第45話 傀儡
文字数 2,538文字
目の前で動いているチュロスがもう死んじまってるって……どういうこった?
それに、風景はそのままで、周囲に人や車の気配が全く無い。これは、あのケルベロスの時と同じで、結界が張られているのだろうが、サキュバスがこれほどの結界を作れるとは、あたいも認識を改めないといけないな。
でもこれ、ほとんど陽介の精気から作ったんだろ?
はやくチュロスから引き離さないと、ほんとにあいつ命が危ねえな。
(ナナ、マナのほうはどうだ?)
(はは、ごめん。なんかまだ興奮しちゃってて。
もう少ししたら気持ちも落ち付くと思うから)
(なんだよ……。
さっきの陽介の先っぽの感触をオカズに、自家発電してもいいんだぞ!)
(エリカの馬鹿!)
「あー、魔王。あんまり私の援護はあてにしないでねー。もうマナカプセルも無いんだー。でも殺られないでねー。あんたにとどめを刺すのは私なんだから」
フューリアが、後ずさりして距離を置きながら言う。
「うっせー。こいつにもお前ら勇者達にも殺られねえよ!
なーに、マナ使えなくても何とかなる様、フィジカルもかなり鍛えたんだぜ!」
とはいうものの、エリカが間合いを詰めるとそれに伴いチュロスは陽介を盾にしたまま後ろに下がり、なかなか間合いが詰まらず、エリカの攻撃も届きそうにない。
「えーい。エリカ様―。死んじゃえー!!」
チュロスの掛け声とともに、いきなり空中に雷鳴がとどろき、エリカめがけて電撃が落ち、紙一重でエリカがそれを躱す。
「チュロス。バカ野郎! それサキュバスの技じゃねーだろ!」
しかし、雷、炎、氷とチュロスは次々と攻撃魔法を放ってくる。
こんなん、どう考えてもおかしいぞ。こいつ本当にチュロスなのか?
(どうする。そのうち奴の精気エネルギーが切れるか?
いや、その前に陽介がお陀仏だな)
「おい、チュロス。お前、死んでるってどういう事だよ?
それに仮にそうだとして、どうしてあたいに刃向かうんだい?
だいたい陽介は関係ねえだろ。もう離してやれよ。そいつも死んじまうぞ!」
「はは……もうこの身体、自分の意思で動かないんですよー。それに魂縫い付けられてるんです。もう苦しくて苦しくて……早く、エリカ様を葬って、私も楽になりたいのー!!」
バガーーン!!
今までにない大きさの雷撃が足元に落ちた。
何だって? 身体が自由に動かねえだと……じゃあ誰が動かしてんだ?
…………ちっ、そういう事か。だが、それだと……。
(エリカ……マナ、大分溜まったと思うよ!)
(おおナナ、よくやった。ひとりエッチでも貯められんじゃん!)
(エリカの馬鹿!)
「そんじゃ、チュロス。済まねえな。あたいに力が無いばっかりに、あんたに辛い思いさせちまった。本当にごめん……反重力 !!」
その瞬間。陽介の身体が宙に浮きあがって、どんどん上昇し、やがてチュロスは陽介を掴んでいられなくなり手を離した。
そしてエリカが一気に間合いを詰め、チュロスを砂浜に押し倒した。
「く、雷撃!!」
チュロスが呪文を唱えるが、エリカには効いていないようだ。
「無駄だよ、チュロス。もう、魔法障壁 も完成してんだ。
なあ……もう、戻れないのか?」
「あ……ああー。エリカ様。後生です。このまま灰にして下さい。
この身体では、私は生き続けられません……」
チュロスの頬に一筋の涙が光った。
「そうか……それじゃ、最後にいいか?
