四.

文字数 7,528文字

 メヴィウスは、何のためらいもなく扉を押し開けた。
 と、彼が一歩踏み入ったその途端、高く澄んだ女の声が聞こえてくる。

「あら、お早いわね。アンドレイオン師」

 部屋の中に三歩踏み込んだメヴィウスは、目だけで部屋の中を観察する。
 薄暗く、真四角の広い部屋に、窓はない。その部屋の一番奥、彼が立つ位置から数十歩を隔てた正面の壁際に、頭から爪先までローブで覆った人物が立っている。
 その傍らに据えられた椅子に座っているのは、ワンピースとショールをまとった良家の娘、と映るプリモだった。彼女の目は静かに閉じられ、意識はないらしい。
 メヴィウスは、抜け目なくローブの女を注視しながら、部屋の中央まで進み出た。
 そんな彼を見つめる女が、ベールの下で楽しげに口を開く。

「初めまして、アンドレイオン師。お噂はかねがね。思ったよりも若くて、可愛い方ね」
「あんたが“女屍師(ヴェネフィカ・モルテ)”のパペッタか」

 気味悪いほどに友好的なパペッタに対して、メヴィウスは務めて無愛想、かつ事務的な口調で言い渡す。

「プリモを返してもらおう。俺の用件はそれだけだ」

 そのパペッタも、特に気分を害した様子もなく、大きくうなずく。

「もちろんお返しするわ」

 パペッタが、椅子の上でだらしなく眠るプリモを一瞥した。
 メヴィウスも、もう一度プリモに視線を向ける。何というか、妙に安らかで無邪気な寝顔だ。
 安心感と同時に、何とも言えずもやもやする彼だった。
 そんなメヴィウスに、パペッタが興味深げな調子で言葉を投げてくる。

「この子、本当に面白い子ね。気に入ったわ。“薄暮人(ダスカン)”ではなかったのが、残念だけれど」
「プリモは、俺が因子を操作して創った“生体器械(マキナ・ヴィーヴェンタ)”だ。そんなものじゃない」

 メヴィウスの台詞を聞き、パペッタが二度三度と深くうなずく。

「私の察するところ、体細胞の分裂回数を操作なさってあるのね? 一つの細胞分裂回数上限を外して、常に死滅する細胞と生成される細胞とが、総量として等しくなるように」
「ああ。そのとおりだ」

 メヴィウスが浅くうなずいた。パペッタの慧眼に密かに警戒を強めつつ、メヴィウスは短く続ける。

「ひとつの体細胞の分裂回数も、俺たち龍の倍以上に設定してある。ほぼ不老不死の、俺の最高傑作だ」
「“永遠に若いままの可愛いメイドさん”。男の子の夢、といったところかしら? それを形にできたところが、さすが“万有術師(マグス・ウニヴェルサリス)”ね、アンドレイオン師」

 パペッタが、厭味なくくすくすと笑う。

「『舟の書』の知識をお使いになってらっしゃるのね? 貴方とはお話が合いそうで、嬉しいわ。アンドレイオン師なら、良いお友達になれそう」

 メヴィウスに注がれる熱い目は、好奇心に煌めいている。だがそのまとわりつくような熱情が、何となく気持ちの悪いメヴィウスだった。
 答えないまま、むっつりと黙り込む彼に、パペッタがさらに畳みこむ。

「せっかくだから、本題に入る前に、もう一つ教えて頂けないかしら?」

 女屍師を正視したメヴィウスは、自分の眉間に意識を集中する。
 即座に彼の松果体が、わずかな波動を認識した。
 
 ……この怪しい女から発散される魔力は、やはり微弱だ。
 何か特殊な身体構造をしているのは間違いない。いわゆる屍師だからだろうか。
 それとも、何か他の理由が……?

