第3話

文字数 1,965文字

寮が準備されるまでの2日間は、友達の家からキャバクラまで片道1時間30分の時間をかけて通勤していた、帰りはネットカフェで時間を潰して始発で1時間30分かけて帰るのが苦痛に思わないくらいには 何かに打ち込んでいるように見える自分に酔っていたのか焦っていたのか。
キャバクラという場所で働くのは初めてのことだったから困惑することが多かった、私は夜の仕事に向いているわけではないと自分でわかっているはずなのに 時給がいい、すぐに入れる寮があるというだけでキャバクラに入店した。
何とかやっていけるか、生きていけるのか、何かしなげればならないと思った。

結局のところはキャバクラのお仕事は続かなかった。寮という名前の付いたアパートに1日もいなかった、寮の滞在時間は8時間だった。

寮に行き、電気ガス水道の開通の連絡をして。
カーテンも何もない部屋で1人でスマホをいじっているときの孤独感は凄まじかった。
外は晴れていて、窓から景色を見渡せば日常生活を送っている通行人が見える。
誰かと歩いている人もいれば、1人で歩いている人もいて、1人で歩いている人には家に帰れば待っていてくれる人がいるんだろうかと全く関係のないことを考えてしまうくらいには開けているのに閉塞的だった。
息苦しさから解放されるのには人との繋がりが手っ取り早いと私は知っている。
人との繋がりを得るために、自分の寂しさを埋めるために作業用サーバーと体のいい理由をつけてサーバーを新設するくらいには。
現実の人付き合い、生活費、不安を潰すのは自分で、自分で今まで生きてきた、できるぞと奮い立たせて昼の仕事の求人をあさり始めた。
コロナで不景気だ、飲食店、接客業の求人はないに近しい。
この先需要があって、資格も取れる、何も持ってない私には魅力的な条件を出してる求人は山ほどあった。落ち着いたら、明日にでも応募しようと思っていた時に連絡がきた、店長が寝る布団もないのだろうと布団セットを買ってきてくれたのだ、とても嬉しかったように思うが、私は床で寝るのには慣れているし 余計なお金を使うなんて、おせっかいだなと思ってしまった自分に自己嫌悪した。
ガスの開通の立ち合いを終えた後は、日用品を買いに近くのドラックストアに出向き、最初の生活に必要そうなものを購入して仕事に行く準備をした。
準備の途中、孤独感から逃げようと自分の作業用サーバーで誰かが来て声を聞かせてくれればと思って接続をしていた。
大学を卒業したばかりの社会人になりたてのネットの友達が入室してきたのでしばらく雑談をしていたが、今どこにいる、その仕事は危なくないのか、少し体と精神を休めたほうがいいのではないかと勧められて 素直に嬉しかった。
人の声を聞けた嬉しさか、心配への嬉しさかはわからないがとにかく嬉しかった。
通話をつなぎながら仕事に行きたくないと体を引きずる思いで出勤した。

お仕事は楽しい反面気まずさもあった、お客さんはお酒が入っているからノリがよく、景気がいい。コロナで収入に打撃を受けている人がいることを忘れさせてくれるくらいには景気のいいお客さんがたくさんいた。
コロナで経営難に陥ってる傍らで業績が伸びている企業もあるんだろうかと考えることもあった。
店長はノリが良く、キャストさんはとても親切な人、私のような人間を煙たがる人、興味がない人等様々だった。
そんな中で私は私だと割り切って此処で生きていけるのかと不安がなかったわけではないが、生きていくのにはお金がいることは身に染みて知っているはずだった。

その日、着替えをしヘアメイクの順番を待っている時に店長に呼び出された。
「家はどう?」
「すごく住み心地がよさそうで、ありがとうございますお布団助かりました。少し落ち着いたらお昼のお仕事もしようと思ってるんです~。」
店長の顔色と声色が変わった
「は?」
やっちゃったなと感じた、フォローしないと。
「あ!でもでもちゃんとメインで夜は出るので大丈夫ですよ!」
胸が苦しくて酸素が回らないのか頭がぐるぐるする。少しパニックだ、冷静にパニック。
「困るよ~ 寮貸してるんだから出てくれないと、ねぇ寮だよ?寮?わかってる?」
「わかってますよ~もう 体力だけはあるので安心してください。」
「こっちではさぁ、社員にしようって話もでてるんだよ、そんな勝手にさぁ ちょっと待ってて専務と話してくる。」
(私のフォローもお話も全部聞こえない、キャバクラから逃げられると思ってる、間違えてはない 逃げるつもりなかったけど私今すごくこの状況から逃げ出したい。荷物はいつ取りに行く?どうする?話は聞いてもらえないだろうな また押し込められるの?私の意志はどこにある?)
少しパニックで胸が悪い意味でドキドキして、いつも通り少し冷静で落ち着いてる風で、何もできない私がいた。
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