AC4.2

文字数 1,467文字

「ここは……」
 思ってもみなかった光景が目の前に広がり、無意識に呟いていた。そして自分が制服を着ていたことを思い出した。
 キョロキョロと辺りを見回しながら部屋の中央へと歩いていく。白い天井と壁とフローリング、上下二つに分かれている窓、何も入っていないロッカー、そして黒板。今では使われることがなくなってしまったものもあるけれど、確かに教室だった。だけど普通のとは違って窓の外はペンキを塗りたくったように黒く、机は中央にぽつんと一つ置かれているだけだった。自分は黒板を北に置いたとき南の真ん中から入って来たようで、そのちょうど反対側に黒板の一部を切り取って次の扉がある。そして自分が中央の机のうしろに着き椅子の背もたれに手をかけたのと同時に彼女が話し始めた。
「お待ちしておりました。ここが一つ目のテスト会場になります。説明の前に、まずは椅子に座ってください」
 指示通り座ろうと椅子を引いたら、ものすごい音が響いてすこしだけびっくりしてしまった。
「これからあなたに受けてもらうテストは、もう察しがついている通り『学力テスト』になります。いくつかの科目の中から最大で三つまで選んでもらい、その合計点で合否が決まります。出題範囲はこれまであなたが習ってきたところまでですので、授業をしっかりと聞いて復習もちゃんとしていれば解けない問題はないと思います。そして合格点ですが、選んだ科目が一つの場合は九十点以上、二つの場合は百六十点以上、三つの場合は二百十点以上になります。テスト時間は一科目六十分で、希望があれば十分の休憩がとれます。これで説明は以上ですが、気になる点はありますか?」
「……時間より早く終わったら、すぐ次の科目に移れるんですか?」
「できません。きっかり六十分です」
「それと途中で受ける科目や数を変えることは可能ですか?」
「それもできません。他にはありますか?」
「……いえ、大丈夫です」
「わかりました。では受けたい科目を選択してください」
 そうして提示された科目を眺めながら自分はなにも……と考えはじめた。
 教室に入ったときからなんとなくは予想できたけれど、それでも驚かずにはいられない。学力テストぐらいならなにもこんな場所に誘拐してまでやらなくてもいいのにと思う。しかし、その不満を彼女にぶつけてもどうしようもない。言ったところで出られるわけでもないし、「じゃ次はそうします」なんて言われでもしたらこっちが困る。なんにせよどんな不満を抱こうが始まってしまった以上やるほかなく、ぶつくさ言ってもしかたがないので目の前のことに意識をきりかえた。
 それで選ぶ科目だけど、ここは一科目でさっさと済ませたいところ、でも普段の成績や環境の違いを考慮すると九十点以上とるのは正直かなり厳しいと思う。そのため選択肢としては二つか三つだけど……。ずらっと並ぶ科目に目を走らせながらさんざん悩んだ結果
「それじゃ……数学、理科、歴史の三つでお願いします」
 最後のことを考えて確実性を選んだ。焦って落ちてしまったら元も子もない。
「数学と理科と歴史の三つですね。順番は今の通りで大丈夫ですか?」
「はい」
「それではこれから一つ目のテスト『学力テスト』を開始します。問題を配りますのでお待ちください」
 彼女がそう言ってからすぐに白い表紙に数学と書かれた問題と六十分に設定されたタイマーが配られた。
「最後にもう一度確認しますが、準備は大丈夫ですか?」
「……はい」
「わかりました。では始めてください」
 こうして最初のテストはいつものように静かに始まった。――――
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