お前をこんなにした奴は一体どこのどいつだ?」
「それは……ひゃっ!!」
言いかけたチュロスの身体が、青白く光りだした。
「まずい! 離れろ!」
エリカが言い終わらないうちに、チュロスの身体が大爆発を起こした。
「畜生……なんて事をしやがる……」
爆風が収まったところで、フューリアが駆け寄ってきた。
陽介は……ああ、まだ空中はるか上空で無事か……。
「魔王。今のはいったい……」
フューリアも何が起きたのか理解出来ないという顔で聞いてきた。
「ああ。こいつは多分、死人使いの仕業だ。ネクロマンサーっていう方が通りがいいか。そいつはチュロスを殺して、肉体と魂を分離し、肉体側を大改造してから、サキュバスの能力はそのまま使える様にと、魂を体に縫い付けやがったんだろう。
そして魂の知覚を乗っ取って、どこからか体を遠隔操作していたんだと思う。
ああ、くそっ! こりゃあたいのミスだ。安易にチュロスに頼っちまった。
あたいに関わらなきゃ、チュロスは陽介とずっといちゃいちゃ出来てたのかもしれんのに……」
「それにしても、自爆だなんてひどすぎます! やっぱり魔族は血も涙もない!」
フューリアが憤っている。
「ああ、何も言い返せねえや。あっちの正体に関わる様な挙動をすると自爆する様、仕込まれてたんだろう。それをうかつにも、あたいは尋ねちまった……」
(エリカ……)
ナナもうなだれるエリカになんと声をかければいいのか分からなかった。
「ふう…………それじゃ、陽介治療して引き上げるぞ……。
おいフューリア、ヒール使えるか?」
「あー、マナちょっとくれる?」
「だってさナナ。もう一回ひとりエッチしてくれるか?」
(エリカの馬鹿!)
(それにしても、ネクロマンサーか。
そんな奴にこの身体で出会ったら、どうなっちまうんだ?
こっちの情報もダダ漏れみたいだし、いよいよ気を引き締めんといけないな。
くそっ、デルリアルとも連絡とれねえし……。
だが、潮時か。
チュロスの事もあるし、もうあたいの判断だけで動くのは危険だ。
ばばあとも連絡を密にして行くしかねえ……)
そう考えながら、エリカは重い足取りで帰宅の途についた。
◇◇◇
その日の出来事はフューリアから、異世界から戻ったばかりのサリー婆にも知らされた。
「まったく、次から次に厄介な……今度はネクロマンサーだと?
だが、そいつがエルフ側なのか魔族側なのかも不確かなんだね。
それにしても、そのサキュバスの娘は可哀そうな事をしたもんだ。
でも、これでエリカも、わしに隠し事をしようとは思わなくなるじゃろう。
それに……ナナがマナを生成しても、なんともない様であったか……。
ならええんじゃが」
サリー婆も、ナナの魂の悪霊化の可能性の件を、エリカにどのように伝えるべきか、まだ迷っていた。
それに、風景はそのままで、周囲に人や車の気配が全く無い。これは、あのケルベロスの時と同じで、結界が張られているのだろうが、サキュバスがこれほどの結界を作れるとは、あたいも認識を改めないといけないな。
でもこれ、ほとんど陽介の精気から作ったんだろ?
はやくチュロスから引き離さないと、ほんとにあいつ命が危ねえな。
(ナナ、マナのほうはどうだ?)
(はは、ごめん。なんかまだ興奮しちゃってて。
もう少ししたら気持ちも落ち付くと思うから)
(なんだよ……。
さっきの陽介の先っぽの感触をオカズに、自家発電してもいいんだぞ!)
(エリカの馬鹿!)
「あー、魔王。あんまり私の援護はあてにしないでねー。もうマナカプセルも無いんだー。でも殺られないでねー。あんたにとどめを刺すのは私なんだから」
フューリアが、後ずさりして距離を置きながら言う。
「うっせー。こいつにもお前ら勇者達にも殺られねえよ!
なーに、マナ使えなくても何とかなる様、フィジカルもかなり鍛えたんだぜ!」
とはいうものの、エリカが間合いを詰めるとそれに伴いチュロスは陽介を盾にしたまま後ろに下がり、なかなか間合いが詰まらず、エリカの攻撃も届きそうにない。
「えーい。エリカ様―。死んじゃえー!!」
チュロスの掛け声とともに、いきなり空中に雷鳴がとどろき、エリカめがけて電撃が落ち、紙一重でエリカがそれを躱す。
「チュロス。バカ野郎! それサキュバスの技じゃねーだろ!」
しかし、雷、炎、氷とチュロスは次々と攻撃魔法を放ってくる。
こんなん、どう考えてもおかしいぞ。こいつ本当にチュロスなのか?
(どうする。そのうち奴の精気エネルギーが切れるか?
いや、その前に陽介がお陀仏だな)
「おい、チュロス。お前、死んでるってどういう事だよ?
それに仮にそうだとして、どうしてあたいに刃向かうんだい?
