第2話

文字数 3,090文字

初日は体入だし、終電で帰ろうというお話になり、終電で帰路につこうとしたのだが、店長や専務に色々なお話し、というより雑談を持ち掛けられ 本当にギリギリの時間にその場所の最終に近い電車に乗ることになった。
東京の電車は田舎者の私には複雑だった、スマホで線路の名前、時間、何番線だと情報過多の中作業用の通話サーバーでいつも仲良くしてくれている関東の民が2人居てくれた。
大学の課題で忙しい勤勉でいつも冷静で毒舌な【だるま】さん。
いつも通り素敵な彼女、森さんが居てくれた。
これはどうすればいいのかと質問を投げながら走り回った。調べる余裕もないくらい嵐のような時間だった。
中でも東京駅は迷宮だった、とてつもなく広い、横にも、縦にもすごく広い 町が一つ入っているんじゃないかと思った。
履きなれないパンプスで何年ぶりかはわからないが人のまばらな駅の中を走った、日常生活で焦ることはあまりない、関東に出てくる理由になった出来事が起きた時も焦りはしなかった、わからないことへの不安に押しつぶされそうになるのをかき消すために走った。
東京駅の乗り換えは成功した。あとはもう大丈夫だろうと考えていたが、最終の乗り換えで上り線の終電が終了していて、私は下りに飛び乗ってしまったらしく、観光地で有名な島についた。
島に着いて最初に思ったのは「藤になんて説明しよう。」だった。
その日は仕事初日で往復3時間の道のりで大変だろうと、浴槽に湯を張ると言ってくれていたのに漂流した場所は島。
スマホの充電は残り13%、人の声を聞いていないと絶対に絶望してしまうだろう状況、目の前にコンビニ。
手持ちもATMの残高も少なかったけど迷わず充電器を購入した。
その間にサーバーからは『りりさんは馬鹿、どうするのタクシー捕まえる?』だとか『逆方向行ったのか~そこは何にもないよ』とか心配だかやじだかわからない声が聞こえていた。
スマホで人と簡単に繋がれて、手紙や繋がり 人との関係性が浅くなったと嘆くおじいさんやおばあさんの声をよく聞くが、私はこの時代に生まれて、友達と簡単に連絡が取れる状況には感謝している。Wi-Fiもネット環境も大好きだ、私はネットに助けられて生きてきた。

コンビニをでて、どうしようかとサーバー内の2人と会議をしていると、地元の同い年くらいの男性が「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたのは嬉しかった。
夜中に1人 イヤホンをつけてスマホに笑っている私は金髪セミロングでヘアセットの名残でケープで固められた髪の毛だけはキレイに巻かれていた、顔は走り回った疲労とマスクで化粧はよれよれだった、細いとは言えない体のラインに沿った黒のレースのタイトワンピースにジージャン、ファッション面に疎い私らしい服装をしていた。
地元民ではないと思った青年が不思議に思って声をかけてきたんだなと思って崩れた顔でいつも通りへらへらと状況を説明した。
青年曰くこの辺はネットカフェはなく、観光地だが観光は夏がメイン、この寒い時期に観光客が来ることは少ないということだった。
これからどうするのか 困っているなら家に泊まるかと聞かれたが、せっかく来たということで散策でもしようかと思っている、親切に声をかけてくれてお話がきけただけで満足ですということ感謝を伝えて手を振った。
その間20分くらいだったが、サーバーの2人はいなくならないでそこに存在してくれて、ミュートにして息を潜めていて心がほっこりした。

