第31話

文字数 1,201文字

「そういえば、君だれ?」
 ゆかがいまさらながら尋ねた。ヴィエダーは閉じた目を開いて、ゆかの目を見た。
「あ、えっと……」
 そして困ったように視線を彷徨わせる。
「あなた、魔法使い?」
 的を射た薫の発言にびくりと震え、困り果てた末に美鈴を見た。
 突然助けを求めらた美鈴だが、彼女だってどう説明して良いのか分からない。同じように何度も言いよどんで、なんとかひとつだけ答えることができた。
「え、っと。良い魔法使いのヴィエダーだよ」
 言っておきながら、美鈴は自分の説明能力の低さに頭を抱えたくなった。案の定思いっきり眉をひそめた二人の視線がヴィエダーに向く。
 思いっきり胡散臭いものを見る目で見られたが、その間にゆかの治療が終わっていた。
「あ、ほら、もう治ったよ!」
 ヴィエダーがいうと、疑わしそうに目を細めていた薫がゆかのケガがあった部分を見て驚く。
「うそ……」
 破けた服は直っていないが、そのせいでケガなんて元々なかったとしか思えない肌が露出していた。
「治ってる……」
 当のゆかもあれと首をかしげて、今まで痛んでいたはずの箇所を見て驚く。
「ぼ、私にできるのは治癒力を高めるだけだから、流れ出た血とかは戻らないけれどね」
 自嘲と照れ笑いをない交ぜにしたような不自然な笑みでいうと、驚く二人は改めてヴィエダーが本物の魔法使いである確信を得た。
「本当に魔法使いなんだ」
 感心するゆかは何度も怪我を負ったはずの場所を動かしたり、触って確かめてそのたびにおおとつぶやく。
 しかしその一方で薫だけは納得していない。顎に指を当てて、じっとヴィエダーを見る。
「ところで、今のが狙っていたのは、美鈴だったわけ?」
 その問いに、激しく動揺したヴィエダー。
「そもそも、あなたは魔法使いなのよね? 美鈴は元からそうだったの?」
 すでに薫の目は分かりきっていると云っている。確証を得たいから尋ねているのだろう。勘の鋭い彼女だ、ヴィエダーのリアクションだけで十分だった。
「じゃあ、あなたを狙ってきたわけね。それに、巻き込まれた、と」
 厳しい言葉に唇を噛むのは、それが間違っていないことを自分が一番分かっているからだ。居を正して小さな拳を握り、ただ俯いた。
「か、薫。何もそんな風に言わなくてもさ……」
 巻きこまれた当人がそういうが、薫もまた巻き込まれたひとりといっても過言ではない。
 手厳しい言葉に堪えていたのは、ヴィエダーだけではなかった。美鈴がゆかの手を両手で握ると、額に当てて俯いた。
「どしたの?」
 ゆかが尋ねると、美鈴が微かに震えているのがわかった。
「ごめんなさい。わたしが、迷ったからだ」
 その言葉の意味が分からず、首をかしげる。
「もう、迷わないから。悪い人は、皆倒すから……」 
 祈るようにささやく声は震えていて、彼女は何度も詫びた。
「わたしが、すぐやっつけてれば、綿貫さん、けがしなかったのに!」
「なんでそんなこと言うの!?」
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