女子魔術学校のアミル 2
文字数 2,228文字
どんなに嫌な事でも、時間は直ぐにそれを目の前に用意してくれる。
たとえそれが『色付き』の魔術士であっても結果は同じで、数日の後にアミルは両校集まっての壮行式の最前列にいた。つまらない両校の校長の長々とした話も終わり、それぞれが自分の相手を捜して挨拶をした後に出立をする所にまで時間は進んでいる。
誰が相手なのかは、胸に付けた数字の札が示していた。アミルのものは勿論「1」で、相手も同じものを付けているはずだった。
(何かもぅ探す気も起きねーんですけど)
広い校庭の中には、それぞれの学校から約二十人程がいて、合わせて四十人。少ないようで、十分探すには面倒な数になっている。例え相手が男限定であったとしてもだ。
だから、アミルは最前列から動かずに、ざわざわ自分の相手を捜して動き回る男女をぼうっと見守っている。今の所、同じ数字を付けている男は見つかっていない。見つけたいような、見つけたく無いような複雑な気分である。
「あの」
背後から、声が掛かって振り返る。
その高い声質に、同じ学校の生徒かと思っていたのだが、振り返った先にいたのはアミルと同じくらいの背丈の少年だった。柔らかな金の髪はふわりと流れ、長い金糸の睫に縁取られた大きな青の目は曇り無くまっすぐアミルを映している。整った顔立ちに、白い肌。お世辞でも何でもなく見た事の無い程の美少年に、思わず息を飲んだ。
(うわ、こんな男いるのか)
服装が男物で、帯剣している姿から迷わず男と考えたけれど、そうでなければ間違いなく女と思っていただろう。戦士学校の生徒なのだろうが何処もかしこも華奢で顔立ちも甘く、戦士の雰囲気など持っている剣以外では感じ取れない。
自分が女装し女と偽っている手前、失礼かもしれなかったが……アミルからすれば、目の前の男の存在の方がよっぽど詐欺としか言いようが無い。現実にこんな男が存在しているとは思わなかった。
呆然と相手を凝視しているアミルに、相手は困った顔で話しかけてくる。
「きみ、アミルさんだよね?」
「そうだけど」
一体何の用だろう?
一応容姿が可愛い部類に入るらしいアミルは、休日など外に出ればナンパなどされる事もある。しかし、この場所と、そして美少女に見紛うような少年相手では、微妙に違和感があった。
相手の出方が読めずにただ返事だけしたアミルに、少年は困った顔のままで自分の胸元を示してみせた。
「これ」
示されるままにそこを見て、硬直する。
小さな札には、アミルと同じ数字が書かれていた。
(1、え、1?)
それは成績順に割り振られる札。女子魔術学校で首位であるアミルは「1」。それでは、目の前にいる「1」の少年は自動的に男子戦士学校の首位という事で。この、ともすれば美少女にしか見えない美少年が、その他に居るいかにも男臭い戦士ども全てを押さえて上に立っているという事で。
「えぇぇぇぇぇっ!? ま、マジ?」
驚愕し、悲鳴のような声を上げてしまったとして、誰にも責められる謂れなど無い。
アミルが声を上げた瞬間びくりと全身震わせた少年の方は、そんな反応は予想していなかったようだったが、一般的に考えて己は間違っていないとアミルは断言出来る。
それほどこの場に不似合いな美少年。
魔術と違い、戦士は己の身一つで力を証明しなければならない。この、目の前にいる少年が、それをなし得ているなどと俄に信じられなかった。
「あの」
戸惑った顔で自分を見てくる少年を前に、ようやく衝撃から立ち直ったアミルは誤摩化す為にとりあえず笑顔を浮かべてみる。
「ごめんなさい? ちょっとビックリしちゃって。えっと、貴方サフくんっていう人?」
「サフで良いよ」
「じゃあ私もアミルでいいわ。いやー、実は戦士学校で万年一位って聞いてたから、そりゃもうごつい人がやってくるもんだと思ってて」
辛うじて成長を魔法で押さえている為に、どうにか声変わりもせずに高い声を保って細い体を保っているアミルからしてみれば、同い年であるのに自然に美少女然としている目の前の少年、サフはあまりに理解を超える存在だ。
男としては羨ましくは無いが、性別を誤摩化さなければならない状況下としては少し羨ましくて、微妙である。
アミルが笑いながら言えば、サフも苦笑する。
「そうだよね、ごめんね、こんなので」
「だ、大丈夫、そういう意味じゃないから、御免なさいね? 貴方で良かったと思ってるわ。これから宜しく」
(しまった。多分本人も気にしてるよなぁこんな姿じゃ)
見た目の劣等感はある意味アミルも同じで、だからこそ言い過ぎたと素直に思えた。謝って、手を差し出して握手を求めれば、サフは少し戸惑った顔でアミルの手を見て、自分の黒い革手袋をはめている手を見た。
少しの逡巡の後で、サフが自身の手袋を取る。
出て来た白く細い手に、またアミルはどきりと驚いた。こんな手で一体どうやって剣を握っているのだと、思う程にその手は綺麗だった。
その綺麗な手が、アミルの手に触れて。
(何っ!?)
「あ!?」
握り返す事も忘れて、アミルは衝撃のまま手を引っ込めていた。
目の前の美少女然とした少年、サフを更に凝視する。サフの方はアミルの突然の行為に呆然と、残された自分の手とアミルを交互に見ている。何が起こったのか理解出来ないという顔だ。
(そんな、こいつ、まさか、いや、でも)
サフは、間違いなく。
(『虚ろ』なのかっ!?)
