第58話 今度はお前だ
文字数 2,170文字
エルフ王宮から少し離れた森の中の一軒家。
エリカが魔族を疑ったエルフ女性が、複数の男達と会話をしていた。
「はい……あれが来宮ナナですね。間違いなく顔を見ました。それに勇者タイガ、賢者イラストリア。先々代国王のサリー……問題ありません」
「それでは、ゆっくりと彼らを分断していきましょう。頼みましたよミルラパン。
それとヴィンセント君も、僧侶フューリアをよろしくお願いします」
「はっ、カルバシィー様!」
ミルラパンとヴィンセントがカルバシィーの前から下がり、脇の椅子に座っていた男がカルバシィーに話掛けた。
「カルバシィーさんの作戦はすごいですね。僕はこっち側についてよかったです。
やっぱり人生は勝ち馬に乗らないと……」
「いやいやリヒト君。君も相当なタマだよ。エリカ達とあそこまで絡んでおいて、どの面さげて私に面会を求めたのかとは思ったが……なるほど、君の魂は並みの悪魔の比ではない位、闇が深そうだ。ともあれ君は、あの二人がうまく行かなかった時の保険だよ。君なら来宮ナナを一発で壊せるだろうさ。
それまでは、せいぜい自身の身体を操る魔法の訓練でもしていてくれたまえ」
◇◇◇
エリカ達は、デルリアルと今後の進め方を打ち合わせるため明日魔族のアジトに向かう事にした。以前途中で戦士コンスタンが襲われた事もあり、今度は勇者チームもまとまって行動する予定だ。
タイガ達勇者チームは、エリカやサリー婆たちと宿で別れた後、エルフ王都内の自分達の下宿に戻る途中だった。下宿は王宮のお濠のすぐそばで、他の勇者チームメンバーも皆近所に住んでいる。そしてイアラストリアとフューリアをちゃんと自宅まで送り届けて、タイガが自分の部屋に帰ろうとした時、後ろから呼び止められた。
そして後ろを見ると、フューリアが立っていた。
「なんだフュー? なんか忘れ物か?」
「…………」
「どうした? 黙ってちゃわからんぞ」
「…………死んで」
「何?」
その瞬間、タイガの背後に多数の光の刃が湧き出て来たかと思うと、即座にタイガの身体を貫いた。
「ぐはっ!! ……おい、これ……」
タイガがしぶとく抵抗を試みるが、体が動かない。
見ると拘束魔法で手足が縛られており、数か所に鉄球が付いている。
「フ、フュ……」
「……二度と現れないで……」
フューリアがそう言い、ふらついていたタイガをポンと押すと、タイガはそのまま脇の濠に落下し、水しぶきをあげて水中に落下したまま浮いてこなかった。
周りに目撃者がいないことを確かめ、フューリアはその姿をエルフ女性に変えた。
いや、彼女がフューリアに変身していたというのが正解だろう。
彼女の名前はミルラパン。一度見た相手に寸分たがわず変身する事が出来るドッペルゲンガーという種の魔族だ。
「これで二人……出来れば今日中にあと一人……」
そしてミルラパンは、その足でイラストリアの部屋を目指した。
◇◇◇
トントン。
部屋の戸がノックされ、イラストリアが対応する。
「どなた?」
しかし返事がないので、マナの流れでドアの向こうの様子を探る。
「えっ!? ナナちゃん?」
あわててドアを開け声をかける。
「ちょっと、ナナちゃん。どうしたのこんな夜中に一人で?
ああ、いや魔王もいっしょか。とにかく中に入って!!」
そう言いながらイラストリアはナナを部屋に招き入れ、応接に座る様に言った。
「とりあえず、お茶入れるね」
そういってイラストリアが台所に行こうと振り返った瞬間、タイガの時と同じ様に、多数の光の刃が空中に発生し、イラストリアの背中目掛けて飛んだ。
ドカッドカッと刃がイラストリアの身体を貫く。
「……完了……」
ミルラパンがそう言って、玄関に向かおうとした時、後ろから声がした。
「何が完了なのかな?」
「!?」
ミルラパンが振り返ると、身体に複数の刃が貫通したままのイラストリアが、ちょっと怖い笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「な……平気なの?」
「まあ、ほんとに刺さってたら死んじゃうけど……まあ、目が見える人ってそうなのよね。見えたものが本物と信じちゃう」
「くっ! 幻覚か!! どこで気が付いた!?」
「えーっとね。玄関先でマナの流れをたどった時。だってあなた全然魔王の気配しないんだもの。こんだけマナがあれば、私はあいつが深層に隠れていても分かるわよ!
だから最初から警戒してたの!」
「まったく。これだから眼の見えない賢者は厄介なんだ! フルソード!!」
ミルラパンがそう言うと、イラストリアの部屋中にあふれんばかりの刃が現れ部屋中を乱舞した。
「あーちょっと。こんな物量作戦なんて卑怯よ! まぐれで当たったらどうするのよ!」
自分の眼にはイラストリアの実体は見えていなかったが、あの話の流れなら部屋のどこかにはいたのだろう。そう叫ぶイラストリアを尻目にミルラパンは脱出に成功した。
賊を取り逃がしたのは残念だが、本当にナナにそっくりだった。眼で見ていたら、多分見分けが付かなかっただろう。もしかしたら、コンスタンもこれでやられた?
