AC4.1

文字数 1,552文字

 扉の先は部屋と同じようにコンクリートでできた通路になっていた。しかし、数メートル先からは完全な暗闇に飲み込まれていて先が見通せない。照明は頭上にある一つだけで、しかも今にも寿命が来てしまいそうな使い古した光だった。それだからか、少し先の闇を見つめているとじりじりとこちらに詰め寄ってきているように見えるのは。急に寒気がして、制服の下で鳥肌が立った。
 彼女は一本道で迷うことはないと言っていた。それならこんな変な作りにはしないでほしいと心の底から思う。もともとただ進むのでさえ不安なのにあの暗闇が余計に重圧をかけてきて、足が床にべったりと張り付いたように動こうとしない。でも、扉を開けてしまったからには進むしかない。そう観念して嫌々ながらも足を地面から無理矢理引き剥がし、何が起こってもいいよう慎重に歩きだした。そして数歩行った先――あと一歩でちょうど光と闇の境界線のところでいったん立ち止まり、耳を澄まし様子をうかがった。何も聞こえてこない。何かがいる気配もない。となるとあとは進むだけ。まさか穴が空いているなんてことはないと思うけど、万全を期してゆっくりと足を運んでいく。すると、そんな用心を嘲笑うかのようにつま先が境界線に触れたのと同時に、パッと前の照明が点き背後のは消えた。
 自分は片足を上げたあほみたいな恰好のまま固まった。すこしして試しに空中に留まっている足を引っ込めてみたが元通りになることはなかった。あまりの馬鹿馬鹿しさに大きなため息がこぼれた。何のためにこんな作りにしているのか問い詰めたい気分だけど、何か意味があるとは思えない。とにかく何もないことがわかったのでさっさと進むことにした。
 その後も点いては消え点いては消えが続いた。しかし、
「いつになったらつくんだ?」歩きながらそうつぶやいた。
 あれからずっと同じことの繰り返しで一向に終わりが見えてこない。その白と黒が入れ替わるだけの単調な光景に、歩けば歩くほどこのままこれが延々と続くのではと焦りが募り、止まるどころか逆に歩く速さが上がっていく。それでもまだまだ続く。そしてとうとう我慢ができなくなって駆けだそうと足に力を入れた瞬間、パッと照明が点き鉄の塊が出現した。びっくりして慌てて足を止め、現れたものを見つめた。それは牢屋にあったのと瓜二つの扉だった。チカチカと反転する世界に若干あたまをやられてしまった自分は、最初幻でも見ているんじゃないかと怪しんだもののそんなことがあるはずもなく、やっと次に着いたらしい。若干切れている息を整えて、随分歩いたなと後ろを振り返った。しかし、当然ながら背後には暗闇があるだけだった。最初は行く手を遮るように立ちふさがりそして進んだからには逃げ道を断つように立ちはだかるその暗闇に、生き物であるかのような意思を感じゾッと怖気立った。自分はすぐに視線を戻し、扉へと近寄った。
 こうして無事に着けたのはよかったけど、着いたということはついに始まってしまう。いったいこの向こうでなにをやらされるのか、不安で不安でたまらない。そこでちょっとでもその不安を紛らわせるものがないかと扉を調べた。しかし、その試みも虚しくすでに述べた通り牢屋のとそっくりなのでめぼしいものはなかった。しかたないと諦めノブに手を伸ばして……そこでまた手が止まった。耳の奥で破裂してしまいそうなほど鼓動が鳴っている。嫌な映像が頭の中をとめどなく流れていく、いけないとわかっていてもどうしても考えてしまう。
「……はぁ」
 思いっきり胸にたまっていた濁った空気を吐き出した。止められないならもうそれも一緒に連れていくしかない。大きく息を吸って、もういちど思いっきり吐きだし、空気の入れ替えをした。そして止めていた手をのばしノブを掴んだ。
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