第11話
文字数 1,127文字
大宴会場のような居間で夕食をとり、三人は美鈴の部屋に戻った。
「みーちゃんちは、とんでもないね……」
憔悴したような声でゆかがつぶやいた。
「そうなの?」
首をかしげる美鈴。薫も若干疲れたような顔をしていた。
「あのはしゃぎようは何さ!?」
今もかすかに聞こえる声は、大広間で開かれている宴会のものだ。
「いつもじゃないよ。今日は、みんなうかれてるみたい」
首をかしげると、束ねた前髪が揺れた。
事の始まりは、一時間前に夕食だと案内されたところから始まる。
そこには最初に三人を出迎えた二十人にプラスして、十人ばかり増えた強面の大の大人たちが緊張した面持ちで各々席に着いていた。しかも全員が礼服、黒紋付袴という途方もないものだった。
そして三人が入室すると、全視線が二人に集まり、その時点でゆかと薫はすぐにでも逃げ出したい気持ち以外なくなってしまった。
「あ、あの……」
枯れ果てた喉から声を絞りだしたゆかに、一番近くに座った四十過ぎの男性がじろりと上から下までゆかを見て、やはり緊張の面持ちで語りかけてきた。
「お嬢さんがたが、お嬢の、美鈴お嬢さんのお友達かい……?」
悲鳴を上げなかっただけでも、褒めてもらいたくなったゆかがこくこくと三度頷くと、どっと空気が沸いた。
「めでたい! めでたいことだ!!」
「お嬢がお友達を連れてきた!」
たった今までの緊張した空気が、完全に瓦解していた。鬼すらショック死させかねないような強面の男達が、涙ぐみながら祝言だと叫んでいる。
そして美鈴の祖父に手招きされ、なんと上座に三人は座らせられた。明らかに目上の人間しかいないはずなのに、その状況はすでに卒倒物だった。
それからテーブルに並べられた目にも鮮やかなご馳走の量に、普段なら目の色を変えるであろうゆかですらまったく箸が進まなかった。
「お嬢さん! もっと食べなさい! そんなやせっぽっちなんだから!」
「は、はい!」
その時にはすでに大人たちは祝い酒だと叫んで、大量の焼酎を消費し始めていた。
その調子がまだ続いている。
美鈴の祖父が憔悴しきった二人を見て、そっと席をはずすように進めてくれ、ありがたく席を立たせてもらったのだ。
部屋に戻る最中に、浴衣を着た女性とすれ違ったと思ったら、美鈴の部屋にはすでに布団が敷かれていた。女性が敷いていったようだ。
「ほ、本当に、旅館みたい……」
目を瞠るゆかは、そのまま布団に倒れ込んだ。
「う、っはぁあ! おひさまの匂いがするー。ふかふかー!」
ばたばた手足を動かしたあと、ごろんと寝返り仰向けになる。そして自分の隣をぽんぽん叩いた。
「さ、みーちゃんおいで! 今すぐおいで! お姉さんと良い事しよう!」
すでに顔は煩悩一色に染まっていた。
「みーちゃんちは、とんでもないね……」
憔悴したような声でゆかがつぶやいた。
「そうなの?」
首をかしげる美鈴。薫も若干疲れたような顔をしていた。
「あのはしゃぎようは何さ!?」
今もかすかに聞こえる声は、大広間で開かれている宴会のものだ。
「いつもじゃないよ。今日は、みんなうかれてるみたい」
首をかしげると、束ねた前髪が揺れた。
事の始まりは、一時間前に夕食だと案内されたところから始まる。
そこには最初に三人を出迎えた二十人にプラスして、十人ばかり増えた強面の大の大人たちが緊張した面持ちで各々席に着いていた。しかも全員が礼服、黒紋付袴という途方もないものだった。
そして三人が入室すると、全視線が二人に集まり、その時点でゆかと薫はすぐにでも逃げ出したい気持ち以外なくなってしまった。
「あ、あの……」
枯れ果てた喉から声を絞りだしたゆかに、一番近くに座った四十過ぎの男性がじろりと上から下までゆかを見て、やはり緊張の面持ちで語りかけてきた。
「お嬢さんがたが、お嬢の、美鈴お嬢さんのお友達かい……?」
悲鳴を上げなかっただけでも、褒めてもらいたくなったゆかがこくこくと三度頷くと、どっと空気が沸いた。
「めでたい! めでたいことだ!!」
「お嬢がお友達を連れてきた!」
たった今までの緊張した空気が、完全に瓦解していた。鬼すらショック死させかねないような強面の男達が、涙ぐみながら祝言だと叫んでいる。
そして美鈴の祖父に手招きされ、なんと上座に三人は座らせられた。明らかに目上の人間しかいないはずなのに、その状況はすでに卒倒物だった。
それからテーブルに並べられた目にも鮮やかなご馳走の量に、普段なら目の色を変えるであろうゆかですらまったく箸が進まなかった。
「お嬢さん! もっと食べなさい! そんなやせっぽっちなんだから!」
「は、はい!」
その時にはすでに大人たちは祝い酒だと叫んで、大量の焼酎を消費し始めていた。
その調子がまだ続いている。
美鈴の祖父が憔悴しきった二人を見て、そっと席をはずすように進めてくれ、ありがたく席を立たせてもらったのだ。
部屋に戻る最中に、浴衣を着た女性とすれ違ったと思ったら、美鈴の部屋にはすでに布団が敷かれていた。女性が敷いていったようだ。
「ほ、本当に、旅館みたい……」
目を瞠るゆかは、そのまま布団に倒れ込んだ。
「う、っはぁあ! おひさまの匂いがするー。ふかふかー!」
ばたばた手足を動かしたあと、ごろんと寝返り仰向けになる。そして自分の隣をぽんぽん叩いた。
「さ、みーちゃんおいで! 今すぐおいで! お姉さんと良い事しよう!」
すでに顔は煩悩一色に染まっていた。