第54話 勇者の起源
文字数 2,843文字
サリー婆が、お茶をすすりながらゆっくりと語りだした。
「大昔からこの国にはエルフと魔族がいて、お互いにすみ分けて暮らしていたんじゃ。しかしまあ、お互いに技術が進歩したり人口が増えたりで、生活圏が重なる様になって、あちこちでトラブルが発生し始めた。エルフは魔族達を下等生物と馬鹿にしておったし、魔族側はエルフを自分達の都合しか考えないエゴイストと思っておった。そしてろくに話合いも持たれず……まあちゃんと会話出来ない魔族も多かったんじゃが……争いが数千年に及び、いつの間にか理屈ではなくお互いを憎み合う様になった。
それがわしが国王をしていた当たりの時の事じゃ。わしは、なんとか会話を試みようとしたのだが、息子がそれは無理だと言って人間を魔族に当たらせると言い出したのだ。
当時の人間は今のナナの世界だけにおり、サキュバスやバンパイアなどがたまに狩りにいくのでその存在は知られていて、たまにこっちに転移してしまう者もあったが極少数じゃったのじゃ。
しかし、その人間にマナの使い方を教えると、奴らの能力が格段に跳ね上がる事が分かった。
それで我が息子は、人間を大量動員して魔族に当たらせようとしたんじゃよ。
わしはそれに反対したんじゃが、結局、息子と元老院に押し切られる形になり、反抗の意味もあって隠居した」
「それでは最初は、こちらの世界にこんなに人間は居なかったという事ですね。
あちらから移民してもらったのですか?」イラストリアが問う。
「エルフが、下等生物と思っている人間をその様に扱うはずが無かろう。
奴隷として強制的に連れて来たんじゃ!!
今でこそ、自力で繁殖できるまで人口が増えておるが、最初は、十人、百人の単位でこちらに連れて来たのじゃ」
「えっ!?」イラストリアが絶句する。
「おい婆さん。ちょっと待て! という事は俺達は奴隷の子孫なのか!?」
「そうなるの。今やそんな事を知っている人間など、この国に一人もおらん。まあ教育の賜物じゃて。じゃが人間の国もいまや相当に大きくなっておる。こんな事が世に出ればどうなるかはわからんな」
「おいおい。そんな事いまさらぶちまけたら、それこそエルフの国がひっくり返るんじゃねえの?」タイガが変に恐縮して言う。
「じゃから慎重にやらんといかん。この話は、エルフと人間と魔族を、それぞれ束ねる者同志が同意しないと多分うまくいかん」
「そっか。それにしても俺、エルフ王国の為とか言ってシャカリキにマナの使い方を習ったけど、それって結局、エルフ達が自分達の為にやらせていたって事なんだ……だが冷静に考えれば、俺達人間は魔族を恨む直接的な理由があんまりないのか?」
「そうね……人間の国は魔族達のいる地域と直接接していないし……エルフにとっては魔族に対抗する勇者を輩出するための牧場みたいな感じなのかしら」
「まあ、あんまり自分達を卑下せずともよいが、少なくとも今のエルフの上層部の意識はそれに近いかも知れん」
「そうだとすると、エルフ国をまとめ上げるのはサリーさんにお願いするとして、人間の国は私達が国王に働きかけるのが良さそうね。でも、そうなると魔族は……」
「やはりエリカにまとめてもらうしかあるまい。じゃが今のあいつは、反対勢力に狙われている始末で、とても魔族を一つにまとめ上げられんじゃろ?」
「いや。やってもらおうぜ。ナナちゃんの事はともかく、魔族はあいつにまとめてもらうしかねえ。俺達が停戦に向かって動くとなれば、デルリアルなんかも協力してくれるんじゃねえの?」タイガの言葉にイラストリアも半信半疑ながら同意した。
「そう……ね」
◇◇◇
「えー!! コンスタンさんが殺された!?」
戻って来たサリー婆から話を聞いて、フューリアが悲鳴を上げた。
エリカもその場に呼び出されて一緒に話を聞いていたが、どうにも信じられない。
あの戦士がそんなに簡単にやられるとは……しかもばばあの眼をかいくぐってだと? やった奴は、どんだけの手練れなんだよ。
そんな奴に襲われたら、今のあたいじゃ全く歯が立ちそうにないぞ。
そんな事を考えながら、泣きじゃくっているフューリアの頭を撫でてやっていたら、サリー婆が話しだした。
「そう言う訳で、当面反魂の術どころではないんじゃ。ただ、魔族とエルフの和議・停戦に関しては、わしもタイガ達も動くと腹を決めた。だから魔王よ。魔族はお前がなんとかして取りまとめてくれ!」
「ああ。そうするのが筋なんだろうな。だが、こんな状況じゃ、反対勢力にカチコミもかけらんねえ。あっちの世界に行って何かするにしても、せめてナナの摩耗が防げたらとは思うんだが……あんなにマナの濃い世界にあいつを長い事置いとけねえだろ?」
エリカとサリー婆が並んで頭を悩ませていたら、さっきまで泣いていたフューリアがチーンと大きく鼻をかんでから言った。
「ナナちゃん自身にマナの流れをコントロールさせられませんかね?」
「なんじゃと? フューリア。お前、今なんと?」サリー婆が聞き返した。
「ですから、あっちの世界で私達がやっている様に、ナナちゃん自身がマナの流れを感じてコントロール出来る様になれば、外部のマナの影響を受けない様に魔法防壁 はったり、自分から湧いて出てくるマナをうまく消費したりして、コントロール出来る様になりませんかね?」
「ああ、そうか。こっちのでの暮らしが長すぎてすっかり失念しておったわい。
そうじゃな。ナナもフューリアも同じ人間じゃ。フューリアに出来てナナに出来ない事はなかろう!」サリー婆もすっかり興奮している。
「でもよ。どうやってナナにそれを学ばせる? 冬眠解除しても大丈夫なのか?
