AC7.10

文字数 1,518文字

 これで六回目の失敗。一回目と四回目は光線によるものだけれど残りの四回はすべて二択をハズしてだ。確率はゼロじゃない、それこそ何十、何百、何千……とハズレを引き続けることだってありえる。でも、それだとある問題がでてくる、自分が確かめることがあるといって保留にしておいたのはその問題だ。それは、この施設の構造がどうなっているのかということだ。一回目もどされた時は、まったくおなじ部屋を用意しておいて失敗にみせかけた、つまりあの一連の流れそのものがしかけのひとつだとそう思った。しかし、その考えはハズレていた。もし同じ部屋と迷路を用意しているなら、六回もくりかえした現在、ここまでのテストも含めてとてつもなく広大な施設になっていて、しかもあの扉を開ければまだ続くことを考えると、いくらなんでも人知れずこんなことができる彼女といえど無理がある。そうなると可能性としてはこの施設自体を動かしていることになる。見えないところでならなにをやってもバレないということだ。ただ、もし迷路自体を動かしているとして、失敗して最初の部屋に戻されてから次までのものの数秒で音も振動もいっさい感じさせずこの巨大な建物を移動させられるのか。それかこの部屋と迷路の組み合わせが二つあってそれを交互に動かしているのか、もしそうなら例え部屋に戻ってきたとしても次に行くまでには最短でも、迷路に入って、水を渡って、巣に引っかかってとそれなりの猶予はある。しかし、光線を通り抜けた場合はどうするのか。いろいろと可能性を探ってみたけれど、どれも問題がある。
 いったいどうなっているのか。膝をかかえてお腹との空間に頭をうずめる。
 ――でも、一つだけ全ての問題を解決できるズルい答えがある。だけど、それはありえない……いや、ありえないわけではないけど、もしアタっているなら脱出なんて意味が…………脱出だけじゃないすべてに意味がなくなってしまう。
 その答えは、この世界が作り物、つまりゲームと同じで仮想の存在だというもの。
 聞くにたえないふざけた話なのはわかっているけど、自分を連れてこれたことも、絶対に助けがこないことも、怪我や病気を治せることも、迷路の構造のことも、そして自分の言動が予測されていることも、この非現実的な現状のなにもかもをそれなら説明できる。それに彼女がテストと称していることもそれなら納得がいく、そうとう悪趣味ではあるけど。
 自分の中でなにかが引いていくのを感じる。この考えも他のと同様断定できる証拠があるわけではない、いま抱えている問題を無理矢理説明づけるとしたら思い浮かぶのがこれぐらいなだけで、もしかしたらその道の専門家なら最新の知識でもってこれが現実だと言い切れるのかもしれないけど、自分のちっぽけな頭ではそれこそが真実であるように思える。だから、やるべきことがわかっていても力が入らない。
 何もしないままただただ過ぎ行く時の流れの中に身を沈めていると、ふいにあることが頭の中をよぎっていった。と同時に自分に対する激しい怒りが湧き、おもわず立ち上がった。「こんな時、たいてい彼女が話しかけてくるんだけど……」思い浮かべたのはこれだった。よりによってこんなときに彼女のことを思うなんて、これほど情けないことがあるのか。奥歯を噛みしめ、こぶしを力のかぎり握りしめる。しかし、パッと力を抜いた。そう、失敗したと言ってもまだ六回失敗しただけ、もしかしたら失敗にみせかけている予想が当たっていて次がゴールということもあるかもしれない。自分の不甲斐なさにはあきれるけど、そのおかげでやる気が戻ってきた。これを逃がす手はないと迷路の入口をめざし、七回目の挑戦へ入った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み