森さんは何度か島を訪れたことがあるらしく、画面共有した土地を見ながら、前その場所にホテルがあったはずだとか、地理の説明をしてくれた。
4月上旬の深夜、潮風は疲労に染みた、心地よくもあり、寒くもあり、解放感も感じた。
ネットカフェでもラブホテルでも素泊まりできれば何でもいいやとサーバーの中にいる2人に現状こんな感じだと、お話しをしながら歩いていた。
結果的には、森さんが以前訪れた時にあったはずのホテルはなくなっていて、素泊まりできそうな場所もなさそうだと、2人とどうするのが最善だろうとおちゃらけて話しながら考えていると横をパトカーが通り過ぎて行った、と思ったらすごい勢いで、戻ってきた。
まあわかるなと思った、深夜1時を過ぎて上記の通り、変な恰好の女が1人で歩いている。職質案件だと思う。
「すみません、身分証明などできるものはお持ちですか? 失礼ですが年齢は…?」
暗闇で金髪で若く見えたのだろう、いつもは年齢より5歳くらいは上に見られるのに
「22歳です~!!免許証でいいですか?」
「成人されてましたか、失礼しました。ただね~この時間に女性の1人歩きは危険ですからね、早く帰りましょう。」
「終電に乗る電車間違えて迷子になっちゃって~へへ。ネットカフェとかこの辺あります~?」
森さんが充電をしているせいでイヤホンが接続できずに、通話がスピーカーになっているとわからない状況で叫んでいた。
『警察!?さとの事助けてよ!警察でしょ 保護するなり何とかしてよ!』
『そうですよねぇ~』
聞こえているだろうが、聞こえてないように警察官は言う。
「この先にタクシー乗り場がありますから、タクシーに乗って開けたところに出たほうがいいでしょう。そこにはネットカフェがあるはずですから。」
『警察!!警察なのにいつも動いてくれない、いつも動いてくれないのに何が警察なの!!』
「わかりました~ お手数おかけしました、行ってみますねありがとうございます!」
森さんがずっと叫んでいたけど森さんには私も、警察も反応せずに別れた。「お気をつけて」だけ言われたが、私はいつも気を付けて生きているつもりだ。

森さんはプンプンと効果音が付きそうな勢いで怒っていたが、森さんが優しいのはいつものことだといつも通りののんびりした調子でタクシー乗り場のおじいさんに声をかけて、10分くらいでタクシーが来ますということで、2人とお話ししながら待っていた。
森さんが近くのネットカフェを探していてくれたらしく、URLが送られてきて、『さとはすぐ迷子になるから住所を伝えて目の前まで送ってもらって。』ということで、その住所をタクシーの運転手さんに伝えて目の前まで運んでもらった。

ネットカフェの個室を取った。
「あぁ~疲れた、しんど~だるぅ」
久しぶりに走って、パンプスも履きなれていなくて 靴を脱いだ瞬間血の巡りが良くなったのか足が熱くなった、足の爪がはがれたんじゃないかと思うくらい痛かった。
『お疲れ様』
『おつ~』
2人がいてくれなかったらと思うと怖かった、やっぱりネット万歳。
藤に[ネットカフェに着いた、始発まで時間潰して始発でちゃんと帰るね。]
自撮り付きで連絡を入れると、夜中なのにすぐに返信が来て
[ネカフェね!おけ!起きたらまた連絡するわ!]
余計な心配かけたなぁと少し反省した。

森さんは安心した、明日も仕事があるから、だるまさんあとは頼んだよ~と離脱、だるまさんも多忙なのになんだかんだ毒を吐きながら通話に付き合ってくれて優しさが身に染みる1日だった。大好きだなと改めて感じた。
いつの間にか意識が飛んでいて、サーバーには私だけの状態になっていた。
始発の20分前の時間で、あたらめて靴を履くのに苦戦した、足が痛い。針で刺されているように痛い。歩くだけで激痛が走るものだし、1人だし。痛みと孤独感と虚無感に襲われながら駅に向かって歩いた。
駅から藤の家の最寄りは近かった、コンビニでお詫びのお菓子と朝ごはんの材料を買って藤の家のドアを開けると
「おかえり!帰ってこれてよかったよ 今お風呂にお湯入れるね。」
安心感を感じた。
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