それにそんなに短期間で習得出来るのかよ」
エリカが疑問を呈した。
「そうじゃの。冬眠解除はわしが周囲のマナをコントロール出来ればよいので、まあこの白樺堂の中なら問題なかろう。習得方法じゃが、さすがにこれは本人の資質もあるので、教えて見ん事にはわからんか。じゃが……自分でマナを生成していた感触は持っておるんじゃろうから、まったくゼロからのスタートでなく行けるかも知れん」
「そうか……それじゃ婆さん。一つ頼みがある。いちいち冬眠させたり起こしたりするのは可哀そうだ。ナナをここに下宿させちゃくれないか? もう夏休みも終わっちまったが、来年からここに就職するとか、話でっち上げていいからさ」
そうエリカが言うのでサリー婆もそれを了承した。
「わかった。それで関係各方面に手を回そう。じゃが無駄飯は食わせんぞ。店番なり掃除なり、家の事もちゃんとやってもらうからな!」
「ちっ。強欲ばばあ!!」
「そしたらサリーさん。私もここに引っ越してきますね。
ナナちゃんに魔法のレクチャをします! でも……エリカと同じ部屋は嫌かな」
「はは、そうしてくれフューリア。コンスタンの事もあるし、我々も極力固まっていた方がよかろう。じゃが部屋を別にするとなると別に賃料を貰うからね」
「もう!強欲ばばあ!」
「大昔からこの国にはエルフと魔族がいて、お互いにすみ分けて暮らしていたんじゃ。しかしまあ、お互いに技術が進歩したり人口が増えたりで、生活圏が重なる様になって、あちこちでトラブルが発生し始めた。エルフは魔族達を下等生物と馬鹿にしておったし、魔族側はエルフを自分達の都合しか考えないエゴイストと思っておった。そしてろくに話合いも持たれず……まあちゃんと会話出来ない魔族も多かったんじゃが……争いが数千年に及び、いつの間にか理屈ではなくお互いを憎み合う様になった。
それがわしが国王をしていた当たりの時の事じゃ。わしは、なんとか会話を試みようとしたのだが、息子がそれは無理だと言って人間を魔族に当たらせると言い出したのだ。
当時の人間は今のナナの世界だけにおり、サキュバスやバンパイアなどがたまに狩りにいくのでその存在は知られていて、たまにこっちに転移してしまう者もあったが極少数じゃったのじゃ。
しかし、その人間にマナの使い方を教えると、奴らの能力が格段に跳ね上がる事が分かった。
それで我が息子は、人間を大量動員して魔族に当たらせようとしたんじゃよ。
わしはそれに反対したんじゃが、結局、息子と元老院に押し切られる形になり、反抗の意味もあって隠居した」
「それでは最初は、こちらの世界にこんなに人間は居なかったという事ですね。
あちらから移民してもらったのですか?」イラストリアが問う。
「エルフが、下等生物と思っている人間をその様に扱うはずが無かろう。
奴隷として強制的に連れて来たんじゃ!!
