第15話 逃走

文字数 2,227文字

「ほれほれほれ! どうだー俺のマグナムはー」

 先輩たちが、芳野と取り巻き達四人を、次々に犯している。
 つい先日まで、あれが自分の彼女だったと思うと、かなり不愉快だが……。
 まあいい。もう次の手足は手にいれた。
 あの二年の先輩。結構いい声で鳴いてくれたよな……。

「おい、理人。こいつ、ほんと最高だぜ! 
 さすがお前の元カノだけあるわ。
 どうせ今夜で見納めだ。お前も一発ヤっとかねえか?」
「いやー。先輩と穴兄弟なんて、恐れ多いですよ……」

 ふざけるな。そんな汚物……誰が触れるか!
 にしても、こいつら本当に猿だな。ナナが来るまで待てないのかよ……。
 ナナが着いたとき、ちゃんと役に立つんだろうな。
 ナナ……あいつ。ぐちゃぐちゃにしてから沈めてやる。

「リヒトさん。来た様だよ……」
 玄関口を見張っていた奴から連絡が来た。
 やがて、戸が開き……ナナ……やっと来やがったか。

「遅かったねー来宮さん。
 先輩達も芳野さん達も、待ちきれずに始めちゃってるよ」
「リヒト!」

 見ると部屋の中で、三人の先輩と四人の女子高生が、もう全裸でドロドロになりながら、絡みあっている。
 芳野達の目線は尋常ではなく、どうやら薬でも使われているのだろう。
 
 哀れだな。因果応報ってのはこういう事だぜ……。
 この情景が、深層のナナに見えていないのは幸いだ。

「おいリヒト。そんじゃ勝負だ。タイマンでいいよな?」
「慌てないでよ来宮さん。メインイベントの前には、前座が必須でしょ?
 タクくーん。よろしく!」

 そう言われて奥から、ひょろっとした眼光の鋭い男が出て来た。
 一目で何かの格闘技に秀でている者だと分かる。

「あのなー、リヒト。姑息な真似はするなって……」
「えー? 別に卑怯でも何でもないでしょ。闇討ちしてる訳じゃないし。
 だいたい、タク君倒せない様じゃ、僕は倒せないよ?」

 けっ、よく吼えやがるぜ。だが、どうしようか。
 フィジカルでも行けそうだが、最初から飛ばすと、途中でナナの身体がぶっ壊れそうだし……幸い、ナナの怒りは続いている様だ。

 そんじゃ……。

「スローアンドブースト!」
 エリカは、呪文と共にファイティングポーズをとった。
 相手のタク君は、その場でフットワークを開始する。

 うーん。こっちの世界の格闘技はよく知らんのだが……まあ、何とかなるべ。

「おらー。どっからでもいいからかかってきやがれ! このモヤシ野郎!」
 エリカの挑発に眉一つ動かさず、タク君は左ジャブを連打し、エリカが半身ずらして交わしたところへ右ストレートをカウンターで打ち込んで来た。

「あれー。これで終わり?」リヒトがそう思った瞬間だった。

 ゴン!
 鈍い音がして、タク君が白目を剥いて、床にのびている。

「おい! 何が起こったんだ?」
 乱交に夢中の先輩達は別にして、理人の他にも何人か人がいたのだが、
その誰もが、何が起こったのかまったく分からなかった。

「はん! 蚊より遅せーぜ!」

 エリカは、神経の反射速度を上げ、物理ダメージをバフする魔法を使った。
 それで、タク君の右ストレートを見切って、みぞおちに軽くちょんとこぶしを入れたのだが、それが数百倍にブーストされて、タク君に衝撃を与えたのだ。

「おら! リヒト、次はどいつだ……こんな程度なら前座何人でも構わねーぞ」
「くそっ、来宮ナナ……お前何なんだよ。山さん達、それじゃお願いします!」
 理人の声で、周りにいた数人が近づいてきた。
 そして……

 ズキューーーーン!
 近づいた男の一人が、天井に向かって、銃を一発発射した。
 乱交中の先輩達も驚いてそちらを見上げた。

(おい、ナナ。ありゃなんじゃ?)
(……多分拳銃だと思う。あれの弾にあたっちゃだめ。身体が壊れちゃう)

「おいおい、リヒト。ケンカに飛び道具は卑怯じゃねえか?」
「ふっ。なんとでも言え。もうどうでもいいさ。
 お前はどのみち、タダで帰すつもりはなかったんだ。
 少しは先輩達と楽しい想いをさせてやろうと思ってたけど……。
 面倒くさくなった。
 山さん。両足撃ち抜いちゃって下さい。
 動けなくしてから、みんなで切り刻みましょう!」

「やれやれ。なんでJK相手に実弾使わなきゃならんのか……。
 ま、いいや。理人。これ高いぞ……」
 山さんと言われた男は、そう言いながら銃口をエリカに向ける。

 エリカは両眼を閉じ、瞑想しているかのように微動だにしなくなった。

「ふっ。観念したようだな。そんじゃ、悪いな嬢ちゃん」
 そう言いながら山さんは引き金を絞った。

 ズキューーーーン!!
 山さんが放った弾丸は、正確にエリカの太腿を捉えていた。だが、
 カーーン!
 その弾が……弾かれた!?

「何!?」
 山さんが続けて銃を発射するが、弾は全部エリカの身体に当たって弾かれる。
「何だよこいつ……バケモンか!?」

「ふっ……今頃気が付いたか。お前達が相手にしているのはなー。
 天下の大魔王エリカ様だっちゅうの! 
 イリュージョンドリーム!」

 その瞬間。その場にいた全ての者が、夢魔の悪夢に飲み込まれた。

 銃を撃った山さんはもちろん、近くにいた連中も、先輩達も……。
 ああ、芳野達も巻き添えか……二度目でショック死したりしねーよな……。
 って、あれ? リヒトがいねえ!

 部屋の入口と反対側の戸が開いている。ちっ、逃げ足の速い野郎だぜ。
 だが、早いとこ捕まえて、奴も洗脳しねえと……。

 奴の気配は、マナが使えれば追える。
 エリカは、急ぎリヒトの後を追って走った。

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