第68話 反魂の術
文字数 3,293文字
タイガがカルパシィーに操られたナナの肉体を追って、エリカの肉体培養をしているデルリアルのラボに着いた時、すでにナナの動きが停止していた。
「おお、間に合ったか? 俺がカルパシィーやっつけたから止まったんじゃね?」
「違いますよ。よく見て下さい」そう言ったのはリヒトだ。
「ん。君は誰だ?」タイガはリヒトと会った事がない。
「あなたこそ誰です? 僕は望月理人。魔王エリカのブレーンです」
「へえ、そうなんだ。って、おい! なんでナナちゃんがもう一人いるんだよ!」
みるとリヒトの後ろにもう一人、来宮ナナが立っていた。
「おお、ミルラパン殿か。まさか二人同時存在の状態にして動きを止めたのか?」
デルリアルがそう言った。
「まあ、そういう事です。だからミルラも動けないんで、早くそっちの来宮さんを拘束して下さい」リヒトがそう言うが、タイガはどうしていいのか分からない。
「えっ、いや……まあ。でも拘束っていっても……イラストリアは?」
「いや、賢者殿は今は魔法が……」デルリアルも困惑していた。
「仕方ないのう。わしがやろう」そう言ってサリー婆が部屋に入ってきた。
「おお婆さん。助かる!」
「助かるじゃないわい! お前がいない間、どれだけの犠牲が出た事か。まったく、今までどこほっつき歩いてたんだい。まあ、見当はつくがの。これも有料じゃぞ」
そう言いながらサリー婆がナナにコールドスリープを施し、ナナの肉体と魂は活動を停止した。
しばらくしてイラストリアも部屋に入ってきたが、デルリアルの部下達と、割れた魔鏡の破片を集めて持ってきていた。
「それでカルパシィーは?」サリー婆がイラストリアに尋ねた。
「はい。間違いなくタイガが討ち取りました。そして確認しましたが、確かに人間で、ネクロマンサーの能力で肉体と魂を維持していた様です」
「そうか。それにしても、この破片が魔王か……なんとも情けない事になったのう。これで魂は復活出来るのか? デルリアル殿」
「ちょっと……すぐには見当がつきませんな」
「サリーさん。これからどうしましょう」
イラストリアがサリー婆に話かける側で、タイガがぐずっている。
「ねえ。なんでみんな俺の事聞いてくれないのー。
こうして無事に戻って来て、間一髪だけど活躍したのにー」
「ええい。うるさいわい。どうせ復活の石とか言うんじゃろ?」
「ありゃ。婆さん知ってたか。まあそりゃそうか。昔国王だったんだしな」
「復活の石?」イラストリアもそんなもの聞いた事はない。
「ああ。魔王を倒した実績のある勇者にのみ与えられるマル秘アイテムでな。
どんなにぐちゃぐちゃな状態で死んでも、一度だけ中央礼拝堂で蘇る事が出来るんじゃ」
「へー。って、なんで私にまで秘密なのよ。
それに復活したんならさっさと出てこい!」
「いや。これ持ってるの他人に分かっちゃうと効果ないらしくて……それに復活した後、元の形になるまで結構かかるんだよー」
「それでイラストリア。デルリアル殿。エリカの魂がこの状態では、こやつの復活は当面望み薄かもしれん。だから、ナナに反魂の術を施そうと思うのじゃがどうだろう? カルパシィーも倒れた事だし、魔族とエルフの和議はわしらで何とか出来そうにも思うのじゃが」
「そうですね。それが魔王様の御意思でもありましたし……そうであれば、魔王様用にとってあった賢者の石を提供しますし、反魂の術も私が行いましょう」
デルリアルがそう答え、タイガやイラストリアもそれを承知した。
そしてマナの流れに都合がいい一週間後の月齢の時、デルリアルがナナに反魂の術を行う事で、その場のメンバーが同意した。