 黙したままうなずく彼に、パペッタが神妙な口調で問う。

「貴男の本拠は、ここから遠く離れた沼地の塔だと聞いているけれど、どんな術法を使って、ここまでいらしたの? 瞬間移動の術法は極めて困難なのに、貴男は完璧に行使したとお見受けするわ。これは純粋な探求心から、万有術師アンドレイオン師にお聞きしたいの。どうかお答え頂けないかしら?」

 メヴィウスは目を閉じ、刹那の間に思考を巡らせた。
 ……恐らくパペッタの言葉に嘘偽りはないだろう。一介の魔術師としての質問に違いない。
 彼はすぐに漆黒の瞳をパペッタに向けた。

「引き裂かれた二つのものの間には、強烈な引力が働く。その引力を利用した瞬間移動の術法が、俺が考えた転移術・黒龍式だ。元々、霊魂を持った存在を瞬間移動させること自体、制約が大きい。払う代償も大きいから、まともに行使したのはこれが初めてだ」
「ありがとう、アンドレイオン師。とても面白い発想だわ」
 
 彼の誠実な回答を聞き、パペッタがうふふ、と奇妙な笑いを洩らした。

「『引き裂かれた二つのもの』、とても意味深ね」
「どういう意味だ?」

 思わず眉根を寄せたメヴィウスに、女屍師がねっとりと絡みつく視線を寄越す。

「察するところ、貴男は二つに割った呪物を行使して、ここまでいらしたのでしょう? でも、本当に効果を発揮したのは、その呪物なのかしら? それとも……」
「……!?」

 メヴィウスの視線が、意図せずプリモを捉えた。
 ……まさか。
 自分を疑い、びくんと仰け反ったメヴィウス。胸の傷が何故かしくしくと疼き、彼は口元を引き結んだ。

 彼の怪訝な顔を見ながら、パペッタが満足そうにうなずく。

「まあいいわ。とりあえず、貴男と同じ知恵と知識を探究する者として、貴方のお答えに、深く感謝するわ。ありがとう」

 よほど嬉しかったのか、二度も礼を述べたパペッタだった。が、すぐに彼女は元の淡々とした物腰に戻り、口火を切った。

「それでは、本題に入りましょう。取引のお話よ」
「話は聞いてる」

 小気を取り直したメヴィウスは、小さくうなずいた。背後をちらりと見遣ると、すぐ斜め後ろに拳闘士ハリアーが立っている。その両肩は怒り狂い、陽炎のように灼熱の闘気が揺らめく。
 よくもまあ今まで黙っていられたものだ、と呆れた吐息をつくメヴィウス。
 皮肉っぽく肩をすくめ、彼はパペッタに視線を戻した。

「あんたは『舟の書』が欲しいらしいな。それも完本が」

 メヴィウスは小脇に抱えた白い本を取り、片手で掲げて見せる。

「これが、伯父貴と俺が修正を加えた完本、『黒龍版・舟の書』だ」

 パペッタのほっそりとした上体が、わずかに仰け反った。激しい驚きと緊張、それに強い感動のだめだろうか。その肩は小刻みに震えている。
 茫然自失の態を晒す彼女から目を逸らさずに、メヴィウスが言葉を放った。

「俺もあんたに聞きたい」
「ええ、何なりと」

 パペッタがうなずくと、メヴィウスは椅子の上のプリモに視線を向けた。

「当然プリモは生きているんだろうな? 実は死んでて“起屍傀儡(コーズ・エシッタ)”を行使してる、なんて話にならないぞ」

 メヴィウスの疑り深い言葉を聞き、パペッタは弾かれたように笑い出した。

「嫌だわ、アンドレイオン師。これでも私は、この街では少しは知られた“久遠庵”の主なのよ。取引の公正は、必ず守ります」

 パペッタも、目を閉じるプリモを一瞥する。

「神経の情報伝達を一時的に遮断しただけ。一種の睡眠状態だから、命に別状はないわ。そのうち目を覚ますからご安心を、アンドレイオン師」
「屍師は人体の構造にも詳しいと聞いていたが、本当らしいな」

