第52話

文字数 960文字

学校の廊下は夏でも冬でも関係なくひんやりしている、学校は廊下と誰もいない教室が好きだった。
図書室に行ってから所属している美術部の部室に顔を出そうと思っていた。

私は美術部員だったが、絵を描くことも、工作をすることもなく、卒業するまでの間に作品を一つも仕上げることはなかった。
美術部に入部した理由は、同級生の女の子に誘われたからだった、その子は部長をしていたし、癖の強い部員にへきへきしていたらしく、「普通にお話しできる人が欲しいんだよね。」と言ってくれたことは嬉しかったので、他の部員の心情は知らないが、入部することにした。
入部したからと言って何をするわけでもなく、顔を出せば掃除をするか、人のお話しを聞くかで、美術部の顧問の先生がよく私の生活について心配してくれていたので、気まぐれに学校に来る私を食事をしに連れて行ってくれたりもしていた。
部員全員に食事を提供したり、奢ることには何の違和感も感じていなかったようで、昔からそういう人なんだろうなという印象だった。
いつだったか、中学2年生の時に、
「施設に行った方がいいんじゃないか、実はそういう話が職員会議で出てるんだ、りりこが良ければうちの養子に来てもいい。」
と提案されたことがあった。
先生は【福地】先生という、年齢は退職直前のおじいちゃんといった印象だった、独身で、1人で持ち家に住んでいることも知ってはいたし、私の今の生活を見れば不憫に思ったんだろうなと感じた。
「実家が自営業だから、こんな田舎町で私が養子に行きましたよ、施設に行きましたよってなったら噂は広がるし、父がてんてこ舞いになっちゃうから。行けないです。」
福地先生の申し出はとても嬉しかったのだが、私が養子に行くことによって、父は自分の人生を何年間も潰して祖母の借金返済をしているのに、私だけ逃げていいのかと、別に私が家に居ることでなにか助けになることはないし、食費も光熱費も削られるはずで、養子に行った方が家族の事を考えれば良いのかもしれないが、私はまだ父に期待をしていたのだ、父親としていてくれることを期待していて、どうしようもなく家族にこがれていたのは確かだった。
「そうか…」
何か言いたそうな顔をしていたが、あまり深く考えても現状を変えないと選択したのは私なのだ、後悔はしないようにしたいなと思った。
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