姫と魔術士 3
文字数 2,050文字
準備を終え揃って戦士学校を出た二人はしばらく道沿いに、街へと歩いていた。周囲には大きめの荷物を持った同じように卒業したらしき者達が、一人、或は複数人でぽつぽつと歩いている。学校からは街への馬車も出ていたから、歩く者達は然程多くは無い。
二人の周囲、少なくとも声の聞こえる範囲内には誰もいなかった。
様子を伺ったアミルが、それでも小さな声でサフに話しかけてくる。
「あの話の続きな。サフには申し訳ないけど、早めに皇国に様子を見に行かんと」
「魔術士封じが行なわれてるかどうかの確認?」
「おう。後、出来れば中に入り込めりゃ良いんだけどな。相手がある程度解りゃ、対策も立て易いから」
さらりとそんな事を言うアミルに、彼女は中に入り込む方法を思案する。
素性を隠したまま国の中に入る事は全く難しく無いだろう。皇国は様々な古代遺跡も抱える観光の国でもあるから、ヒトの出入りは常に多く、外国からの客は何処の街でも大抵見られる光景だ。
しかしアミルが言う所の中とは、王宮の中という事だろう。
そうなると途端に難易度が上がる。
王宮の中に入れるのは関係者だけだ。少なくとも何の縁も持たない外国のものが、何の理由も予定も無しに入れてもらえる場所ではない。中庭を拝む事すら難しいだろう。アミルが使う転移魔術も、王宮の中では恐らく直ぐにクリアに気取られる。
「中は、んー、難しい、よ?」
「だよなぁ…………あ!」
熟考の末に導いた結論にアミルは頷き、そして何かを思いついたらしく横を歩くサフの顔をじっと見た。
きょとん、とその視線を迎える彼女に、少年は彼女をまじまじと見た後で、首を傾げる。
「なぁ、サフ。ちょっと魔術士になってみる気は無いか?」
その口から出たのはそんな、突拍子も無い言葉だった。
「アミル、僕は魔術は使えないけど」
「知ってる。宝石姫も使えない事は世間に知られてるだろ? だからソコを使う。ほれ、杖」
そして周囲にヒトがいない事を伺ったアミルが空から取り出し渡してきたのは、破幻杖で。
受け取った彼女に、アミルはいつの間にか持っていた小さな鞄の中から、恐らくは彼自身が使ってたのだろうローブを更に着せて、ぱちりと指を鳴らす。途端、目の前のアミルの毛色が栗色から柔らかな金色へと変化した。瞳の色は青空の色へ。
突然の変化についていけないサフは、満足げに頷くアミルの見慣れない配色に戸惑いを隠せないでいたが、少年魔術士の方は平然と彼女の頭を撫でる。
「おし、成功成功。ほれ?」
そして彼が示した彼女の前髪は、見慣れた金ではなく。
「これ、もしかして」
「そ。俺と色交換。とりあえずそれで大分雰囲気も変わったな。宝石姫は女で、金髪碧眼で、魔術が使えない。魔術が使える茶髪赤目の女はどんなに似てたって宝石姫にゃ間違われないだろう?」
「だけど、魔術」
満足げに頷くアミルに言い募るサフだったが、アミルは杖を指差しにまりと笑う。
「そいつで、刃、出せるだろ? ソイツにかけてある具象化術は立派な魔術の一種だぜ?」
『それだけで魔術士って、言っちゃって良いの?」
サフからすればそれはあくまで杖の力を使っているに過ぎない。
そんな事で魔術士と言えるなら、世界中の誰もが魔術士と名乗れてしまうのではないかと思うのだが、言われたアミルの方は平然としたもので「そんなもんだよ。ってか他のヤツらにゃわかんねーから大丈夫だって」と言い切ってしまう。
確かに、彼女がこの杖を使って刃を出すのは、アミルが呪文も動作も無く平然と術を使うのに似ている。
微妙に納得出来ないサフは取り残したまま、アミルの方は暢気に話を進めて行く。
「とりあえずそれで、俺と一緒に皇国の一時雇われ魔術士になってみるか」
「ええええ1?」
「祭典、あんだろ。祭典の前に皇国が準備用に魔術士を大量に一時雇いするのは俺らの界隈じゃ有名な慣習だし、色の称号の魔術士見たさに外国からも魔術士がやってくるのも普通らしいからな。コレで俺と二人雇われりゃ。中に入れるだろう?」
あっさりとそんな事を言うアミルは、己が雇われない事等全く想定していないらしい。
アミル程の魔術士ならばそうだろうけれども、1つの魔術しか使えないような魔術士が雇われる事は無いのではないだろうか…………とサフは内心思ったのだが、この場ではあえてそれは言わなかった。
仮にそうなったとしても、アミルが中に入れるなら目的は達せられるだろうと踏んだからだ。
少なくともサフからして、アミルが雇われないという事はまず無いだろうと解る。アミルは、サフが知る限りにおいて、クリアを除く王宮の他の魔術士達よりも実力が上だからだ。
こうなれば、アミルに全てを任せて自分はそれに協力する方が、良策に違いない。
「うん、解った」
「おーっし、じゃあ行くかぁ!」