 感心半分にメヴィウスが言うと、パペッタは小さく含み笑いを洩らした。

「そうね。お褒めにあずかり、光栄だわ」
「あんたも屍師に手が届いた達人なら、今さら『舟の書』など不要だろう?」

 しかし彼女は答えない。メヴィウスから十数歩の距離を空けた壁際から、パペッタが右手を差し出す。

「アンドレイオン師の『舟の書』が本物かどうか、確かめさせて頂いてもいいかしら? 一つ、試してみたい術法があるのだけれど」
「何を試す?」
魔術結社中央会議(セントラル)の『舟の書』では習得できなかった屍霊術よ。この場で試したいの」

 ローブから覗くパペッタの目が、爛々たる光輝を放っている。熱く、絡みつくようなパペッタの視線と言葉を受け、メヴィウスは目を伏せた。


 ……何故この女がメヴィウスの持つ『舟の書』を欲したか、得心がいった。
 予測は正しかったようだ。

 メヴィウスがさらに言葉を投げようとしたとき、いきなり彼の前にそれまで黙っていたハリアーが躍り出た。

「おいパペッタ!!」

 ハリアーは、残ったマドゥを右手に握り締め、今にも飛び掛りそうな勢いで咆哮する。

「さっきは不覚を取ったけどな、今度はそうはいかないぞ! お前がロクでもない呪文を唱える前に、あたしがお前の賞金をきっちりモノにしてやる!」

 ハリアーの挑戦を聞き、パペッタが苦笑めいた吐息を洩らした。

「あら、ハリアーさん。貴女、あの怨霊たちに打ち勝ったのね。さすがの意志力だわ」

 腕組みのパペッタは、困ったような口調で言う。

「“起屍傀儡(コーズ・エシッタ)”も、“怨霊示現(オディファニー)”でも、ハリアーさんを止められなかった。でも貴女には、これ以上邪魔されたくないのよ」

 パペッタは、ローブの袖の中から何かを取り出すと、足元の床に置いた。
    
 よくよく見れば、それは真っ白な髑髏だった。
 額には円い鏡が取り付けられ、ぽっかり空いた二つの眼窩には小さな水晶球が入れてある。

「何だ?」

 ハリアーは、遠巻きながら膝を屈めた。
 だが『舟の書』を熟知しているメヴィウスには、それが何なのかすぐに分かった。彼は鋭く警句を飛ばす。

「髑髏を見るな!」

 しかしもう遅かった。
 覗き込むようなハリアーの顔が、髑髏の鏡に映ったその途端、髑髏は床からすうっと浮き上がった。床に隠れていた胴体も、同時に露わになる。そして数秒の間もなく、床の上に一体の骸骨が屹立した。淡い灯りの下、骸骨の全身は純白に輝いている。

「何だ、また骸骨か。骨くらい何体来たって粉砕してやるよ!」
「ただの骸骨じゃない。“鏡像骸士(ミラー・ウォーリアー)”だ。気を付けろ。あれは自分だと思え」

 メヴィウスは不敵に身構えるハリアーの背中に向かって、簡潔に忠告した。

「どういう意味だ?」

 怪訝な顔でハリアーが、肩越しに振り向く。と、その間に、純白の骸骨の上体がぐるりと一回転した。骸骨の右手には、影で作られた小さな丸盾マドゥがしっかりと握られている。
 すぐに正面に向き直ったハリアーは、驚いたように目を見開いた。
 純白の骸骨は、ハリアーと全く同じ武装、そして同じ構えを見せている。しかしハリアーに怯んだ気配など、毛先ほども窺がえない。口許の犬歯をきらりと光らせて、彼女は不敵に笑う。

「いいねえ。何が来ようと、実体があるなら大歓迎だ」

 言うが早いか、ハリアーは床を蹴って跳び出した。同時に、骸骨も乾いた音を立てつつ、ハリアーに向かって踊りかかる。
 激しく拳を交わすハリアーと骸骨を尻目に、パペッタがメヴィウスに呼びかける。

「さあ、私たちは取引のお話を進めましょう」

 『舟の書』を小脇に抱えたメヴィウスは、小さくうなずいた。

「しかし“鏡像骸士”とは驚いたな。あれは相当高度な屍術(コルポクラフト)だ。しかも魔術結社中央会議の『舟の書』では、“鏡像骸士”の項にもひどい誤記があると聞いてる。よく習得できたな」

