第17話 反撃

文字数 2,143文字

「こん中にいるのは間違いなさそうだな」

 エリカは、リヒトの気配を追って非常階段を下り、最下階に着いた。
 他に人の気配もするが、多少の助っ人など、マナが使えりゃ問題ねえ!
 エリカは、戸を蹴り飛ばして部屋の中に入った。

 いやがったなリヒト。観念しやが……あれ? なんであんたがここにいる?
 
 そこには麻美が手足を縛られて、リヒトの足元に転がっていた。
 猿ぐつわをかまされていて言葉も出せない様だ。

「はは。驚いた? 君が芳野に借りてたスマホ。あいつのお古だろ?
 あれ、どこにいても、居場所分かっちゃうんだよね……」

 はー。そんな機能あるんだ……。
 部下の居場所わかるのは便利だよなー……じゃなくて。

「それで、あたいらの居場所を……」
「そう。僕が電話した時、君がいた場所に、すぐ人をやったんだよ。
 そしたらこの人……浮浪者見たいにベンチに転がってたんだって!」
 
 くそ……すぐにけーさつ行かした方がよかったか。

「それじゃ、来宮さん。これで終わり。君の負けだよ。
 どんな手品で鉄砲弾き返したのかはわかんないけど……ま、種は教えてもらわなくてもいいや。もう夜も遅いし、さっさと親子で海にでも沈んでもらおうかな。
 僕、早くうちに帰って、豚の世話しないといけないんだよ」

 リヒトの指示で、ドラム缶が二つ運び込まれた。
 何か液状のものが、すでに七分目位入っている。

「さっ。入った入った。
 ああ、大丈夫。首から上はちゃんと出しておいてあげるから。
 今日は上弦の月なんだって。海中から眺めたら綺麗だと思うよ」

 そして、理人の周りにいた男たちが、麻美をドラム缶に投げ込み、首が沈まないよう、手で押さえている。
 
 どうする。あたいだけなら何の事はないけど、麻美がいたら悪夢も使えねえし、こんなに狭くちゃ魔力もうかつに爆裂させられねえ……。

 ズキン! 

 うおっ! ナナのアラートか……。
(お願いエリカ。あいつら全部ぶちのめして……。
 あたしの身体壊れてもいいから……)

 いや、壊れちゃ困るのは、あたいなんだが……。
 でも……よっしゃ、分かった。
 ナナ……しっかり怒って、マナよろしくな!

全身強化(サイヤジン)!」

 エリカの髪の毛と身体全体が黄金に輝いて、その身体能力と反射速度が、通常の数十倍に跳ね上がり、次の瞬間、麻美を抑えていた男二人が宙を舞って床に叩きつけられた。そして、麻美の身体がドラム缶から飛び出して、理人に投げつけられたかのように飛んで行った。

「ぐはっ!」
 麻美がぶつかって、理人も後ろに倒れ込んだ。

「すまんな、かあちゃん。直接打撃だと、ナナの身体壊しそうで……。
 だが、これで詰みだ! リヒト! 観念しやがれ!」

「来るな!」
 理人が、気を失っている麻美の頭を抱え込んで、銃を突きつけていた。

「バカヤロー。そんなんで撃ったら死んじまうぞ!」
「何をいまさら。元々殺す気だったんだよ! 
 だけど、こうすると君は動けないよね。
 来宮ナナ! さあ、お前がここで死ね! 
 そうすりゃ、かあさんの命だけは助けてやるよ!」

「麻美……」すでに引き金は引かれかかっており、エリカも迂闊には動けない。

 その時だった。猿ぐつわが緩んでいたのだろう。
 麻美が、ポツンと言った。

「ナナ。お前を一人にゃしないよ……。
 あたしも魂になるから……二人であの世に行こ……」

「何血迷った事言ってやがる! このくそばばあ!
 ほら来宮! そこの奴が持ってる拳銃で自分の頭吹っ飛ばせよ! 早く!」


 プワーーーーーーーーン!!
 うわっ、何だこれ。突然身体の中で何か膨らみやがった!

 こ、こりゃ……マナか……くそ、ナナの作るマナが暴走してやがる。
 うわっ、ダメだ! 制御できねえ!!! 
 ナナ、落ち着け! このままじゃみんな吹っ飛ぶぞーーーー!!!!

 ピカーーーーーーーン!!!!!!!

 ものすごい閃光が走り、ドーンという大音響とともに部屋全体が大きな地震の様に揺れた。
 …………………
 …………………

 くーーっ! なんてこった。やっちまったぞこりゃ……。
 質量欠損クラスじゃねえよな?
 エリカが目を開けると……あれ? 


 ありゃ…………ナナか?

 麻美が気を失って床に倒れているが、その上に、ナナが麻美に覆いかぶさる様にしがみついている。
 
 ああ……あいつの魂……この身体から出られたのか……。
 それにしても、こりゃ一体。

 エリカが周りを見渡すと、まわりの空間そのものが黄金色に輝いている。
 これは……マナが空間に満ちてるんだ。
 これみんな、ナナの思いが作ったマナかよ……。
 
 それでリヒトは?
 
 横を見ると……あちゃー。あれ、生きてるかな? 
 手足の形がおかしいぞ……骨折も一、二か所じゃなさそうだが……。
 
 やがて周りのマナが収束していき、部屋の中がだんだん元の状態に戻っていく。
 周りの音も聞こえだしたが、どうやら火災警報器とやらが鳴ってるようだ。

 そしていよいよマナが消えようとした時、麻美の上に乗っていたナナの魂の姿も、徐々に薄くなっていった。

 エリカは、涙をこらえる事が出来ない。
 ああ、ナナ。お前……ちゃんと天国行けよな……。
 
 ピーポーピーポー……ファンファンファン……
 何やら外が騒がしくなってきたが……。

 まあ……もう少し泣いてていいよな?
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