そう考えたイラストリアは、その足でフューリアを叩き起こしてタイガの下宿に向かったが、そこにタイガはいなかった。
「ちょっと待ってよ。まさかあいつまでやられちゃったとか……それにしても、何でこっちの動きがこんなにバレバレなのよ」
エリカが魔族を疑ったエルフ女性が、複数の男達と会話をしていた。
「はい……あれが来宮ナナですね。間違いなく顔を見ました。それに勇者タイガ、賢者イラストリア。先々代国王のサリー……問題ありません」
「それでは、ゆっくりと彼らを分断していきましょう。頼みましたよミルラパン。
それとヴィンセント君も、僧侶フューリアをよろしくお願いします」
「はっ、カルバシィー様!」
ミルラパンとヴィンセントがカルバシィーの前から下がり、脇の椅子に座っていた男がカルバシィーに話掛けた。
「カルバシィーさんの作戦はすごいですね。僕はこっち側についてよかったです。
やっぱり人生は勝ち馬に乗らないと……」
「いやいやリヒト君。君も相当なタマだよ。エリカ達とあそこまで絡んでおいて、どの面さげて私に面会を求めたのかとは思ったが……なるほど、君の魂は並みの悪魔の比ではない位、闇が深そうだ。ともあれ君は、あの二人がうまく行かなかった時の保険だよ。君なら来宮ナナを一発で壊せるだろうさ。
それまでは、せいぜい自身の身体を操る魔法の訓練でもしていてくれたまえ」
◇◇◇
エリカ達は、デルリアルと今後の進め方を打ち合わせるため明日魔族のアジトに向かう事にした。以前途中で戦士コンスタンが襲われた事もあり、今度は勇者チームもまとまって行動する予定だ。
タイガ達勇者チームは、エリカやサリー婆たちと宿で別れた後、エルフ王都内の自分達の下宿に戻る途中だった。下宿は王宮のお濠のすぐそばで、他の勇者チームメンバーも皆近所に住んでいる。そしてイアラストリアとフューリアをちゃんと自宅まで送り届けて、タイガが自分の部屋に帰ろうとした時、後ろから呼び止められた。
そして後ろを見ると、フューリアが立っていた。
「なんだフュー? なんか忘れ物か?」
「…………」
「どうした? 黙ってちゃわからんぞ」
「…………死んで」
「何?」
その瞬間、タイガの背後に多数の光の刃が湧き出て来たかと思うと、即座にタイガの身体を貫いた。
「ぐはっ!! ……おい、これ……」
タイガがしぶとく抵抗を試みるが、体が動かない。
見ると拘束魔法で手足が縛られており、数か所に鉄球が付いている。
「フ、フュ……」
「……二度と現れないで……」
フューリアがそう言い、ふらついていたタイガをポンと押すと、タイガはそのまま脇の濠に落下し、水しぶきをあげて水中に落下したまま浮いてこなかった。
周りに目撃者がいないことを確かめ、フューリアはその姿をエルフ女性に変えた。
いや、彼女がフューリアに変身していたというのが正解だろう。
彼女の名前はミルラパン。一度見た相手に寸分たがわず変身する事が出来るドッペルゲンガーという種の魔族だ。
「これで二人……出来れば今日中にあと一人……」
そしてミルラパンは、その足でイラストリアの部屋を目指した。
◇◇◇
トントン。
部屋の戸がノックされ、イラストリアが対応する。
「どなた?」
しかし返事がないので、マナの流れでドアの向こうの様子を探る。
「えっ!? ナナちゃん?」
あわててドアを開け声をかける。
「ちょっと、ナナちゃん。どうしたのこんな夜中に一人で?
ああ、いや魔王もいっしょか。とにかく中に入って!!」
そう言いながらイラストリアはナナを部屋に招き入れ、応接に座る様に言った。
「とりあえず、お茶入れるね」
そういってイラストリアが台所に行こうと振り返った瞬間、タイガの時と同じ様に、多数の光の刃が空中に発生し、イラストリアの背中目掛けて飛んだ。
ドカッドカッと刃がイラストリアの身体を貫く。
「……完了……」
ミルラパンがそう言って、玄関に向かおうとした時、後ろから声がした。
「何が完了なのかな?」
「!?」
ミルラパンが振り返ると、身体に複数の刃が貫通したままのイラストリアが、ちょっと怖い笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「な……平気なの?」
「まあ、ほんとに刺さってたら死んじゃうけど……まあ、目が見える人ってそうなのよね。見えたものが本物と信じちゃう」
「くっ! 幻覚か!! どこで気が付いた!?」
「えーっとね。玄関先でマナの流れをたどった時。だってあなた全然魔王の気配しないんだもの。こんだけマナがあれば、私はあいつが深層に隠れていても分かるわよ!
だから最初から警戒してたの!」
「まったく。これだから眼の見えない賢者は厄介なんだ! フルソード!!」
ミルラパンがそう言うと、イラストリアの部屋中にあふれんばかりの刃が現れ部屋中を乱舞した。
「あーちょっと。こんな物量作戦なんて卑怯よ! まぐれで当たったらどうするのよ!」
自分の眼にはイラストリアの実体は見えていなかったが、あの話の流れなら部屋のどこかにはいたのだろう。そう叫ぶイラストリアを尻目にミルラパンは脱出に成功した。
賊を取り逃がしたのは残念だが、本当にナナにそっくりだった。眼で見ていたら、多分見分けが付かなかっただろう。もしかしたら、コンスタンもこれでやられた?
そう考えたイラストリアは、その足でフューリアを叩き起こしてタイガの下宿に向かったが、そこにタイガはいなかった。
「ちょっと待ってよ。まさかあいつまでやられちゃったとか……それにしても、何でこっちの動きがこんなにバレバレなのよ」