 メヴィウスが素直に感心すると、パペッタは嬉しそうに肩をすくめた。

「そうね。間違いを正すのは簡単ではなかったわ。でも私の先生が遺した文献を隅々まで読んで、何とか行使に耐えられるように修正したのよ。私のコンコード学派は屍術と相性が良いの」

 そこでパペッタが、再度右手を差し出した。

「さあ、『黒龍版・舟の書』を頂けないかしら? 術法の効果を確かめたら、すぐにプリモさんはお返しするわ」

 メヴィウスは答えない。軽く目を伏せ、迷う素振りをして見せる。
 そんな彼に、パペッタが穏やかに声をかける。

「あら、迷うことはないでしょう、アンドレイオン師。貴男が本を下さらないなら、結論は決まっているのだから。貴男は一冊の本と、メイドさんの命を秤に掛けられるかしら?」

 パペットが吐露したその真意は、体のいい脅迫に他ならない。今この状況で選べる選択肢は、一つだけだ。
 決断したメヴィウスは、写本を手に取った。

「いいだろう。どうせ写本だ。あんたにやるよ」
「嬉しいわ、アンドレイオン師。お話が分かる方ね」

 弾みに弾んだ声を上げ、パペッタは何度もうなずく。
 と、いきなりメヴィウスの背後の方から、ハリアーの怒声が割り込んできた。

「やめろっ! そんなもの渡したら、何されるか分からんぞ!」

 いつの間にか、ハリアーと真っ白な骸骨はメヴィウスの後方に位置を変えていた。叫んだハリアーが、骸骨の側頭部を目がけ、マドゥを握った拳を鋭く叩き込む。が、骸骨は目を見張るほどの身のこなしで、ハリアーの一撃を受け流した。そして流れるように骨だけの上体を捻り、ハリアーの首を狙って肘撃ちを繰り出す。

「おっ!?」

 ハリアーは咄嗟に身を屈めた。骸骨の乾いた肘が、彼女の高く結い上げた髪をわずかに掠める。彼女が忌々しげに舌打ちした。

「コイツ、ホントに強いぞ。あたしそっくりだ」

 一体の骸骨相手に苦戦を強いられるハリアーを眺め、パペッタが面白そうな口調で言う。

「ええ、そうでしょうねえ。“鏡像骸士”は、ハリアーさんの武器と太刀筋を完璧に写し取っているもの。そう、貴女は貴女と戦っているのよ」
「へえ、あたしの武器と太刀筋を写す、ねえ……」

 メヴィウスは、ふと気が付いた。
 繰り返したハリアーの口許に、微かな笑みが浮かんでいる。どうやらハリアーが何か閃いたらしい。
 彼女が、バッととんぼ返りを切って骸骨との間合いを取った。
 これ見よがしな動作でマドゥを投げ捨てて、ハリアーが高く結い上げた赤い髪に自分の右手を延ばす。
 そしてこしのある長い髪をするりと解いた。
 ハリアーの下ろした髪が、彼女の背中でマントのように、はらりと広がった。彼女が手にした細長い紐は、両端に涙滴型の青い宝石が付いている。恐らくサファイアだろう。使い方次第では、鈍器にもボーラにもなりそうだ。
 そんな髪結い紐を両手で構えたハリアー。硬い錘のついた紐の武器、鋲縄(ひょうじょう)として使うつもりだろうか。ハリアーはああ見えて、第八階戦士の“万器練達”に到達した熟練戦士だ。どんな武器でも使いこなせる。
 勇壮に身構えたハリアーの数歩先で、骸骨がピタリと動きを止めた。と、見るや骸骨に変化が起こった。
 純白の骸骨の上体が、腰骨を軸にしてぐるりと回る。ハリアーが持つ紐を新たな武器と認識した骸骨が、自分の影の得物も写し替えているのだ。
 そして骸骨の背中が見えた瞬間、ハリアーの紫紺の目がきらりと閃いた。
 鏡像骸士の唯一にして、最大の隙。
 練磨のハリアーは、それに気が付いていた。

