第24話 グリットリア式銃術

文字数 1,751文字

 決して、感情的になってはいけない。
 
 頭は冷静に――刹那の判断が生死を分かつ。
 心は熱く――体だけじゃ間に合わない。
 
 弾丸を防ぐのは、それほどに難しい。
 
 銃口と引き金から予測するのは当然のこと、殺気を飛ばして相手の引き金を軽くしたり、極限の集中力と意志によるドーピングも必要となる。
 
 基本概念は発砲の原理と一緒だ。
 狭い空間に押し込められた圧力が爆発的なエネルギーを生み出す。
 
 冷静、殺意、激情。矛盾する感情をない混ぜにしながら、更に集中して高め、抑え込み――一気に解放する。
 
 体の準備が整うと、カズマはゆっくりと拳銃を抜いた。
 むき出しの銃口が僅かに迷うも、寸分たがわずリューズへと向けられる。
 まだ離れているからか、彼女は気づいていない。
 
 その間にカズマは覚悟する。
 頭の中でリューズを幾度となく殺す。
 
 そして、迷いは消え失せた。
 
 装備を確認する。リボルバー式の拳銃が四丁――脇の下に二丁、腰に二丁と鎮座している。合計二十四発。
 おそらく、リロードはない。
 ソリッドフレームは堅牢であるものの、再装填に時間がかかる。空薬莢を捨てるのも、弾を詰めるのも一発ずつしかできやしない。
 現に、十秒以上もかかってしまった。
 
 ――これで仕留められなければ、負けだな。
 
 少しばかり軽くなったお守りを握り、カズマは重い足取りで接近する。ぺちゃ、ぺちゃ……と、避けて歩いているのに嫌な音がする。

「場所、変えないか?」
 
 聖域から数歩離れて、カズマは提案した。
 この惨状では、精神的にも物理的にもマイナスにしか働かない。

「いいわよ」
 
 安堵の表情を覗かせ、リューズは承諾した。

「ロイス、手出し無用だから」
 
 見上げ、リューズは忠告する。
 カズマが聖域を侵す前から、ロイスは照準を定めていた。

「……向こうもそうなら、オレは構わないぜ?」
 
 銃口がカズマから外れ、フィロソフィアの車に移る。

「最初から、俺は一人だよ」 
 
 二人の意思通りに事は運んだ。
 少し歩いただけで、血は見えなくなる。乾いた土地が吸い取っているようだ。流れる気配すらなく、地面の色を変えていく。

「とりあえず、先に謝っておくな」
 
 血をすする大地から離れ、カズマは頭を下げた。

「――なにを?」
 
 リューズは大きく深呼吸をして、返した。

「おまえのしてきたことを否定したこと」
 
 カズマは今まで高みの見物をしていた。
 手を汚さないでいたのは、自分よりも幼い少女に押し付けていたからに過ぎない。
 それなのに非難した。
 最低の行為をしてしまったと、カズマは真摯に詫びる。

「そう」
 
 素っ気なく、リューズは受け取った。
 気にしていないと言われているようで、カズマの胸に痛みが刺さる。

「俺も、死にたくない……」
 
 カズマは一度振り返り、告げた。

「だから、おまえを殺す」
 
 言葉にしても、リューズに動揺は見受けられなかった。

「当然の見解ね。けど、それなら私たちの味方をするっていう手もあるんじゃない?」
 
 思ってもみない提案に揺れるも、カズマは首を振った。

「その代わり、沢山の同僚たちを見捨てないといけなくなる」
「今更じゃない?」
「おまえも言ってたろ? 自分の目の届かない範囲なら、どうだっていい――」
 
 でも、目に見える位置から見殺しにするのは耐えられない。

「違いない」
 
 リューズは笑った。
 無理の感じられない、屈託のない笑みをこの状況で見せた。

「ロイス、流れ弾には気をつけろよ?」
 
 見上げ、忠告する。
 リューズの聖域内が一番安全なので、ロイスは頭上に居座っていた。

「テメーも、オレを狙うなんて真似はしねぇよな?」
「当たり前だ。ルカの友人を騙し討ちで殺したりはしない」
 
 カズマはもう一度だけ振り返り、頷く。
 銃口が狙っていた。聖域を大幅に離れれば、自分は殺される。
 
 ――だから、殺す。
 
 死にたくないから、殺す。
 護りたかった少女をこの手で撃ち殺す。

「いくぞ?」
 
 わざわざ宣言して、カズマは踏み込んだ。
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登場人物紹介

カズマ、22歳。

ハフ・グロウスの軍人だが、忠誠心に欠ける為、左遷される。

支配国からの独立を目論んではいるものの、具体的な計画性は皆無。

拳銃で接近戦をこなす、グリットリア式の変わった銃術を扱う。


リューズ、おそらく16歳。

マゲイアの住民。禁忌とされるリミット《限定魔術》に手を出したフール《愚者》。

長いこと追われる身であるものの、諦めず亡命計画を企てるほど強かで逞しい。

かつて、望んだ願いは『剣の最強の証明』

ゆえに彼女のリミット――白兵戦最強《ソードマスター》は剣を召喚し、遠距離からの攻撃を無力化する。

アルル、12歳。

マゲイアの第16王女でありながらも、リミットに手を出したフール。

もっとも、その立場から裁かれることはなく、軟禁に留まっている。

かつて、望んだ願いは『窓から見える風景だけでも自由にしたい』

ゆえに彼女のリミット――キリング・タイム《カナリアの悪戯》は窓越しの世界を自由に操る。

ロイス、おそらく16歳。トリックファイター《伝統破壊者》の通り名を持つ。

14歳の時に、マゲイアから亡命を果たしたフール。

その為、魔術師でありながらグリットリア式銃術も扱う。

かつて、望んだ願いは『一人でも平気な世界』

ゆえに彼のリミット――プレイルーム《独りぼっちの楽園》は自分にだけ見え、感じ、触れられる空間を具現化する。

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