第30話

文字数 3,349文字

 福島都知事は記者会見を行い、一連のデモ行動は過激派集団による皇居襲撃のために画策されたもので、このようなテロ行為による都政の崩壊は断じて避けなければならず、都民にもテロとの戦いに協力するように要請した。その上でテロ活動の温床とみられるZOO ZOOタウンの即時廃止を求めていく旨のコメントを発表した。しかし八王子での不当な人体実験に関しては、自身の関与は否定したものの詳細は取り調べ中であることを理由にコメントを避けたのである。
 青木総理大臣は今回のテロ騒動に関して、テロには絶対に屈しないと力強く発言し福島都知事には今回のテロ行為の解明に全力を尽くして引き続き都知事の職務を全うできるように願っているというコメントをぶら下がり記者会見で発した。さらに次期大統領とされているエイミー・ディキンソン上院議員が東京での皇居前のテロ行為に関して、強く非難し、次期アメリカ政府でも日本政府と緊密に連携をとってテロ撲滅へ全力を注ぐといった異例のコメントを記者会見中に行った。大手メディアも、これらのテロに対しての戦いについて全面的に展開して、都知事非難のデモがあたかも今回の皇居襲撃のために行われたかのような論調が目立つようになっていった。その上で公安警察によるデモの主催者栗林最愛の逮捕が行われた。容疑は皇居襲撃支援のためのデモ計画行為というものであった。この逮捕は大々的に世界中へ配信された。そしてネットの大手プラットフォーム事業者によるデモ関連と八王子での知的障害者への不当な人体実験に関するコメントに対しての徹底的な自主規制が行われるに至ったのである。これらの動きに都民の心は揺さぶられ福島都知事へのリコール請求への署名運動に明らかな足踏みがみられるようになった。

 一連の行政側の動きを受けて白川久男は大沼元総理秘書の宇梶実を通じてコニー電子工業へZOO ZOOタウンの企業買収の提案を持ちかけた。自前でメジャーなプラットフォームを持っていなかったコニー電子工業は白川が提案する会員認証システムに興味を示しZOO ZOO タウン買収計画は実行に移された。福島都知事のZOO ZOOタウン廃止要請により経営の意欲を無くしていたZOO ZOOタウンの経営陣もこの買収計画は魅力的なものと思われた。また社員たちも世界のトップブランドの傘下になることに対しての強い反発を示すことはなく、この買収劇は年内には決着することになり、新しい会員認証システムの導入とコニー電子工業グループの傘下という事実でもって福島都知事もサービス廃止要請を撤回せざるを得ない状況になってしまった。もちろんこの買収劇には大沼元総理が背後で動いていたことは言うまでもない。これにより白川はZOO ZOOタウン内の仮想世界インディーズ・ウェブを引き続き稼働させることが可能となったのである。この一連の動きはユーザー側からも好意的に受け止められ、大手プラットフォーム業者が自主規制に走る中、表現の自由を確約したZOO ZOOタウンは会員数をさらに伸ばすこととなった。大手メディアでは逮捕された栗林最愛に対して大々的に報道を展開していたのであるが、年明けにZOO ZOOタウン内で栗林最愛の逮捕に関する内部情報の暴露が公安警察関係者から匿名で出されたのである。それは五代礼三幹事長の秘書と民主革命連合幹部今泉幸人との会話記録であった。その会話にははっきりと民革連へのデモ参加とデモを皇居前広場まで誘導しそこで発砲事件を起こすといった内容が録画されていた。この録画は今泉側で撮っていたものであり、公安の家宅捜査により押収されたといった出どころもはっきりとしたものとビデオ内で注釈がつけられていた。年明けのZOO ZOOタウンはこの暴露により騒めきたち、大手メディアも無視できないほど実社会にも広がったのである。これにより、世論は福島都知事による公安を使った栗林最愛の不当逮捕といった判断になり、栗林最愛の逮捕即時撤回を求める声が大きくなっていった。

