AC3.1

文字数 1,783文字

「説明と言ってもすぐに終わります」彼女はそう前置きをしてから始めた。「あなたのいるこの施設はとある場所の地下深くにあります。そのためここから脱出するには何らかの方法で上にいく必要があるわけです。もちろんその方法はこちらで用意していますが、それを使うためにはさきほど言った通りテストを受けそして合格しなければいけません。テストは全部で四つあり、三つ目までは合否にかかわらず終わり次第さきに進むことになります。しかし、不合格でも先にいけるからといって手を抜くのはオススメしません。
 というのも合格すれば四つ目のテストを有利に進められるあるものが手に入るからです。それがどんなものなのかは実際に手に入れてたしかめてください。そして、ここまで聞いていたらわかるとは思いますが、四つ目――最後のテストをみごと合格できれば晴れて脱出となります。それぞれの内容についてはそのつど説明することになっています。これでここでの説明は以上になります。がここだけの話、有利になると言いましたが、じっさいのところそれがないと脱出はかなり厳しくなってしまいますので気をつけてください。それでは何か気になったことはありますか?」
 よくわからないことを最後につけたして彼女の説明は終わった。それでわかったことと言えば自分の置かれている状況とおおまかな流れだけでこまかいところはわからずじまい。なぜもう少し詳しく説明してくれないのかと不満に思いつつ、まあ聞けばいいかと尋ねることにした。
「それじゃ……もし四つ目のテストで不合格になってしまったらどうなるんですか?」
 彼女の説明を聞いて特に気になったのはこれ。忘れているのかわけがあって説明しなかったのかわからないけど、もし明言を避ける理由があったとするなら――――さっきの彼女の発言が頭から離れず不吉な想像がかきたてられる。心臓が激しく胸打つのを感じながら待っていると
「何度でも再挑戦が可能ですから大丈夫ですよ」と彼女は答えた。
 自分は心の中でほっとため息をついた。心配が杞憂に終わったのはなによりだ、でもそれならそうと初めから言ってほしかった。そんなふうに愚痴もこぼしつつ、次の質問に入った。
「それなら再挑戦する際、手に入れたものを次に持ち越すことはできるんですか?」
「はい、できます」
「本当ですか?」
「本当ですよ」
 いい意味で予想を裏切る答えにさらに胸をなでおろした。ここまでの話を聞いていると思っていたよりも脱出は簡単なのかもしれない。ただ彼女が最後につけたした、実はそのあるものがないと脱出はかなり厳しいという説明が気になる。それと細かいことだけど、その口ぶりからして言ってはいけないことらしいのになぜ言ったのかも気になる。それもテスト内容は話さなかったくせに。自分はそこに何らかの深い意味があるのではと考えながら質問をした。
「それと合格するとなにかもらえるみたいですが、それって合格するごとにもらえるということでいいんですよね? つまり全部合格すれば三つ受け取れると」
「はい、それであっています」
「では最後のテストが厳しくなるというのは、三つあることが前提なんですか?」
「うーん、そうですね……私の意見としてはできれば三つあるのがいいですが二つでも大丈夫かなといった感じですね。でも、安心してください。三つのテストはやさしめに設定されていますから不合格になることはそうそうないと思います」
「そうですか……あと、どうしてそれを教えてくれたんですか?」
「それは私があなたのサポーターなのでできるかぎり助けになれるように、という理由ではダメですかね?」
 そんなのは理由になってないからダメですと言いたかったけれど、困ったように逆に聞いてきた彼女にはなんだか言い難かった。それにこれ以上追求したところで納得できる答えは得られないだろうし、それで気まずい雰囲気なるのも嫌だったので自分はしぶしぶ「わかりました」とだけ言った。
「ありがとうございます。それで他に気になることはありますか?」
 そしてそう彼女が尋ねてきたので
「少しだけ時間をもらえますか」とお願いをすると
「わかりました。ではなにかありましたら私のことを呼んでください」とあっさり受け入れられ、静かな時間がもどってきた。さっそく他に気になるところがないか探すためここまでの話をまとめはじめた。
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