だいたい陽介は関係ねえだろ。もう離してやれよ。そいつも死んじまうぞ!」
「はは……もうこの身体、自分の意思で動かないんですよー。それに魂縫い付けられてるんです。もう苦しくて苦しくて……早く、エリカ様を葬って、私も楽になりたいのー!!」
バガーーン!!
今までにない大きさの雷撃が足元に落ちた。
何だって? 身体が自由に動かねえだと……じゃあ誰が動かしてんだ?
…………ちっ、そういう事か。だが、それだと……。
(エリカ……マナ、大分溜まったと思うよ!)
(おおナナ、よくやった。ひとりエッチでも貯められんじゃん!)
(エリカの馬鹿!)
「そんじゃ、チュロス。済まねえな。あたいに力が無いばっかりに、あんたに辛い思いさせちまった。本当にごめん……
その瞬間。陽介の身体が宙に浮きあがって、どんどん上昇し、やがてチュロスは陽介を掴んでいられなくなり手を離した。
そしてエリカが一気に間合いを詰め、チュロスを砂浜に押し倒した。
「く、雷撃!!」
チュロスが呪文を唱えるが、エリカには効いていないようだ。
「無駄だよ、チュロス。もう、
なあ……もう、戻れないのか?」
「あ……ああー。エリカ様。後生です。このまま灰にして下さい。
この身体では、私は生き続けられません……」
チュロスの頬に一筋の涙が光った。
「そうか……それじゃ、最後にいいか?
お前をこんなにした奴は一体どこのどいつだ?」
「それは……ひゃっ!!」
言いかけたチュロスの身体が、青白く光りだした。
「まずい! 離れろ!」
エリカが言い終わらないうちに、チュロスの身体が大爆発を起こした。
「畜生……なんて事をしやがる……」
爆風が収まったところで、フューリアが駆け寄ってきた。
陽介は……ああ、まだ空中はるか上空で無事か……。
「魔王。今のはいったい……」
フューリアも何が起きたのか理解出来ないという顔で聞いてきた。
「ああ。こいつは多分、死人使いの仕業だ。ネクロマンサーっていう方が通りがいいか。そいつはチュロスを殺して、肉体と魂を分離し、肉体側を大改造してから、サキュバスの能力はそのまま使える様にと、魂を体に縫い付けやがったんだろう。
そして魂の知覚を乗っ取って、どこからか体を遠隔操作していたんだと思う。
ああ、くそっ! こりゃあたいのミスだ。安易にチュロスに頼っちまった。
あたいに関わらなきゃ、チュロスは陽介とずっといちゃいちゃ出来てたのかもしれんのに……」
「それにしても、自爆だなんてひどすぎます! やっぱり魔族は血も涙もない!」
フューリアが憤っている。
「ああ、何も言い返せねえや。あっちの正体に関わる様な挙動をすると自爆する様、仕込まれてたんだろう。それをうかつにも、あたいは尋ねちまった……」
(エリカ……)
ナナもうなだれるエリカになんと声をかければいいのか分からなかった。
「ふう…………それじゃ、陽介治療して引き上げるぞ……。
おいフューリア、ヒール使えるか?」
「あー、マナちょっとくれる?」
「だってさナナ。もう一回ひとりエッチしてくれるか?」
(エリカの馬鹿!)
(それにしても、ネクロマンサーか。
そんな奴にこの身体で出会ったら、どうなっちまうんだ?
こっちの情報もダダ漏れみたいだし、いよいよ気を引き締めんといけないな。
くそっ、デルリアルとも連絡とれねえし……。
だが、潮時か。
チュロスの事もあるし、もうあたいの判断だけで動くのは危険だ。
ばばあとも連絡を密にして行くしかねえ……)
そう考えながら、エリカは重い足取りで帰宅の途についた。
◇◇◇
その日の出来事はフューリアから、異世界から戻ったばかりのサリー婆にも知らされた。
「まったく、次から次に厄介な……今度はネクロマンサーだと?
だが、そいつがエルフ側なのか魔族側なのかも不確かなんだね。
それにしても、そのサキュバスの娘は可哀そうな事をしたもんだ。
でも、これでエリカも、わしに隠し事をしようとは思わなくなるじゃろう。
それに……ナナがマナを生成しても、なんともない様であったか……。
ならええんじゃが」
サリー婆も、ナナの魂の悪霊化の可能性の件を、エリカにどのように伝えるべきか、まだ迷っていた。