AC7.8

文字数 1,212文字

 それからいくらか歩き、感覚として、そろそろ前回目をやられた場所付近まできた。念のため左手でひさしをつくり薄目で一歩一歩慎重に踏み出していく。そうしてそろそろと歩いていくと、待ち構えていたものよりも先に右手が異常を、あってはいけないしかし半ば覚悟していた変化をとらえた。自分は立ち止まり、おもむろに左手を前へのばして自ら灯した。その優しい光に照らされて現れたのは左右にわかれた通路だった。自分は無言のまま右左の順に視線を送り、最後に正面を見た。前にあったはずのものが消えてしまっている。これはもともとこうなっていたのか、それとも切り替えたのか。答え次第で話は大きく変わるけど、今の自分には確かめる術がない。一瞬だけどこか不気味な静寂が通り抜けていった。自分はもう一度左右を見比べた。最初の分岐路より確率が高くなったと言えば聞こえはいいかもしれない、そう気休めにもならない慰めの言葉を自分に投げかけて、おとなしく方針通り右の道を進んでいった。
 それからすこし歩いたところを左に折れ、しばらく歩いていくと、またしても出し抜けに白光を喰らった。またか、と心の中で呆れたように言って目をならしていく、まもなく眩しさにも慣れそこにあるものを目にしたとき寄せていた眉間をさらに寄せた。
 今度は扉が二つあった。二つの扉は数メートルの間隔をあけ、それぞれ上からの白光を浴び物憂げにその口を閉ざしている。その間隔からいって、こっちを開けながらあっちも開けるといったことはできそうにないため、白い箱のようにどちらか選べということなんだろう。おそらく……いや、確実にハズレを引いたら最初に戻されるのだろう。そしてアタリのほうはこのおなじみの作りからみて目的地である最後のテスト会場だと思う。それ以外の可能性ももちろんあるけど、自分の直感がこれが最後だとつげている。そうなるといくつかしかけがありますと言っておきながらこれっぽちなのかと呆れる反面、今の自分にとってこれほど避けたいしかけはなく、脳裏をよぎるあの考えが自分をハズレに導く気がしてならない。このさいオカルトでもいいからアタリを引ける方法はないかと藁にも縋るおもいで模索しても、この二択という究極の選択肢の前では得られるのは無力感だけ。運にすべてをゆだねるほかない。そうしてあがくのをやめ、どちらにしようかさんざん悩み、ついに左の扉に決めた。この決心が優柔不断な自分に惑わされないように右の扉を意識からはずし、運命の扉のまえに立った。そしてノブをつかみ、思いきって押し開けた。
 目に入ったのは、やっぱりチョコレートだった。
「残念ですが、また最初からになります」彼女は定時報告のように告げた。
 そして自分は、彼女に問われるまでもなくその声が聞こえてきたときには、すでに次へと歩きだしていた。たった一回ハズレただけ、それにこれを機に確かめたいことを確かめるだけだ。間髪入れずに迷路にはいった。
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