今でこそ、自力で繁殖できるまで人口が増えておるが、最初は、十人、百人の単位でこちらに連れて来たのじゃ」
「えっ!?」イラストリアが絶句する。
「おい婆さん。ちょっと待て! という事は俺達は奴隷の子孫なのか!?」
「そうなるの。今やそんな事を知っている人間など、この国に一人もおらん。まあ教育の賜物じゃて。じゃが人間の国もいまや相当に大きくなっておる。こんな事が世に出ればどうなるかはわからんな」
「おいおい。そんな事いまさらぶちまけたら、それこそエルフの国がひっくり返るんじゃねえの?」タイガが変に恐縮して言う。
「じゃから慎重にやらんといかん。この話は、エルフと人間と魔族を、それぞれ束ねる者同志が同意しないと多分うまくいかん」
「そっか。それにしても俺、エルフ王国の為とか言ってシャカリキにマナの使い方を習ったけど、それって結局、エルフ達が自分達の為にやらせていたって事なんだ……だが冷静に考えれば、俺達人間は魔族を恨む直接的な理由があんまりないのか?」
「そうね……人間の国は魔族達のいる地域と直接接していないし……エルフにとっては魔族に対抗する勇者を輩出するための牧場みたいな感じなのかしら」
「まあ、あんまり自分達を卑下せずともよいが、少なくとも今のエルフの上層部の意識はそれに近いかも知れん」
「そうだとすると、エルフ国をまとめ上げるのはサリーさんにお願いするとして、人間の国は私達が国王に働きかけるのが良さそうね。でも、そうなると魔族は……」
「やはりエリカにまとめてもらうしかあるまい。じゃが今のあいつは、反対勢力に狙われている始末で、とても魔族を一つにまとめ上げられんじゃろ?」
「いや。やってもらおうぜ。ナナちゃんの事はともかく、魔族はあいつにまとめてもらうしかねえ。俺達が停戦に向かって動くとなれば、デルリアルなんかも協力してくれるんじゃねえの?」タイガの言葉にイラストリアも半信半疑ながら同意した。
「そう……ね」
◇◇◇
「えー!! コンスタンさんが殺された!?」
戻って来たサリー婆から話を聞いて、フューリアが悲鳴を上げた。
エリカもその場に呼び出されて一緒に話を聞いていたが、どうにも信じられない。
あの戦士がそんなに簡単にやられるとは……しかもばばあの眼をかいくぐってだと? やった奴は、どんだけの手練れなんだよ。
そんな奴に襲われたら、今のあたいじゃ全く歯が立ちそうにないぞ。
そんな事を考えながら、泣きじゃくっているフューリアの頭を撫でてやっていたら、サリー婆が話しだした。
「そう言う訳で、当面反魂の術どころではないんじゃ。ただ、魔族とエルフの和議・停戦に関しては、わしもタイガ達も動くと腹を決めた。だから魔王よ。魔族はお前がなんとかして取りまとめてくれ!」
「ああ。そうするのが筋なんだろうな。だが、こんな状況じゃ、反対勢力にカチコミもかけらんねえ。あっちの世界に行って何かするにしても、せめてナナの摩耗が防げたらとは思うんだが……あんなにマナの濃い世界にあいつを長い事置いとけねえだろ?」
エリカとサリー婆が並んで頭を悩ませていたら、さっきまで泣いていたフューリアがチーンと大きく鼻をかんでから言った。
「ナナちゃん自身にマナの流れをコントロールさせられませんかね?」
「なんじゃと? フューリア。お前、今なんと?」サリー婆が聞き返した。
「ですから、あっちの世界で私達がやっている様に、ナナちゃん自身がマナの流れを感じてコントロール出来る様になれば、外部のマナの影響を受けない様に
「ああ、そうか。こっちのでの暮らしが長すぎてすっかり失念しておったわい。
そうじゃな。ナナもフューリアも同じ人間じゃ。フューリアに出来てナナに出来ない事はなかろう!」サリー婆もすっかり興奮している。
「でもよ。どうやってナナにそれを学ばせる? 冬眠解除しても大丈夫なのか?
それにそんなに短期間で習得出来るのかよ」
エリカが疑問を呈した。
「そうじゃの。冬眠解除はわしが周囲のマナをコントロール出来ればよいので、まあこの白樺堂の中なら問題なかろう。習得方法じゃが、さすがにこれは本人の資質もあるので、教えて見ん事にはわからんか。じゃが……自分でマナを生成していた感触は持っておるんじゃろうから、まったくゼロからのスタートでなく行けるかも知れん」
「そうか……それじゃ婆さん。一つ頼みがある。いちいち冬眠させたり起こしたりするのは可哀そうだ。ナナをここに下宿させちゃくれないか? もう夏休みも終わっちまったが、来年からここに就職するとか、話でっち上げていいからさ」
そうエリカが言うのでサリー婆もそれを了承した。
「わかった。それで関係各方面に手を回そう。じゃが無駄飯は食わせんぞ。店番なり掃除なり、家の事もちゃんとやってもらうからな!」
「ちっ。強欲ばばあ!!」
「そしたらサリーさん。私もここに引っ越してきますね。
ナナちゃんに魔法のレクチャをします! でも……エリカと同じ部屋は嫌かな」
「はは、そうしてくれフューリア。コンスタンの事もあるし、我々も極力固まっていた方がよかろう。じゃが部屋を別にするとなると別に賃料を貰うからね」
「もう!強欲ばばあ!」