第32話 捕縛
文字数 2,256文字
「……という訳で、連れてきました。サリーさん、いかがですか?
中に魔王は潜んでますかね?」タイガが恐る恐る、サリー婆に尋ねる。
先日の川原の公園の一件以来、ナナが魔王エリカと何等かの繋がりがあると確信したタイガとイラストリアは、より慎重にナナとその周囲を探る事にしていた。
そして今日。
あろう事か、ナナは何かヤバイ罠にはまり、その身に危険が迫った。
タイガはすぐに助けに入ろうとしたのだが、イラストリアが、ギリギリまで待てと止め、その甲斐あって、魔王の魔力発動を検知。
すかさずジャミングを発動してその魔力を相殺し、精神攻撃で無力化を図った。
その後、タイガがラブホテルの部屋に突入し、その場にいた男共を全員、半殺しにし、長谷川いのりは、外にあったワンボックスカーにいて無事だった。
そしてナナを白樺堂まで連れて来て、後始末を含め、サリー婆に相談した所だ。
「ふー……とりあえず、ホテルにいた馬鹿どもは、あたしが社会的に葬るよ。
もう一人の女の子も無事に家に帰したけど……料金は、あんたらにつけとくね。
そんで、この子が問題の子かい。どれどれ……」
ナナは、今、何が起きているのか全く理解出来ていない。
あの後、深層のエリカが全く反応しなくなり、自分は部屋に飛び込んで来たタイガに助けられた事だけは分かる。それに……このおばあさんが、この前、タイガさんが会ってほしいっていってた人か……不思議な感じの人。
「……うーん。これは……」
ナナの様子をしばらく伺いながら、サリー婆は何度も首をかしげている。
「サリーさんでも分かりませんか?」イラストリアが、不安そうに尋ねる。
「いや……これは……何と言ったらいいか……。
この子、もう死んでるよ!」
「えっ!?」タイガとイラストリアが仰天した。
「いやね。確かに魂の尾は切れているんだが、魂が自分の身体に引っ付いている。
こんなの見た事ないよ。これじゃ、地縛霊なら身縛霊だね……」
「そんな……それって一体???」
「あのー。皆さんが何のお話をされているのかは分かりませんが……。
私が死んじゃっているのは本当です」
ナナの言葉に、一同がさらに驚く。
「なんと! あんたはその自覚があるのかい?」婆が尋ねた。
「はい。私、一年位前に自殺したんです。
その時、身体を貸してくれって、魔王エリカがやって来て、身体を取られたはずだったんですが、なぜか私の魂も一緒に身体に入っちゃって……」
「ちょっと待ってよ。そんなナンセンスな……」
「あんたはおだまり!!」サリー婆が、タイガを叱責した。
「なるほど、そういう事かい。そんで、魔王は今どうしてるんだい?」
「えーっと。よくわかんないんですけど。私の深層でノビてるみたいです……」
「そうかそうか……よく話してくれたね。
それじゃ、こちらもちゃんと事情を説明せんといかんな」
こうして、サリー婆とタイガ、イラは、自分たちの目的をナナに打ち明け、ナナも今までのエリカとの経緯を三人に説明した。
◇◇◇
タイガとイラストリアが、あちらの世界から、エリカを追ってきた勇者パーティーと知ったナナの驚きは相当なものだったが、ナナと出会ってからのエリカの行動に、二人もかなり驚いた。
「ナナちゃんが、以前ひどい目にあっていたのは、それとなく知ってたけど……。
なんで魔王エリカが、そんなヒーローみたいな事やってんの?」
タイガの疑問は、イラストリアも同じだ。
「そうよね。今日の事だって、お友達を助けようとしてたんでしょ?」
「そう……。
でも今思うと、エリカは早くからタイガさん達の事に気づいていたみたい。
それで、ずっと見つからないように、深層に隠れてて……」
「しかし、魔王ともあろう者が一体なんで?」
「……多分、私に同情してくれたんだと思うんですが……」
「ふうっ、そうだね。
そのうち目が覚めるだろうから、その辺はそん時直接本人に問い正せばいい。
だが、一つ大事な事があるよ、お前たち」
サリー婆が、タイガとイラストリアに語った。
「今の状態で、エリカを引きはがせば、このナナちゃんは死体だよ!
たぶん、エリカが魂をこの肉体に憑依させるために使った術式が、この子の魂に対しても糊の役割をしてるんだと思う。
それが失われれば、この子の魂はこの体にいられない。
遠からず、成仏しちまうよ」
「!!」タイガとイラが息を呑んだ。
「そんな……こんなに心の優しい子が……なんでそんな目に!?
何か打つ手はないんですか!?」
タイガが涙ながらに、サリー婆に食ってかかる。
「そりゃ、まっとうな方法では無理だわい。
すでに死んでしまっているのだから……」
「そうですよね……まっとうな方法では……」
イラストリアも悲観げな口ぶりで言う。
「あっ! 目が覚めた様です。それじゃ、ちょっと替りますね……」
そう言ってナナは深層のエリカと入れ替わった。
「……まったく、一体何が……くそっ、頭痛え……って、あれっ!?
勇者タイガ! それにイラストリアまで……。
しまった! 捕捉された!?
早いところ、深層に引っ込まないと……」
(エリカ、落ち着いて……ごめん。もうバレちゃってるから……)
「えっ? ナナ……お前何で……」
「魔王エリカ。とにかく落ち着いてくれ。
すぐにお前をどうこうしようという訳じゃねえ!
