AC9.1

文字数 1,239文字

 暗転した画面をしばらくのあいだ呆然と見つめていた。
 いったい私は何を見せられたのだろうか? わかるのはこれが作り物だということだけだ、でなければ私はこの場にいるはずがない。それはいい、そんなことはわかりきっていることだから、問題は――本人の許可を取っていないのもそうだが――作る協力をした覚えがないのに、自分や両親の思考や言動がもしかしたらと思ってしまうほどらしいこと。実際、見ていて嫌悪感を抱かざるをえなかったあの惨たらしい場面での父さんの言葉は、ほんとうに自分に向けて言っているようで心を打たれた。父さんならああいうということが容易に想像できる。
 ……それに作り物であるはずなのに身に覚えのある場面がいくつかあったのはなぜなのか。
 すると部屋が明るくなり、空白の椅子をひとつ挟んだところに座る総一の顔がよく見えるようになった。彼はいたずらが成功した子どものように笑っていた。
「それで、どうだった?」とさっそく総一が尋ねてきた。
「どうもこうも……何が何だか」と私は素直に思ったことを言った。
「まあ、そうだろうね。いきなりこんなものを見せられたらたいていの人はそうなるだろう。でも、これが作り物だということはわかっているよね?」総一は少しだけ前かがみになり、さらに聞いてきた。
「ええ……」反対に私は少し身を引いて答えた。
 今のが作り物でなくては困るわけだが、一方で作り物であってほしくないという気持ちもある。それは最初で言及した問題と関係がある。
 映像の中で自分ははじめに心が読まれているという疑惑を抱き、その疑惑はテストを通して思考や言動を予測されていることへと変わり、やがて自分は作り物であるという真実に到達する。そうしてたどりついた真実に苦しみ苛まれついには心が折れてしまったものの、父さんや母さん、そして『姉さん』のおかげで立ち直ったわけだが、私はこの一連の流れを通して、つまり時には立ち止まり時には前進する作り物の自分を通して私の思考や言動を正確に予測されていることを見せつけられた。
 この奇妙な立場の何とも言い難い気持ち悪さが、作り物であってほしくないという思いを引き起こしている。
「それはわかっていますが、その作り物を見せてなにがしたいんですか? これが私の仕事とどんな関係が?」今度は逆に私が少しだけ身を乗り出して尋ねた。
 すると、総一は考えた素振りを見せて、
「そうだね……まず質問なんだけど、君の体にはちゃんと『AC』が入っているよね?」と聞いてきた。
「当たり前じゃないですか。そうじゃなければ今の映像だって見られませんから」
「そうだよね。それじゃ『AC』がどんなものかってちゃんと知ってる?」
「基本的なことぐらいは……」総一の意図の読めない質問に困惑しながら答えた。
「そうか、でも一応説明はしておくよ。もしかしたら知らないこともあるかもしれないから」
「……わかりました。お願いします」
 いったい何なんだ、と思いつつも私は総一の話をおとなしく聞くことにした。
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