第26話

文字数 2,692文字

 アメリカ合衆国ではマッコイ大統領による次期大統領に内定しているエイミー・ディキンソン上院議員への攻撃が始まった。彼はディキンソンとユニ・グローブ社の結びつき、特にハイテク関連での排他的な事業展開に対しディキンソンがユニ・グローブ社を支援していること、そして今回日本で逮捕された科学者のリーダー的存在であったジェーン・マックガヴァンとの過去の密接な関係などを暴露する内容の動画をSNS上で発表したのであるが、このことは米大手メディアからは無視されて、小規模のメディアのみが取り上げるに過ぎなかった。さらに動画アップ後二十四時間で削除されるといった措置が管理会社からとられた。これについてはアメリカのみならず、日本を含む世界中でメディアの横暴だといったコメントが多数見られたがそれらも即時削除の対象となった。障害者総合ケアセンターについての大手メディアの一連の対応は世界中の人々にその背後で何が起ころうとしているのか大きな不安を抱かせる要因となったのである。
 曹洞宗管長である総持寺の富田善幸禅師がデモを東京にまで拡大したことに対し比叡山の渡辺座主を非難する声明を発表した。その内容は仏教徒とは世界の平和や人々の安寧を祈願するものであり、政治に口を出すものではなく、ましてや人心を煽って国家を転覆させることは言語道断、決して許容できるものではないという趣旨のものである。京都における日本文化を守るためのデモについてはある程度理解できるが東京での都知事降ろしのデモは宗教家として全く許容できるものではなく、戦国時代における織田信長により行われた比叡山焼打ちの愚行を再び繰り返すのかといった強い口調での避難であった。その動画についてもネット上では賛否両論であり、人々は仏教界の政争にもお祭り騒ぎではやし立てる者もいれば、国を二分するようなこの政争に嫌悪感を示すものも多数いた。
 ネット上では何が真実で何が虚偽なのかの判別もできないまま、多くの人々が中傷し合い、コメントは削除されるかアカウントが停止されるようなことが繰り返された。その一方で政治は一連の謝罪会見で幕引きを図ろうとしており大手メディアも真相を究明するような行動も起こすことなく時間だけが浪費されている状況である。
 その中で土曜日を迎え二回目のデモが行われた。前回の大混雑を踏まえて警視庁からはデモの主催者、栗林最愛(モア)へ分散開催の要請が事前になされていた。都はデモのために新宿御苑公演を無料開放するので都庁ではなくそこを目的地とすること、また代々木公園と上野公園もデモの開催地に指定された。デモの時間は午前十時から十二時までで栗林により各地域にどこを目的地とするかの指示が出され、粛々とデモ行進は行われたのである。しかし分散したからと言って混雑の状況が緩和されるかといえばそのような状況にはなく想定参加者は合計で三十万人規模のものとなった。
 デモの拡大を確認した白川は第二弾の戦略として福島知事リコールの請願署名活動に踏み切った。目標は都民二百万の署名である。
 そして明けた月曜日には自由党の総裁選が行われ接戦の末、国会議員票で三分の二の票を獲得した青木キャサリン・ストイコヴィッチが総裁に選出された。ここにきて世論の青木に対する反発と自由党に対する諦観が強まった。その反動で福島都知事リコール署名は徐々に盛り上がりを見せ始めた。リコール署名は栗林最愛が発起人となり行ってきたのであるが、柚木クリスティーンも取材の形でリコール運動の拡大に大いに貢献している。そして柚木が大きく取り上げたのが島村瑠璃の存在である。島村瑠璃は署名収集受任者として街頭に立った一人にしか過ぎないがデモ映像で女神扱いされた本人としてネットを中心に評判が広まり島村瑠璃のファンが急増するにつれて若い世代の署名が一挙に増え始めていった。状況は徐々に五代礼三率いる国際協調派と大沼広樹率いる国内優先派とに国論は二分されて行きつつあった。経済界は大手企業ほど国際市場を重視した国際協調派に属していると見られているが、国際協調派のあからさまな言論弾圧の傾向に一歩下がった立ち位置を取り始めている。世論による国際協調派の企業に対しての不買運動を恐れてのことである。経産連の会長である岡崎モーターズ会長二葉昭は、経済界からの苦言として国論を二分するような政争をしている猶予は日本に残されていなく互いに納得できる国益を重視した政策を掲げて難局を乗り切るようにと政治家へ求める声明を発表した。この声明は大手メディアに大々的に取り上げられたのであるがネットの反応としては不買運動を避けるための体裁だけの意味をなさないコメントとの酷評が相次いだ。老害は去れとの辛辣なコメントも見られたのであった。
 アメリカ合衆国の状況もマッコイ派とディキンソン派に分かれて政争を繰り替えしていた。しかし一般有権者による選挙での得票数でも獲得選挙人数でもエイミー・ディキンソンに敗れたクリストファー・マッコイの戦略は熱烈な支持者に支えられてはいるが一般的には大統領にふさわしくない潔くない態度とみられていた。しかしながらディキンソン支持層においてもその背後に見え隠れする国際金融の政略、一方的な正義漢の押し付けであるポリティカル・コレクトネスの行き過ぎに不快感を覚える者たちも少なからずいたので、選挙人選挙の結果はいまだ混とんとした状況の様には思われた。しかしながらマッコイを支持する保守党の中にもディキンソン政権下でどのようにして保守層の盛り返しを図るかに戦略を切り替えるべきだとの意見も多数出ているようである。国内重視派にとって国際派の政策はもはやアメリカという域を超えて世界政府を作り出そうとしているように映っているのは確かである。その世界政府の中にアメリカを愛する心が見いだせるのか否かによってアメリカ分断という選択肢も視野に入れるべきとの意見も出てきているようである。
 中国の場合はさらに悲惨な状況である。国際金融に支援された国際派グループと、共産党政権そして新興の国粋主義派の三つ巴の様相を呈してきている。すでに内乱状態であるがディキンソン政権誕生後は国際派が主導権を握るのではないかと市場は予想しているようだ。しかし軍事力に勝る共産党政権を打倒するためには内部からの切り崩しが必要であり、国粋派はそのための勢力として国際金融が支援しているのではないかというのが市場の専らの解釈である。世界はもはや二極化するのではないかとさえ市場関係者の中では噂されるようになってきている。
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