◇◇◇
「エルフ王国のほう何とかなりそうじゃぞ」
いったん王城に帰り、今後の話を国王としてきたサリー婆が、デルリアルのアジトに戻ってきた。
「わしも意外じゃったんだが、前にパイスバンと一騎打ちした時のナナの姿が、えらくエルフ共の印象に残っとった様で、ナナが仲介してくれるなら国民も納得するとか言っておった」
「へー。すごいな来宮さん。一気に陰の実力者か……あこがれちゃうなー。
いや、そうでもないか。僕は、何不自由なく平和に暮らせればそれでいいや」
「大丈夫だリヒト。私がいつでも来宮ナナに化けてやる」
「いやー、それはちょっと……でも、お願いしちゃおうかな」
バカップルの様になっているリヒトとミルラパンを遠目に見ながら、
イラストリアはずっと考え込んでいる。
「あれ賢者さん。すっと浮かない顔してるよね。せっかく平和になるのに……もしかしてエリカの事が気になっている?」リヒトの言葉にイラストリアが反応した。
「ほんとにあんたは嫌な奴よね。そうよ! まあ和議はいいけど、このままじゃエリカがちょっと可哀そうかなって。それにナナちゃんもすっごく怒ると思うんだ」
「でもさ。エリカの肉体は残ったんでしょ? 魂だって粉々だけど無くなった訳じゃないし……まあすぐでなくても、何とか出来ないの?」
「そうは言ってもねー。魔鏡ってそんなに長い事魂を置いておけないらしいのよ。だからこのまま何もできずにタイムアウトの可能性もあるの」
「そんでエリカの肉体の方はどうなのよ。あと何年くらいかかるの?」
タイガがそれとなくイラストリアに尋ねる。
「はは。私も気になってこの間Dさんに聞いたんだけど……まだ赤ん坊みたいだよ」
「はい!? ははは、そりゃ傑作だ。でもさ、赤ん坊なら魂全部でなくて、割れた奴少し使って戻したほうが早いんじゃねえの? いや、冗談冗談……」
「いや……タイガ。ちょっと待って……そうか! その手があるか。
ごめん。私ちょっとDさんのところ行って来るわ!」
そう言ってイラストリアは小走りに部屋を出て行った。
◇◇◇
反魂の術当日。
サリー婆と、応援で駆け付けたエルフの魔導士たちが、マナをコントロールする結界を形成し、慎重にナナを冬眠から解除した。
ナナの自我はまだ正常ではない様だったが、術に支障はないし、ちゃんと復活すれば自我も戻るとのデルリアルの見解で、そのまま反魂の術が施された。
寝台の上に仰向けに拘束されたナナの身体の上に賢者の石が置かれ、デルリアルが詠唱を開始した。徐々に周りのマナが渦を巻く様に周りだし、どんどん賢者の石に収束していくのが分かる。イラストリアはその様子を、固唾を飲んで見守った。
そして賢者の石が蒸発するかのように光に形を変えて消えていき術が完成した。
五分位たっただろうか。
いきなりナナがパチリと目を開けた。
「どうやら成功ですな」そう言って、デルリアルがぺたんと床に座り込んだ。
周りで見ていた者たちが一斉に駆け寄る。
「ナナちゃん。気分はどうだ? 俺の事分かるか?」
タイガの声に、ナナがゆっくり目線をその方に向けた。
「あっ、タイガさん……あれ? 無事だったんですか?」
「あ、ああ。大丈夫。心配かけたな。でも、もう大丈夫だから!
君も生き返ったんだよ! よかったなあ……」
「えっ!? それって……あれ、私なんで裸なの!?
いや、そうじゃなくて、エリカは? エリカはどうしたのよ!?
私、エリカを……エリカの入った鏡をこわしちゃった……」
「まずは落ち着くんじゃナナ。気分はどうじゃ? マナは気にならんか?」
「あーサリーさん。そんなのどうでもいいんです! エリカはどうしたんですか!?
