第18話

文字数 3,063文字

 開けて月曜日、臨時国会は大沼総理への中国海南電子有限公司の迂回献金疑惑のため大波乱の様相を呈していた。党首討論で新民党代表白麗美が大沼総理の不正献金疑惑を鋭く追及していた。
「総理、中国の東方電視台のニュースによりますと広州の海南電子有限公司よりコニー電子工業を通じて過去十年にわたり総額三億円もの献金が総理の政治資金管理団体へ迂回献金されていたと報じられていますがこの件の真偽についてお答えください」
「土曜日のニュースを受けて調べてきましたがそのような事実は見つかっておりません」
「私たちの調べではコニー電子より毎年一億円もの献金が党の政治資金団体へ献金されているではないですか。その中の五千万円が海南電子からのものではなかったのですか」
「コニー電子は三十年以上にわたりわが党へ一億円の寄付をしていただいております。この件は情報開示しており透明性をもって資金管理しておりますので海南電子からの迂回献金でないことは間違いありません」
「十年前といえばあなたが総務大臣であったころ6Gの通信インフラに海南電子の設備を導入していますね。その時の見返りとしての献金ではないのですか」
「NCCのインフラに関してのお問い合わせかとは思いますが当時は競争入札でNCC側が適正価格で最終的な業者の選定を行ったと理解しております。私がその採用に関わったという事実はございません」
「中国側ではこの件ですでに逮捕者が出ているのですよ。総理、もはや言い逃れはできない状況ですよ」
 白麗美の追及は終わる様子を見せずに最後にコニー電子会長古賀大三の参考人招致を要求して四十五分の持ち時間を終えた。
 その後も野党党首による大沼総理の献金疑惑の追及に終始して国会は混迷を極め与野党国対委員長の会談によりコニー電子会長古賀の国会招致が翌週月曜日に決まったのであった。その後配信ニュースは連日のように大沼総理とコニー電子、NCCの癒着と海南電子がどのように日本市場への参入に両社の支援を受けたのかの報道がなされた。それにより国民の支持が四十パーセントを超えていた大沼内閣であったが支持率急落が予想される展開が起こっていたのである。その最中の木曜日週刊春秋が配信された。そのトップ記事は何と第一野党党首白麗美への中国長安電子汽車有限公司による迂回献金疑惑である。年間一千万円が日本のダミー企業を通して過去五年にわたり続けられたという報道である。そしてこの不正献金には与党自由党の大物政治家が中心的役割を果たしたという内容だった。この報道に大手のメディアは沈黙を守りひたすら大沼政権批判を繰り返していたのだがネット内では徐々に自由党の大物政治家による大沼降ろしとそれに対抗した大沼側の権力闘争との見方が広がっていった。その間に各メディアが行った週末の世論調査では大沼内閣の支持がかろうじて四十パーセントを保つといった結果になった。同時に行われた政党の支持率では与党自由党は十ポイント落として三十パーセントをかろうじて守ったが野党第一党の新民党は十五パーセント落として一ケタ台に入るといった結果に終わった。
 明けた月曜日の午前八時に東京国税局査察部が白麗美の個人事務所に入ったという一報が国会内を駆け巡った。十時にはコニー電子会長古賀の参考人質問が行われ、新民党副代表の田代健司がトップバッターとして質問を始めたのだが古賀から重要な言質を取ることはできなかった。昼前には参考人質問は何の成果もなく終了したのだがその間マルサにより白麗美の私設秘書が脱税容疑で摘発されたという大ニュースが国会内に入ってきた。事態は大混迷を迎えてしまったのである。メディアも含め国民は白の逮捕そして自由党の大物政治家まで司直の手が届くのか注目していた。白の第一秘書金田吉美は脱税及び私文書偽造の嫌疑で逮捕された。検察の追及は弁護士の立ち合いの下、行われたのであるが真相まで及ぶことはなく金田個人による犯行として送検され金田自身は逮捕後七十二時間後に保釈された。保釈後弁護士に付き添われ自宅へ向かった金田であったが木曜日の朝、担当弁護士により金田の遺体が浴槽で発見された。ダイニングに残された彼女の通信端末には遺書らしきものが残され、それには白代議士に迷惑をかけたことへの謝罪が書かれていたのであった。これにより一連の不正献金疑惑は真相まで行き着くことができずに世論に大きな不満を残したまま幕を閉じることになった。この政治の不誠実な動向は世論の反発を招きその週末の世論調査では大沼内閣と自由党の支持は二十パーセント前半にまで落込んだのである。しかし同時に行われた野党の支持率はすべて足しても十パーセントに満たないと惨憺たる結果に陥り世の中は政治不信という大嵐に突入していった。
 アメリカの大統領選挙も混乱の中にあった。中国当局による長安電気汽車有限公司総経理李平の逮捕とアメリカ大統領候補エイミー・ディキンソンへの不正献金疑惑は全共網により世界中に配信されたのであるがアメリカのメジャーな配信局は取り上げることはなくマイナーな配信局のみで配信されたのであった。ネットを中心にマッコイ大統領支援が行われていたのだが一度反マッコイに傾いた世論を動かすには時間が十分とは言えず十一月の第一火曜日である五日の選挙を迎えたのである。即日開票が行われたのだが結果はエイミー・ディキンソンが現職のクリストファー・マッコイを獲得選挙人数二百七十八対二百六十という僅差で破りアメリカ合衆国大統領の座を射止めたのであった。選挙結果が出た後マッコイ大統領は日本で起こった白麗美の秘書の長安電気汽車からの不正献金疑惑での逮捕とその不審死を公表しエイミー・ディキンソンに対し長安電子汽車総経理李平との関係を説明せよと公開質問を行うに至った。このメッセージに対し大手ニュース配信局は沈黙を守ったのだがネット内で反ディキンソンの運動を起こさせることになりそのうねりは静かに広がっていった。
 一方、エイミー・ディキンソン当選のニュースの翌日日本では支持率低迷の大沼総理降ろしの動きが水面下で行われていた。野党第一党の新民党党首白麗美は秘書の送検とその後の自殺により党首の座を退くとメディアに向け発表した。その後の衆議院本会議において白は最後の仕事として内閣不信任案を提出したのである。不信任案自体は否決されたのだが過半数を優に超える自由党の議席にもかかわらず自由党側からも不信任支持に回った造反議員が多数いたためかろうじて否決する状態に至ったのである。その翌週に行われた世論調査により大沼内閣の支持率は二十パーセントを切り、与党自由党の支持率もかろうじて二十パーセントを維持する状況であった。この状況を踏まえて与党幹事長五代礼三は大沼広樹に対し勇退を求めたのである。大沼は自身の勇退と引き換えに懐刀の三枝英人官房長官への禅譲を条件とするが政党支持率が低迷している中、三枝では政権がもたないと五代に即座に却下される。党内は大沼対五代の闘争に至ろうとしていた。そこに登場したのが重鎮である神足修一大勲位である。彼による裁定で大沼にキャサリン青木への禅譲を決定したのであった。ただしここまでの筋書きはすでに大沼の中でも描かれていたものであり、神足の裁定により大沼はある意味党内勢力を維持しながら反主流派として自由に活動できる位置を確保できたのであった。このような中で国会議員及び党員による総裁選挙をひと月後に行うことが決定された。
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