金髪になったアミルが(睫毛まで金のあたり、相当手が込んだ魔術だと解る)ぐっと伸びをして再び道を歩き出す。
それを追ってサフも歩き出した。
向かうのは、皇国。
何年ぶりかの彼女の母国だ。
二人の周囲、少なくとも声の聞こえる範囲内には誰もいなかった。
様子を伺ったアミルが、それでも小さな声でサフに話しかけてくる。
「あの話の続きな。サフには申し訳ないけど、早めに皇国に様子を見に行かんと」
「魔術士封じが行なわれてるかどうかの確認?」
「おう。後、出来れば中に入り込めりゃ良いんだけどな。相手がある程度解りゃ、対策も立て易いから」
さらりとそんな事を言うアミルに、彼女は中に入り込む方法を思案する。
素性を隠したまま国の中に入る事は全く難しく無いだろう。皇国は様々な古代遺跡も抱える観光の国でもあるから、ヒトの出入りは常に多く、外国からの客は何処の街でも大抵見られる光景だ。
しかしアミルが言う所の中とは、王宮の中という事だろう。
そうなると途端に難易度が上がる。
王宮の中に入れるのは関係者だけだ。少なくとも何の縁も持たない外国のものが、何の理由も予定も無しに入れてもらえる場所ではない。中庭を拝む事すら難しいだろう。アミルが使う転移魔術も、王宮の中では恐らく直ぐにクリアに気取られる。
「中は、んー、難しい、よ?」
「だよなぁ…………あ!」
熟考の末に導いた結論にアミルは頷き、そして何かを思いついたらしく横を歩くサフの顔をじっと見た。
きょとん、とその視線を迎える彼女に、少年は彼女をまじまじと見た後で、首を傾げる。
「なぁ、サフ。ちょっと魔術士になってみる気は無いか?」
その口から出たのはそんな、突拍子も無い言葉だった。
「アミル、僕は魔術は使えないけど」
「知ってる。宝石姫も使えない事は世間に知られてるだろ? だからソコを使う。ほれ、杖」
そして周囲にヒトがいない事を伺ったアミルが空から取り出し渡してきたのは、破幻杖で。
受け取った彼女に、アミルはいつの間にか持っていた小さな鞄の中から、恐らくは彼自身が使ってたのだろうローブを更に着せて、ぱちりと指を鳴らす。途端、目の前のアミルの毛色が栗色から柔らかな金色へと変化した。瞳の色は青空の色へ。
突然の変化についていけないサフは、満足げに頷くアミルの見慣れない配色に戸惑いを隠せないでいたが、少年魔術士の方は平然と彼女の頭を撫でる。
「おし、成功成功。ほれ?」
そして彼が示した彼女の前髪は、見慣れた金ではなく。
「これ、もしかして」
「そ。俺と色交換。とりあえずそれで大分雰囲気も変わったな。宝石姫は女で、金髪碧眼で、魔術が使えない。魔術が使える茶髪赤目の女はどんなに似てたって宝石姫にゃ間違われないだろう?」
「だけど、魔術」
満足げに頷くアミルに言い募るサフだったが、アミルは杖を指差しにまりと笑う。
「そいつで、刃、出せるだろ? ソイツにかけてある具象化術は立派な魔術の一種だぜ?」
『それだけで魔術士って、言っちゃって良いの?」
サフからすればそれはあくまで杖の力を使っているに過ぎない。
そんな事で魔術士と言えるなら、世界中の誰もが魔術士と名乗れてしまうのではないかと思うのだが、言われたアミルの方は平然としたもので「そんなもんだよ。ってか他のヤツらにゃわかんねーから大丈夫だって」と言い切ってしまう。
確かに、彼女がこの杖を使って刃を出すのは、アミルが呪文も動作も無く平然と術を使うのに似ている。
微妙に納得出来ないサフは取り残したまま、アミルの方は暢気に話を進めて行く。
「とりあえずそれで、俺と一緒に皇国の一時雇われ魔術士になってみるか」
「ええええ1?」
「祭典、あんだろ。祭典の前に皇国が準備用に魔術士を大量に一時雇いするのは俺らの界隈じゃ有名な慣習だし、色の称号の魔術士見たさに外国からも魔術士がやってくるのも普通らしいからな。コレで俺と二人雇われりゃ。中に入れるだろう?」
あっさりとそんな事を言うアミルは、己が雇われない事等全く想定していないらしい。
アミル程の魔術士ならばそうだろうけれども、1つの魔術しか使えないような魔術士が雇われる事は無いのではないだろうか…………とサフは内心思ったのだが、この場ではあえてそれは言わなかった。
仮にそうなったとしても、アミルが中に入れるなら目的は達せられるだろうと踏んだからだ。
少なくともサフからして、アミルが雇われないという事はまず無いだろうと解る。アミルは、サフが知る限りにおいて、クリアを除く王宮の他の魔術士達よりも実力が上だからだ。
こうなれば、アミルに全てを任せて自分はそれに協力する方が、良策に違いない。
「うん、解った」
「おーっし、じゃあ行くかぁ!」
金髪になったアミルが(睫毛まで金のあたり、相当手が込んだ魔術だと解る)ぐっと伸びをして再び道を歩き出す。
それを追ってサフも歩き出した。
向かうのは、皇国。
何年ぶりかの彼女の母国だ。