AC7.7

文字数 1,255文字

 ふたたび自分は暗闇のただなかへ立った。しかし、その暗さは前よりもどことなく深く濃くなったような気がする。
 はたしてこの暗闇の中はどうなっているのだろうか? 前と同じなのだろうか? 違っていてほしい気もするし同じであってほしい気もする。どっちつかずの感情を抱えて、その答えを確かめるため先へと進んだ。壁に手をつけ警戒を欠かさずに歩く、恐ろしく静かなこの空間の中で一歩ごとに高まる鼓動がいやに響く、まもなく前と同じ変化を右手が捉えた。心臓が一気にざわめきだし、息がつまりそうだ。そしておもむろにライターを灯すとぼんやりと十字路が浮かび上がってきた。その隅っこにはペットボトルが妖しく朧げな影を落としていた。
 やっぱり、そうなのか。これで前回と同じ作りであることがほぼほぼ決まったわけだけど、そうなるとまた別の疑問が浮かんでくる。しかし、それについてはまだ考えるのはやめておく、もう少しこの迷路のことを確かめたい。ペットボトルから視線をはずし、はやばやとこの場から立ち去った。
 それからまた一、二時間歩き続け、ふたたびこの十字路に戻ってきた。結果から言うと覚えているかぎりでは同じだった。右は曲がり角があってすぐ行き止まりだったし、正面のいくつもあった分岐路も変わったところは見つけられなかった。時間はかかったけれど、これで蓋然性はさらに上がった。あとは左の道のみ。そのまま壁伝いに進んでいくと案の定足元で水のはねた音がし、五歩進むと地面がなくなった。そしてまた凍える思いで渡り、水を絞って、歩いていくと赤い蜘蛛の巣が待ってましたと言わんばかりに出現した。すべてが同じだ。信じがたい事実が現実として目の前に立ちはだかる。だけど、まだある。前はここで引っかかってしまい最初に戻されたけど、もし無事に通り抜けられたならその先はどうなっているのか。それを確かめるため今回はくしゃみなんてくだらないことで失敗はしない、かならず先に進んでみせる、そう決意を固め、どうやらこの巣の形も変わっていないようなので、一緒のルートをたどっていく。そうしてふたたび例の場所へとやってきた。今度はしっかりと自分の調子をたしかめてから右足を通していく。やがて反対側の地面に右足が到達し、最大限まで神経を研ぎ澄ませ左足も通していく。そして
「ふぅ……」
 無事に左足も通り抜けた。自分はほっと胸をなで下ろした。その後も気を抜かず細心の注意を払って巣の中を進んでいき、ついに最初のしかけをくぐり抜けた。するとすぐに背後の仄かな赤い光がふつっと消え、暗闇にまた包まれた。
 凝り固まった体をひねったり反ったりしてほぐし一息入れた。だるい。ここで終わってくれたらどれだけいいことか。だけど、まだまだ終わらない、むしろここからが本番だと言っていい。そう思うと気が滅入る。もう辞めたい、放り出してしまいたいという願望がやりきれないぐらいに大きくなってくる。それでも今は進むしかない、この足を動かし続けないと。折れかけている気持ちをぐっと支えて、次をめざした。
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