第1話

文字数 1,563文字

今、私【りりこ】の持ち物はキャリーケース一個とトートバックが一つだ。
とても重いが、それだけを持って東北の田舎町の1人暮らしにしては広い2ldkから家具も何もかもを置いて 関東の友達の家まで逃げてきた。

東北の田舎町から関東に逃げてきての一週間でだいぶやらかしたのではないかと思う。
初日は不安だった、関東に出てくる、上京という単語に全く魅力を感じたことがないわけではない、このタイミングなのがまずかった気がする、コロナもある仕事はあるのだろうか、帰る場所も居場所もない私にはその瞬間はそうするしかないと思い込むしかなかった。やりきれない。
高速バスの移動は慣れていないからか体力を使ったように思えた、ただ座って音楽を聴きながら本を読み、気まぐれにTwitterでツイートをする作業がこんなにも息が詰まると思ったことは今までかつてなかった。
目的地に着き、小学校の時からの付き合いがある友達、【藤】が迎えに来てくれたときはとても嬉しかった。
誰もいないと思っていた時に逃げてきてもいいよ、心配だと言ってくれたのはとても当時の私にはよく染みる言葉だった。
その後は家に招待され、荷物を置き とりあえず食事をしようと初めて行くチェーン店のランチを食べた。
夜はネットの友達と会う約束をしていたから、1週間ぶりに化粧をして繁華街まで繰り出した。
今まで住んでいた町とはだいぶ違うように思えた、同じ日本でもこんなに違うものかと、1年ぶりの東京で、旅行ではなくこの先ここで生きていくのかと思うと、いつもは楽しい、愉快だという感情しかわかない都会に不安を感じた。
初めて会うネットの友達、【森】は素敵な人だった。
清潔感のある癖のない綺麗な髪の毛、品のある化粧に顔立ち、服には毛玉もしわもなく、フローラルな柔軟剤のような香りがした。
『いつも通話してる私たち、ちゃんと存在してたね』
笑ってくれた時はとても心が温かくなった。
いつもの通り気さくで、田舎から出てきた私に気を使って前を歩いてくれた彼女は私より背が低いのに大きく見えた。
コロナの影響で時短営業をしている飲食店が多く、19時から待ち合わせた私たちは食事をする場所を探してしばらくさまよった末に個人経営の焼き肉屋にたどり着いた。
久しぶりに食べた焼肉は美味しかったし、素敵な彼女との会話はとても充実感を感じるには十分だった。バスの休憩所で買っておいたお菓子を渡すと、私もとチョコレートをプレゼントしてくれて嬉しかった。
食事代は上京祝いだとふるまってもらったことで、歓迎されているんだと感動し、これからがんばらなければと考えた。
地元で友達と遊ぶように、1日動き回った疲れた顔で盛れない自撮りをし、プリクラを撮り 充実感に浸ったまま友達の家に帰路についた。
初日は大事な人達に大事にされているんだと充実感はあったはずだが、消せない不安要素が大きくて寝れなかった。何かをしなければいけないに押しつぶされそうになり、仕事をはじめようと思った。

2日目は仕事の求人を読み漁り、寮完備と記載されたキャバクラの体入(体験入店)に行った、求人情報の通り、寮がある 敷金礼金は20万、寮費は月に6万円、光熱費は実費、保証人は要らないよと紹介され、安心した。自分の場所が確立できる安心感だった。店長もスタッフさんもキャストさん達も癖はあるが 人間関係の点で私がうまくやれればやっていけないことはないかと考えて入店をしようと考えた。私も癖が強いと自分で思っているし、扱いづらい人間だと思う 自分で思うんだから他人様からみたら相当だとも思う。
このコロナのご時世に雇ってもらえるだけで嬉しいことなのだろうと考えたが、何よりも、何かをしていないと焦燥感と虚無感でいられなかった。
何かに打ち込んでいます、不安は感じません、強い自分でいたかった。
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