 東京都知事福島百合子により現在東京都で使用している都政管理AIを国の行政支援AIマザーと統合する計画が発表された。具体的には都で管理している都政管理のサーバーをマザーと連携し、クラウド上のソフトで運営することによりシステム管理費用を大幅に削減し業務の効率化を図るというものであり、そのことにより都税を半分にすることができると発表した。またネット空間内でのフェイクニュースの出回りや、個人に対しての誹謗・中傷攻撃などを撲滅することを法案化すること、さらに都独自に宇宙太陽光発電システムを十年以内に稼働させることを発表した。これには五年後に稼働が予定されている五葉重工業が携わっている軌道エレベーターを利用して宇宙空間での設置工事を行うことにより達成するとのことである。メディア側ではこの発表について概ね好意的なとらえ方であったのであるがネット内では国によるネット空間のみならず実社会における国民監視社会を目指すものとして反対運動がさらに増える結果に至ることになった。またこの発表に対してこれは地方自治を実質上無効化して国による直接管理を目指すものであり、全体主義国家を目指すものとしてネット上では全国的に反対運動が展開されるに至ったのである。
 この発表を受けるような形で週刊春秋による杉本照男の署名記事が発表された。杉本の記事ではネット内でお祭り騒ぎになっている五代礼三の秘書と民主革命連合幹部今泉幸人との間で交わされたテロ活動に関しての会話記録の詳細報告、そして民革連の資金調達の実態についての詳細が報告された。具体的には民革連のフロント企業による北海道と沖縄のリゾート施設の運営とその脱税方法、そのリゾート施設のための公共施設のインフラ整備が優先的に行われている背景などについての詳細である。そしてそのインフラ整備には五葉重工業グループやユニ・グローブ社の関連企業が独占して他企業グループを締め出していた実態を暴露したのである。さらに警視庁関係者の匿名情報により福島都知事がかかわったとされる、民革連をはじめとする過激派グループに対してのデモへの侵入、デモの皇居前広場へ誘導、およびそこでのテロ活動を行うことの画策を暴露した。これについてはこれも匿名ではあるが過激派グループ幹部の告発映像も添付されていた。この記事は大手メディアに取り上げられることはなかったのであるがネット空間内では反五代・福島を形成する一大勢力が形成されつつあった。

 この報道により東京都内だけでなく全国的に反五代・福島の運動が広がった。ZOO ZOOタウン内では広く福島都知事リコールの署名への呼びかけが行われ署名数は再び伸び始めていった。また同時に福島都知事に代わる人物として誰がいいかのお祭り騒ぎがネット内で展開され、ZOO ZOOタウン内で都知事候補の予備選が行われることになった。第一候補には一連のデモの報道で活躍を見せた柚木クリスティーンであり、ネット内でのアンケートでは七十パーセントの支持率を示した。その後に続いたのがニュース配信番組で都知事に対して辛口のコメントに終始していた長身のイケメン俳優矢部義紀で支持率十二パーセントである。その後の三番手として前都知事の楢崎雅史が八パーセントであり、現都知事の福島百合子に至っては一パーセントにも満たない。いずれも勝手連的に支持を表明したグループがそれぞれの候補者の擁立運動を行ったものであり、本人たちの口からリコール後の都知事選立候補についての発言は未だ皆無の状況ではある。ネット内でまた盛り上がっている話としては与党自由党により他県から東京へ住民票が写されているのではないかといったものである。その根拠となるのは群馬県在住の六十代のある主婦からの投稿として自由党支持者の都内在住の兄嫁から昨年十一月に依頼があり一時的に夫婦そろって同月末までに住民票を兄嫁の都内の住所へ移されてしまったという話が真偽を確認されないまま広がるという騒ぎがあった。このような状況下でリコール署名は年末には二百万に達して年明けの一月六日に東京都選管にリコール請願書名が提出された。
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