男であると言う事よりも尚、信じられなかった。
たとえそれが『色付き』の魔術士であっても結果は同じで、数日の後にアミルは両校集まっての壮行式の最前列にいた。つまらない両校の校長の長々とした話も終わり、それぞれが自分の相手を捜して挨拶をした後に出立をする所にまで時間は進んでいる。
誰が相手なのかは、胸に付けた数字の札が示していた。アミルのものは勿論「1」で、相手も同じものを付けているはずだった。
(何かもぅ探す気も起きねーんですけど)
広い校庭の中には、それぞれの学校から約二十人程がいて、合わせて四十人。少ないようで、十分探すには面倒な数になっている。例え相手が男限定であったとしてもだ。
だから、アミルは最前列から動かずに、ざわざわ自分の相手を捜して動き回る男女をぼうっと見守っている。今の所、同じ数字を付けている男は見つかっていない。見つけたいような、見つけたく無いような複雑な気分である。
「あの」
背後から、声が掛かって振り返る。
その高い声質に、同じ学校の生徒かと思っていたのだが、振り返った先にいたのはアミルと同じくらいの背丈の少年だった。柔らかな金の髪はふわりと流れ、長い金糸の睫に縁取られた大きな青の目は曇り無くまっすぐアミルを映している。整った顔立ちに、白い肌。お世辞でも何でもなく見た事の無い程の美少年に、思わず息を飲んだ。
(うわ、こんな男いるのか)
服装が男物で、帯剣している姿から迷わず男と考えたけれど、そうでなければ間違いなく女と思っていただろう。戦士学校の生徒なのだろうが何処もかしこも華奢で顔立ちも甘く、戦士の雰囲気など持っている剣以外では感じ取れない。
自分が女装し女と偽っている手前、失礼かもしれなかったが……アミルからすれば、目の前の男の存在の方がよっぽど詐欺としか言いようが無い。現実にこんな男が存在しているとは思わなかった。
呆然と相手を凝視しているアミルに、相手は困った顔で話しかけてくる。
「きみ、アミルさんだよね?」
「そうだけど」
一体何の用だろう?
一応容姿が可愛い部類に入るらしいアミルは、休日など外に出ればナンパなどされる事もある。しかし、この場所と、そして美少女に見紛うような少年相手では、微妙に違和感があった。
相手の出方が読めずにただ返事だけしたアミルに、少年は困った顔のままで自分の胸元を示してみせた。
「これ」
示されるままにそこを見て、硬直する。
小さな札には、アミルと同じ数字が書かれていた。
(1、え、1?)
それは成績順に割り振られる札。女子魔術学校で首位であるアミルは「1」。それでは、目の前にいる「1」の少年は自動的に男子戦士学校の首位という事で。この、ともすれば美少女にしか見えない美少年が、その他に居るいかにも男臭い戦士ども全てを押さえて上に立っているという事で。
「えぇぇぇぇぇっ!? ま、マジ?」
驚愕し、悲鳴のような声を上げてしまったとして、誰にも責められる謂れなど無い。
アミルが声を上げた瞬間びくりと全身震わせた少年の方は、そんな反応は予想していなかったようだったが、一般的に考えて己は間違っていないとアミルは断言出来る。
それほどこの場に不似合いな美少年。
魔術と違い、戦士は己の身一つで力を証明しなければならない。この、目の前にいる少年が、それをなし得ているなどと俄に信じられなかった。
「あの」
戸惑った顔で自分を見てくる少年を前に、ようやく衝撃から立ち直ったアミルは誤摩化す為にとりあえず笑顔を浮かべてみる。
「ごめんなさい? ちょっとビックリしちゃって。えっと、貴方サフくんっていう人?」
「サフで良いよ」
「じゃあ私もアミルでいいわ。いやー、実は戦士学校で万年一位って聞いてたから、そりゃもうごつい人がやってくるもんだと思ってて」
辛うじて成長を魔法で押さえている為に、どうにか声変わりもせずに高い声を保って細い体を保っているアミルからしてみれば、同い年であるのに自然に美少女然としている目の前の少年、サフはあまりに理解を超える存在だ。
男としては羨ましくは無いが、性別を誤摩化さなければならない状況下としては少し羨ましくて、微妙である。
アミルが笑いながら言えば、サフも苦笑する。
「そうだよね、ごめんね、こんなので」
「だ、大丈夫、そういう意味じゃないから、御免なさいね? 貴方で良かったと思ってるわ。これから宜しく」
(しまった。多分本人も気にしてるよなぁこんな姿じゃ)
見た目の劣等感はある意味アミルも同じで、だからこそ言い過ぎたと素直に思えた。謝って、手を差し出して握手を求めれば、サフは少し戸惑った顔でアミルの手を見て、自分の黒い革手袋をはめている手を見た。
少しの逡巡の後で、サフが自身の手袋を取る。
出て来た白く細い手に、またアミルはどきりと驚いた。こんな手で一体どうやって剣を握っているのだと、思う程にその手は綺麗だった。
その綺麗な手が、アミルの手に触れて。
(何っ!?)
「あ!?」
握り返す事も忘れて、アミルは衝撃のまま手を引っ込めていた。
目の前の美少女然とした少年、サフを更に凝視する。サフの方はアミルの突然の行為に呆然と、残された自分の手とアミルを交互に見ている。何が起こったのか理解出来ないという顔だ。
(そんな、こいつ、まさか、いや、でも)
サフは、間違いなく。
(『虚ろ』なのかっ!?)
男であると言う事よりも尚、信じられなかった。