第41話 喪失

文字数 2,804文字

 翌日、林陽介は部活を休み、貯めていたお年玉を全て降ろし、制服から私服に着替えて川崎に向かった。
 目指すは、チュロスが務めているソープランドだ。
 
 自分は未成年であるし、もちろんこうした行為はいけない事だと重々承知している。学校にバレたら、マジで停学もありうるだろう。
 だが、どうしても、ナナへの思いに整理を付けたいと思った。このまま、もんもんと過ごすより、一皮むけて大人の階段を上った方が楽になりそうな気がした。
 それにチェリーさんは、ちょっとナナ似の小柄で可愛い女性だ。
 これなら自分の童貞をかける価値があるに違いないと、強く感じていた。

 貰った名刺には、事前に予約してねと書いてあったので、会社員を装って店に電話し、チェリーさんの予約を入れた。そして川崎駅から小走りに、人目をはばかる様に一気に店に入った。もちろん、こんな店に入るのは初めてだ。もう、心臓のバクバクが止まらない。
 
 やがて、店の人が陽介を個室に案内してくれた。
 そしてそこには、メイド服姿のチェリーさんが座っていた。

「あはー。早速来てくれてありがと! どうこれ、可愛い? 
 君を振った娘がウェイトレスさんだって言ってたから、それに近い衣装にしたんだ!」
「はい、すっごく可愛いです!」
「うん、素直でよろしい! 
 それじゃ、どうする? リードしたい? されたい?」
「あの……俺、初めてなもので……どうするのか教えて下さい!」
「うんうん。それじゃ、ゆっくり教えてあ・げ・る・・・」

 そう言って、チュロスは、陽介を立たせたままズボンとパンツを降ろした。

 ◇◇◇

「どーお? 気持ちよかった?」
「は、はい……でも、すいません。なんかすぐに出ちゃって……」
「ドンマイ、ドンマイ。あなた位の年齢ならそんなものよ。
 それに復活も早いし、回数で元とったんじゃない?」
「そうでしょうか……」

「ま、これで少しは大人の男目線で、女の子を見られる様になるかもよ。
 それでまた女の子好きになって、振られて、ヤケになってまた私の所に来ていいんだからね!」
「はい。そうします……」
「そうだぞ少年。もっと男を磨け!」

 店を出て、川崎駅に向かう途中、陽介はずっと、ぼーっとしていた。
 この世のものとは思えない体験とは、こういう事なのだろうか。
 実際のところは、チュロスが張り切りすぎて、ちょっと彼の精気を吸い過ぎただけなのだが……。

 でも十八時で予約入れていたので、まだ二十時過ぎだ。
 自分はまだ発情してしまっているのだろうか。
 陽介は、なぜか無性にナナの顔が見たくなった。

 ぼーっとする頭を抱え、本能に導かれて、ナナの務めるファミレスに着いたときは、二十一時を過ぎていた。はは、さすがにバイトは上がっちゃってるよな。
 陽介が、あきらめて帰ろうとした時、後ろから声がした。

「おや、あんたは?」
 陽介が振り返ると、そこにナナが立っていた。
 どうやら、バイトが終わって帰る所の様だ。

「あ、ナナさん。ごめん。こんな時間に迷惑だよね……」
「別に、あんたが襲ってきても負けはしないけどな。
 というか、どうしたんだい? 顔が真っ青だぜ。
 まるでサキュバスにでも精気根こそぎ吸われたみたいじゃねーか」

 あれ? ナナさんって、普段はこんな乱暴な物言いなんだ。
 でも、確かに根こそぎ吸われちゃったかもな。
 ぼーっとそんなことを考えていたら、突然、足元がぐるりと周りだし、林陽介は、その場に倒れ込んでしまった。

「おい、お前! しっかりしろ!!」

◇◇◇

 店の中からマネージャーが出て来て、救急車呼ぼうかと言ったが、意識はあり、見たところちょっと疲れているだけみたいだったので、店の奥で休ませてもらった。

(林君、どうしちゃったんだろう? どこか具合悪いのかな)
(いやー。この感じ、どこかで……というより、この魔力であってマナじゃないこの感じ。やっぱあれだよな)
(あれって?)
(いや、子供は知らんくていい……うん、そうか! 
 もしかしてあいつが近くにいるのか!)
(あいつって?)
(ああ、あいつって言うのは……いや、ここはこの陽介のメンツを立てよう。
 とにかく、こいつの回復を待とうぜ)
(何よ、もったいぶって……)

 砂糖をたっぷり入れた紅茶を飲ませていたら、陽介の顔にだんだん赤みが戻ってきた。どうやら意識もはっきりしてきたようだ。

「もう、話していいか? なあ、林君……あんたどこでエッチしてきた?」
「えっ!?」突然のエリカの言葉に、陽介もナナもビックリした。

「あ、いや、ナナさん……なんでそれを……」
 陽介は、悪事がバレた悪代官のように、すっかりうなだれてしまった。
「いや、別にエッチした事を責めてる訳じゃないんだ。その、エッチした相手の事が知りたい。相手は人間か?」

(ちょっと、エリカ、どういう事よ。林君、混乱してるよ。落ち着いて……)
(ちっ、しょうがねえな)

 エリカは、両手で陽介の手を握り懇願した。
「お願い、林君。あなたがエッチした相手の事を教えて! 
 その人、生き別れた私のお姉さんかも知れないの!」

(ちょっと、エリカ。いくらなんでも、無茶ぶりだよ!)
 だが、ナナの心配をよそに、陽介はぼそぼそと語りだした。
「そうなんだ……どうりでナナさんにちょっと似てると思った。
 俺、ここに行ったんだ」
 そう言いながら、陽介は名刺をエリカに渡した。

(よっしゃ。情報ゲットだぜ! こいつの意識が混乱していて助かったな)

「ほら、林君! 男の子が風俗でエッチしたくらいで、あたいは全然気にしないからさ! また、ジャージャー麺食べに来てよね! もう一人で帰れるよね?」

 エリカはそう言って、陽介をファミレスから帰した。そして早速、名刺の店に電話をかけ、妹のエリカだと言って、チェリーを呼び出して貰った。


「えー! 本当に魔王様ですかー! ま? いや、どうして私の事が?」
「ああ……お前サキュバスだろ? 名前は?」
「私、チュロスです。覚えてませんか? 
 デルリアルのじいさんの所で、実験手伝ってたチュロスですぅ」
「おー。なんという幸運! まさか馴染みの奴だったとは。それで、チュロス、急ぎ話があるんだが、他の奴らには知られたくない。お前個人の連絡先教えてくれ」

 そしてエリカはチュロスとお互いの連絡先を交換し、マメに連絡を取り合う事とした。

「へー。サキュバスが風俗に務めてるんだ……それで、林君が偶然それにあたったと……」
「はは、ナナ。まあいいじゃないか。あいつも健全な男子ってこった。
 それにしてもこんなラッキーそうそう無いぞ」
「そうなの?」
「ああ、あいつらサキュバスは、あっちとこっちの世界を自力で渡れるんだ。
 これでデルリアルと連絡が取れるぞ!」
「あっ、そうなんだ……」

 陽介の風俗通いにちょっと釈然としないナナではあったが、これで自分の将来の見通しも立つかも知れないと思い直し、素直に陽介に感謝する事にした。


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