これって、反魂の術ですよね? まさかエリカは……」
「まったく、エリカエリカって……エリカは君のお母さんか恋人かい?」
そういいながらリヒトが前に出て来た。
「望月理人! またあんたが何か!?」ナナはきっとリヒトを睨みつける。
「うわー、おっかないなー。大丈夫だよ。もう君にはつっかからないって。
それで、君の大好きなエリカだけど……賢者さん、入って来ていいよ」
その声で、イラストリアが部屋に入ってきたが、その手には赤ん坊を抱いていた。
「ナナちゃん……これが……この子がエリカよ」
イラストリアが目に涙をうかべながらそう言った。
「えっ!? ええっーーーーーー!?」
ナナは自分の眼玉が飛び出たのではないかと思うくらい驚いた。
「おお、間に合ったか? 俺がカルパシィーやっつけたから止まったんじゃね?」
「違いますよ。よく見て下さい」そう言ったのはリヒトだ。
「ん。君は誰だ?」タイガはリヒトと会った事がない。
「あなたこそ誰です? 僕は望月理人。魔王エリカのブレーンです」
「へえ、そうなんだ。って、おい! なんでナナちゃんがもう一人いるんだよ!」
みるとリヒトの後ろにもう一人、来宮ナナが立っていた。
「おお、ミルラパン殿か。まさか二人同時存在の状態にして動きを止めたのか?」
デルリアルがそう言った。
「まあ、そういう事です。だからミルラも動けないんで、早くそっちの来宮さんを拘束して下さい」リヒトがそう言うが、タイガはどうしていいのか分からない。
「えっ、いや……まあ。でも拘束っていっても……イラストリアは?」
「いや、賢者殿は今は魔法が……」デルリアルも困惑していた。
「仕方ないのう。わしがやろう」そう言ってサリー婆が部屋に入ってきた。
「おお婆さん。助かる!」
「助かるじゃないわい! お前がいない間、どれだけの犠牲が出た事か。まったく、今までどこほっつき歩いてたんだい。まあ、見当はつくがの。これも有料じゃぞ」
そう言いながらサリー婆がナナにコールドスリープを施し、ナナの肉体と魂は活動を停止した。
しばらくしてイラストリアも部屋に入ってきたが、デルリアルの部下達と、割れた魔鏡の破片を集めて持ってきていた。
「それでカルパシィーは?」サリー婆がイラストリアに尋ねた。
「はい。間違いなくタイガが討ち取りました。そして確認しましたが、確かに人間で、ネクロマンサーの能力で肉体と魂を維持していた様です」
「そうか。それにしても、この破片が魔王か……なんとも情けない事になったのう。これで魂は復活出来るのか? デルリアル殿」
「ちょっと……すぐには見当がつきませんな」
「サリーさん。これからどうしましょう」
イラストリアがサリー婆に話かける側で、タイガがぐずっている。
「ねえ。なんでみんな俺の事聞いてくれないのー。
こうして無事に戻って来て、間一髪だけど活躍したのにー」
「ええい。うるさいわい。どうせ復活の石とか言うんじゃろ?」
「ありゃ。婆さん知ってたか。まあそりゃそうか。昔国王だったんだしな」
「復活の石?」イラストリアもそんなもの聞いた事はない。
「ああ。魔王を倒した実績のある勇者にのみ与えられるマル秘アイテムでな。
どんなにぐちゃぐちゃな状態で死んでも、一度だけ中央礼拝堂で蘇る事が出来るんじゃ」
「へー。って、なんで私にまで秘密なのよ。
それに復活したんならさっさと出てこい!」
「いや。これ持ってるの他人に分かっちゃうと効果ないらしくて……それに復活した後、元の形になるまで結構かかるんだよー」
「それでイラストリア。デルリアル殿。エリカの魂がこの状態では、こやつの復活は当面望み薄かもしれん。だから、ナナに反魂の術を施そうと思うのじゃがどうだろう? カルパシィーも倒れた事だし、魔族とエルフの和議はわしらで何とか出来そうにも思うのじゃが」
「そうですね。それが魔王様の御意思でもありましたし……そうであれば、魔王様用にとってあった賢者の石を提供しますし、反魂の術も私が行いましょう」
デルリアルがそう答え、タイガやイラストリアもそれを承知した。
そしてマナの流れに都合がいい一週間後の月齢の時、デルリアルがナナに反魂の術を行う事で、その場のメンバーが同意した。
◇◇◇
「エルフ王国のほう何とかなりそうじゃぞ」
