第12話

文字数 1,066文字

実家では 耳の悪い年金で暮らしている曾祖母と、定職に就かず、家で猫の蚤取りをして食べて寝るだけの祖母との生活だった。
曾祖母も祖母も料理ができる人たちではなかったから、毎日の食事は家で作るなら卵かけご飯か海苔の佃煮。ほとんどがコンビニのお弁当かスーパーのお惣菜だったのを覚えている。
買いに行くのは足の悪い曾祖母だ、祖母は何も手伝わない。

父方の実家での生活の記憶で一番古いものは、3歳の私が祖母がパチンコに行くことで離れることになるのが嫌で必死になって追いかけて家を脱走していたものだ。
当時の私は祖母が大好きだった、父がたまに帰ってきても、出かけるにしても、笑顔で手を振るようなこともだったのに、祖母が家からいなくなるとなると必死に泣いて引き止めていた、引き止めるのがだめならと泣きながら家から脱走して探しに行こうとするくらいには大好きだった。
曾祖母は曾祖母なりに脱走しないようにと手を尽くしていたようだった。
家の玄関のドアに鍵をかけドアの上、子供では絶対に届かない位置に粘着力の強いガムテープを何枚も張っていたのだが、押すだけの簡単なドアだったから3歳の私は鍵を外し、何度も玄関のドアに体当たりをしてガムテープをちぎって逃げ出したのを覚えている。
家の外に出て、当時の愛車の三輪車にまたがって祖母を探す冒険に出かけるのだ。
その日は雨が降っていて、服が体に張り付く感触が気持ち悪かったもので、近くに小さな川があったから 来ていた服と靴を全部川に脱ぎ捨てたのを覚えている。
気持ち悪いからと言って捨てたはずなのに、だんだん川に物を入れて 物が流れていく様子が楽しくなって投げ入れていたのかもしれない。

何時間冒険していたかは覚えていないが、幼稚園児くらいの子供が全裸で三輪車をこいでいるのは異質に見えたのだろう、おばあさんに保護されてお菓子をもらい、食べている最中に警察が来たことを覚えている、そんな騒ぎを聞きつけた人たちが「女の子が全裸で三輪車に乗ってふらふらしてたらしい。」と広めて 曾祖母が駆けつけてきたのだ。
傘の柄の部分で頭を叩かれた。
「お前のお父さんから預かってるんだ、お父さんの宝物なんだよ、何かあったらどうするんだ!」
その時は全然何を言っているのかわからず、叩かれた痛さだけで泣いただけだったけど、今になって考えると曾祖母は気が気じゃなかったのも当然かもしれない。
絶対に開くはずのないと思っていたドアから脱走していて、見つかったら全裸。
とんでもなく手のかかる子供だったと今更思っている。本当によく面倒みてくれてたなとしみじみ思う。
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