
 サリー婆の言葉に励まされた様な気がして、ナナの魔法練習には一層力が入っていった。


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