第41話

文字数 1,031文字

「りりこ~!学校の時間だよ~!」
プレハブの前で先生が叫んでいる、5分くらい息を潜めていれば帰っていくのは昨日わかったから、布団をかぶって、物音を立てなければいい。
先生が家に来ることが当たり前になっていたし、近所の人の噂話もパソコンとイヤホンがあれば聞こえない、聞こえなければ無いのと同じなのだ。
聞こえないふりではなく、聞こえない、存在しないという状況を作り出せる、逃げ場になってくれる音楽は最高だった。
先生からSNSで連絡が来る、じゃんじゃん入ってくる。
【具合悪いの?薬買いに行く?病院に行く?明日も来るからね!】
(私の感情は無視かよ。)
担任の先生に対して信頼感は全くない、何かが嫌なのだ、すごく嫌で2人になる空間が嫌いで仕方なかった。

昼間は父が仕事でいないか、車をいじっているかだからあまり関わることを良しとはしていなかったから寝ていた、ずっと寝ている。
夕方になるとのろのろと起きだして、パソコンを点ける、することと言えば相変わらず音楽を聴くか、アニメを見るか。
お腹が空けば父の部屋に行って
「お腹すいたんだよね、コンビニ行くからお金頂戴。」
「じゃあ、俺のもなんかついでに買ってきて。」
「なにがいいの?」
「コーヒーとパン。コーヒーは微糖、パンはなんでもいい。」
「わかった。」
父親の注文は雑だ、毎回コーヒーとパン、こだわりはないらしくて最初は困惑したけど慣れれば楽だ。こだわりの強い祖母とは違う。
(親子なのになんでこんなに違うんだろう。)
祖母は小学生の私にお使いを頼んで、望みのものがないと怒るし、叩かれるからコンビニに行く事が恐怖でしかなかった。
祖母の食べたいものがありますように、ありますようにと願いながらコンビニに行く足は重くてしょうがなかった。
コンビニでのお使いもそうだが、探し物をしてこいと言われて探す。
「ないです。」
と言えば
「探し方が悪かったんじゃないの?あったらどうすんだ?」
威圧されて祖母が立ち上がる。
無いものは無いのに、10秒ルールが適応される。
「10、9、8、7、」
焦る、すごく焦る、急いで探すけど見つからない、見つかった時は安心感で何もかもから解放された気分になるのに、ない、ない。
「3、2、1」
祖母が立ち上がった。自分で探すんだと、使えないやつだと言われる。
無ければ無いでいい、無くていいのだ。
祖母の探し物があれば手が飛んでくる。
「どこに目ぇつけてんだぁ?」
その瞬間の恐怖の膨らみ方は尋常ではないのだ。辛かった。
思い出して少し憂鬱になった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み