 紐を放り捨て、床を蹴り、滑るように駆け出したハリアー。瞬時に骸骨の真後ろに立つと、両手をスッと骨の脇の下へと差し入れた。そしてグッと自分の脇を引き締めて、左右の掌を骸骨の後頭部にがっちりと重ねる。いわゆる羽交い絞めだ。

「いっただき!」

 会心の声を上げたハリアーが、ぐっと身を屈めた。鏡像骸士を背後から締め上げつつ、ハリアーが力一杯に床を蹴る。

「ああっ!?」

 ひと声を上げて立ち尽くすパペッタを尻目に、女拳闘士はメヴィウスの背丈も軽々と越えて、ひらりと宙に舞う。と、天井近くで一瞬静止したかと思うと、今度は骸骨ともども、床へと真っ逆さまに落ちてくる。

「これでも喰らっとけ!」

 叫んだハリアーが、背後から羽交い絞めに固めたまま、骸骨の脳天を床に叩きつけた。パペッタの目の前で、鏡像骸士の頭は乾いた音とともに、粉みじんに砕け散る。頭蓋のかけらは辺りに散乱し、関節が外れた四肢もばらばらに飛散した。

「一丁あがり!」

 憤然と言い放ち、ハリアーはすっくと立ち上がった。得意満面に胸を張った彼女に、メヴィウスは鋭く言葉を飛ばす。

「どいてろハリアー!」

 メヴィウスの声を聞き、ハリアーが振り向くより早く脇に逃れた。彼女が粉砕した骸骨のかけらは、もぞもぞと動きながら、茫然と立ち尽くすパペッタと彼との間に集まってくる。どうやら再生しようとしているようだ。
 メヴィウスは素早く印形を切り結び、呪文を唱えた。

「“我が指は二本の巨木。嘆きの風よ、木々を戦慄かせよ”」

 彼は再び一つに集まる骨に向けて二本の指を立た。

「“ソヌース・フルクトゥス”!」

 メヴィウスが語気も鋭く放った結句は、彼の指を音叉のように震わせる。その指の間から、鼓膜を殴打する大音響とともに衝撃波がほとばしり、骸骨を激しく打ち据えた。
 元の姿を取り戻しつつあった骸骨は、まるで巨大な攻城槌の一撃を受けたかのように、微塵に粉砕された。
 だが直進する音のハンマーは、まだ止まらない。
 鏡像骸士を文字どおり粉塵と吹き飛ばした衝撃波は、そのままパペッタを直撃した。
 声にならない声をその場に残し、跳ね飛ばされたパペッタが、そのまま背後の壁に叩きつけられた。部屋を揺るがす鳴動とともに、彼女のローブは引き裂かれて飛び散り、隠されていた肢体が露わになる。
 がくりと床に崩れ伏したパペッタだったが、彼女はすぐにゆらりと立ち上がった。
 よろめくパペッタの裸身を目の当たりにして、ハリアーが裏返った声を上げた。

「パペッタ、お前……!?」

 パペッタの裸身は、白く滑らかな、つるんとした光沢に覆われている。
 頭髪のない頭に、無表情な顔。何となく膨らんだ胸に乳首はなく、腕も脚も、まるで球関節でつながった棒のようだ。彼女の全身には、およそ柔らかさを感じさせるものなど、一つもない。まるでかちかちに焼き固められた、陶器人形を彷彿とさせる。
 だが、メヴィウスの衝撃波を受けたパペッタの体は、今やあちこちに亀裂が走り、痛々しい外見を晒している。
 メヴィウスは、パペッタをじっくりと観察しながら言う。

「あんたのその体、やっぱり“保存屍者(プリザーブド・デッド)”を行使したみたいだな」
「どういうことだ?」

 怪訝な顔のハリアーを横目に見ながら、メヴィウスは冷静に語り始めた。
     
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