とにかく……今は、お前と話がしたいんだ!」
そう語るタイガに殺気は感じられず、ウソを言っている訳ではなさそうだ。
そしてサリー婆が、ホテルからここまでのいきさつをエリカに説明した。
中に魔王は潜んでますかね?」タイガが恐る恐る、サリー婆に尋ねる。
先日の川原の公園の一件以来、ナナが魔王エリカと何等かの繋がりがあると確信したタイガとイラストリアは、より慎重にナナとその周囲を探る事にしていた。
そして今日。
あろう事か、ナナは何かヤバイ罠にはまり、その身に危険が迫った。
タイガはすぐに助けに入ろうとしたのだが、イラストリアが、ギリギリまで待てと止め、その甲斐あって、魔王の魔力発動を検知。
すかさずジャミングを発動してその魔力を相殺し、精神攻撃で無力化を図った。
その後、タイガがラブホテルの部屋に突入し、その場にいた男共を全員、半殺しにし、長谷川いのりは、外にあったワンボックスカーにいて無事だった。
そしてナナを白樺堂まで連れて来て、後始末を含め、サリー婆に相談した所だ。
「ふー……とりあえず、ホテルにいた馬鹿どもは、あたしが社会的に葬るよ。
もう一人の女の子も無事に家に帰したけど……料金は、あんたらにつけとくね。
そんで、この子が問題の子かい。どれどれ……」
ナナは、今、何が起きているのか全く理解出来ていない。
あの後、深層のエリカが全く反応しなくなり、自分は部屋に飛び込んで来たタイガに助けられた事だけは分かる。それに……このおばあさんが、この前、タイガさんが会ってほしいっていってた人か……不思議な感じの人。
「……うーん。これは……」
ナナの様子をしばらく伺いながら、サリー婆は何度も首をかしげている。
「サリーさんでも分かりませんか?」イラストリアが、不安そうに尋ねる。
「いや……これは……何と言ったらいいか……。
この子、もう死んでるよ!」
「えっ!?」タイガとイラストリアが仰天した。
「いやね。確かに魂の尾は切れているんだが、魂が自分の身体に引っ付いている。
こんなの見た事ないよ。これじゃ、地縛霊なら身縛霊だね……」
「そんな……それって一体???」
「あのー。皆さんが何のお話をされているのかは分かりませんが……。
私が死んじゃっているのは本当です」
ナナの言葉に、一同がさらに驚く。
「なんと! あんたはその自覚があるのかい?」婆が尋ねた。
「はい。私、一年位前に自殺したんです。
その時、身体を貸してくれって、魔王エリカがやって来て、身体を取られたはずだったんですが、なぜか私の魂も一緒に身体に入っちゃって……」
「ちょっと待ってよ。そんなナンセンスな……」
「あんたはおだまり!!」サリー婆が、タイガを叱責した。
「なるほど、そういう事かい。そんで、魔王は今どうしてるんだい?」
「えーっと。よくわかんないんですけど。私の深層でノビてるみたいです……」
「そうかそうか……よく話してくれたね。
それじゃ、こちらもちゃんと事情を説明せんといかんな」
こうして、サリー婆とタイガ、イラは、自分たちの目的をナナに打ち明け、ナナも今までのエリカとの経緯を三人に説明した。
◇◇◇
タイガとイラストリアが、あちらの世界から、エリカを追ってきた勇者パーティーと知ったナナの驚きは相当なものだったが、ナナと出会ってからのエリカの行動に、二人もかなり驚いた。
「ナナちゃんが、以前ひどい目にあっていたのは、それとなく知ってたけど……。
なんで魔王エリカが、そんなヒーローみたいな事やってんの?」
タイガの疑問は、イラストリアも同じだ。
「そうよね。今日の事だって、お友達を助けようとしてたんでしょ?」
「そう……。
でも今思うと、エリカは早くからタイガさん達の事に気づいていたみたい。
それで、ずっと見つからないように、深層に隠れてて……」
「しかし、魔王ともあろう者が一体なんで?」
「……多分、私に同情してくれたんだと思うんですが……」
「ふうっ、そうだね。
そのうち目が覚めるだろうから、その辺はそん時直接本人に問い正せばいい。
だが、一つ大事な事があるよ、お前たち」
サリー婆が、タイガとイラストリアに語った。
「今の状態で、エリカを引きはがせば、このナナちゃんは死体だよ!
たぶん、エリカが魂をこの肉体に憑依させるために使った術式が、この子の魂に対しても糊の役割をしてるんだと思う。
それが失われれば、この子の魂はこの体にいられない。
遠からず、成仏しちまうよ」
「!!」タイガとイラが息を呑んだ。
「そんな……こんなに心の優しい子が……なんでそんな目に!?
何か打つ手はないんですか!?」
タイガが涙ながらに、サリー婆に食ってかかる。
「そりゃ、まっとうな方法では無理だわい。
すでに死んでしまっているのだから……」
「そうですよね……まっとうな方法では……」
イラストリアも悲観げな口ぶりで言う。
「あっ! 目が覚めた様です。それじゃ、ちょっと替りますね……」
そう言ってナナは深層のエリカと入れ替わった。
「……まったく、一体何が……くそっ、頭痛え……って、あれっ!?
勇者タイガ! それにイラストリアまで……。
しまった! 捕捉された!?
早いところ、深層に引っ込まないと……」
(エリカ、落ち着いて……ごめん。もうバレちゃってるから……)
「えっ? ナナ……お前何で……」
「魔王エリカ。とにかく落ち着いてくれ。
すぐにお前をどうこうしようという訳じゃねえ!
とにかく……今は、お前と話がしたいんだ!」
そう語るタイガに殺気は感じられず、ウソを言っている訳ではなさそうだ。
そしてサリー婆が、ホテルからここまでのいきさつをエリカに説明した。