いったん王城に帰り、今後の話を国王としてきたサリー婆が、デルリアルのアジトに戻ってきた。
「わしも意外じゃったんだが、前にパイスバンと一騎打ちした時のナナの姿が、えらくエルフ共の印象に残っとった様で、ナナが仲介してくれるなら国民も納得するとか言っておった」
「へー。すごいな来宮さん。一気に陰の実力者か……あこがれちゃうなー。
いや、そうでもないか。僕は、何不自由なく平和に暮らせればそれでいいや」
「大丈夫だリヒト。私がいつでも来宮ナナに化けてやる」
「いやー、それはちょっと……でも、お願いしちゃおうかな」
バカップルの様になっているリヒトとミルラパンを遠目に見ながら、
イラストリアはずっと考え込んでいる。
「あれ賢者さん。すっと浮かない顔してるよね。せっかく平和になるのに……もしかしてエリカの事が気になっている?」リヒトの言葉にイラストリアが反応した。
「ほんとにあんたは嫌な奴よね。そうよ! まあ和議はいいけど、このままじゃエリカがちょっと可哀そうかなって。それにナナちゃんもすっごく怒ると思うんだ」
「でもさ。エリカの肉体は残ったんでしょ? 魂だって粉々だけど無くなった訳じゃないし……まあすぐでなくても、何とか出来ないの?」
「そうは言ってもねー。魔鏡ってそんなに長い事魂を置いておけないらしいのよ。だからこのまま何もできずにタイムアウトの可能性もあるの」
「そんでエリカの肉体の方はどうなのよ。あと何年くらいかかるの?」
タイガがそれとなくイラストリアに尋ねる。
「はは。私も気になってこの間Dさんに聞いたんだけど……まだ赤ん坊みたいだよ」
「はい!? ははは、そりゃ傑作だ。でもさ、赤ん坊なら魂全部でなくて、割れた奴少し使って戻したほうが早いんじゃねえの? いや、冗談冗談……」
「いや……タイガ。ちょっと待って……そうか! その手があるか。
ごめん。私ちょっとDさんのところ行って来るわ!」
そう言ってイラストリアは小走りに部屋を出て行った。
◇◇◇
反魂の術当日。
サリー婆と、応援で駆け付けたエルフの魔導士たちが、マナをコントロールする結界を形成し、慎重にナナを冬眠から解除した。
ナナの自我はまだ正常ではない様だったが、術に支障はないし、ちゃんと復活すれば自我も戻るとのデルリアルの見解で、そのまま反魂の術が施された。
寝台の上に仰向けに拘束されたナナの身体の上に賢者の石が置かれ、デルリアルが詠唱を開始した。徐々に周りのマナが渦を巻く様に周りだし、どんどん賢者の石に収束していくのが分かる。イラストリアはその様子を、固唾を飲んで見守った。
そして賢者の石が蒸発するかのように光に形を変えて消えていき術が完成した。
五分位たっただろうか。
いきなりナナがパチリと目を開けた。
「どうやら成功ですな」そう言って、デルリアルがぺたんと床に座り込んだ。
周りで見ていた者たちが一斉に駆け寄る。
「ナナちゃん。気分はどうだ? 俺の事分かるか?」
タイガの声に、ナナがゆっくり目線をその方に向けた。
「あっ、タイガさん……あれ? 無事だったんですか?」
「あ、ああ。大丈夫。心配かけたな。でも、もう大丈夫だから!
君も生き返ったんだよ! よかったなあ……」
「えっ!? それって……あれ、私なんで裸なの!?
いや、そうじゃなくて、エリカは? エリカはどうしたのよ!?
私、エリカを……エリカの入った鏡をこわしちゃった……」
「まずは落ち着くんじゃナナ。気分はどうじゃ? マナは気にならんか?」
「あーサリーさん。そんなのどうでもいいんです! エリカはどうしたんですか!?
これって、反魂の術ですよね? まさかエリカは……」
「まったく、エリカエリカって……エリカは君のお母さんか恋人かい?」
そういいながらリヒトが前に出て来た。
「望月理人! またあんたが何か!?」ナナはきっとリヒトを睨みつける。
「うわー、おっかないなー。大丈夫だよ。もう君にはつっかからないって。
それで、君の大好きなエリカだけど……賢者さん、入って来ていいよ」
その声で、イラストリアが部屋に入ってきたが、その手には赤ん坊を抱いていた。
「ナナちゃん……これが……この子がエリカよ」
イラストリアが目に涙をうかべながらそう言った。
「えっ!? ええっーーーーーー!?」
ナナは自分の眼玉が飛び出たのではないかと思うくらい驚いた。