第21話 ダモクレスの剣
文字数 1,957文字
フィロソフィアの動向は常に注目されている。過大なる武力。原始的な方法で、大国へと名乗りを上げた為だ。
武力戦となれば、未だ他の追随を許さない。
かつての兵器は『ダモクレスの剣』として、危険視されていた。
いつ、落ちてくるかわからない。
頭上を付き纏う剣は、今にも切れそうな細い糸で吊るされている。事故か誤算か狂気か、いつ切れても不思議ではないのだ。
その為、フィロソフィアを軽視する国はなかった。
他国からどれほど訴えられても、決して『ダモクレスの剣』を手放さなかったからである。反面、信頼は失っており、不審な動きをみせれば即座に干されかねなかった。
だからこそ、フィロソフィアは常に他の大国の機嫌を窺っていた。食料もエネルギーも、自国だけではとうてい賄えないからである。
結果、本国からは戦闘機一台といえど、自由に動かすことができなってしまった。
それにはまず大国への説明、次いで許可が必要となるのだが、現在の情勢では内乱でも起きない限り承諾されることはないだろう。
とはいえ、今回の作戦においては問題なかった。
もとより、目標には兵器の大半が通用しないどころか、生け捕りが目的。必要なのは重火器ではなく、被致死性兵器。
それも白兵戦で使える類となると、重量は必然的に軽くなる。
すなわち、軍用機でなくとも運搬可能だった。
そうして、一般の旅客機。ハフ・グロウスで他国との玄関口を兼ねている島から車で一日――八十三名のフィロソフィアの特殊部隊が、クル・ヌ・ギアに到着した。
半年も前から送り込んでいた先遣隊及び、ハフ・グロウスの軍とも合流し、総勢一万二千を越える師団が動き出す。
その内の二個旅団は、クル・ヌ・ギアの包囲に当てられた。ここを訪れる者はいないので、ここから逃げ出させないのが目的となる。
必要な武器も用意されていた。
今朝方、運ばされた『ナニカ』は自動小銃。遮断物のないこの位置、この人数で撃てばまさしく弾幕。ハンドウェポンでありながら、兵器並みの殺傷能力を発揮する。
残った兵の内、六個連隊はここに住む者たちを外に出さぬよう、八個中隊は作戦実行のサポート――現場に誰も近づけないよう、包囲網の形成。
機密上、実行に当たるのはフィロソフィアの特殊部隊のみとなる。
ただし彼らには土地勘がないので、案内役として一人、同行が求められた。
カズマはもと来た道を戻っていく。
振り向けば沢山の車、仰げば戦闘機。銃口を背負いながら、アクセルを踏み続ける。
つい先程まで、リューズの行為を認められなかったくせしてこの様だ。
けど、ここで抗ったとしても無駄死になるだけだとカズマは言い聞かせる。自分一人が邪魔したとしても、フィロソフィアは止まらない。
――だったらどうする?
自問するも、答えは出ない。いつものようにずるずると、結果的にリューズたちを裏切る行為に加担していた。
それでも、この作戦が失敗に終わることを望むのは卑怯だろうか? 彼女らの勝利を祈るのはズルいだろうか?
コウモリのような立ち振る舞いをしている自分を、彼女たちはどう思うだろうか?
裏切られたと傷つくだろうか? 仕方ないとわかってくれるだろうか?
気付けば、傷つきたくないと思っている自分がいた。
それ以上に、死にたくないって思っている自分にカズマは気付いた。
死の境地に立たされ、あっさりと自分の意見をひるがえす。
大人の男なのに。だとすれば、少女のリューズが生きる為に他人の命を奪ったのは仕方ないんじゃないかって、カズマは思い始めていた。
彼女を傷つけてしまったんじゃないかって、今更ながら後悔する。
だけどもう、遅い。
カズマの役目は終わり、前線から外される。
フィロソフィアの装備から、殺す気がないのは読めた。
警棒タイプと射出型のスタンガン。それに兵士たちは重厚な衣服に加え、視界を狭めるヘルメットまで着用している。
お粗末な装備からして、特殊部隊といえどフィロソフィアでは白兵戦の鍛錬が低い実情が窺える。
本来、彼等が得意とするのは射撃。それも目視すら不可能な距離から、圧倒的な数と力で押し切るものだ。常に優位な位置から一方的に攻撃するのが基本戦術。
よって、第一に求められるのは兵器の扱い方。
しかし、その兵器はあらゆる武器よりも重たいので彼らの肉体は屈強であった。いくら体術で圧倒しようとも、そう簡単には制圧できないだろう。
フィロソフィアの兵たちが動き出す。
指示を聞く限り、逃げられないように包囲――
そして、真っ先に窓を割り始めた。
武力戦となれば、未だ他の追随を許さない。
かつての兵器は『ダモクレスの剣』として、危険視されていた。
いつ、落ちてくるかわからない。
頭上を付き纏う剣は、今にも切れそうな細い糸で吊るされている。事故か誤算か狂気か、いつ切れても不思議ではないのだ。
その為、フィロソフィアを軽視する国はなかった。
他国からどれほど訴えられても、決して『ダモクレスの剣』を手放さなかったからである。反面、信頼は失っており、不審な動きをみせれば即座に干されかねなかった。
だからこそ、フィロソフィアは常に他の大国の機嫌を窺っていた。食料もエネルギーも、自国だけではとうてい賄えないからである。
結果、本国からは戦闘機一台といえど、自由に動かすことができなってしまった。
それにはまず大国への説明、次いで許可が必要となるのだが、現在の情勢では内乱でも起きない限り承諾されることはないだろう。
とはいえ、今回の作戦においては問題なかった。
もとより、目標には兵器の大半が通用しないどころか、生け捕りが目的。必要なのは重火器ではなく、被致死性兵器。
それも白兵戦で使える類となると、重量は必然的に軽くなる。
すなわち、軍用機でなくとも運搬可能だった。
そうして、一般の旅客機。ハフ・グロウスで他国との玄関口を兼ねている島から車で一日――八十三名のフィロソフィアの特殊部隊が、クル・ヌ・ギアに到着した。
半年も前から送り込んでいた先遣隊及び、ハフ・グロウスの軍とも合流し、総勢一万二千を越える師団が動き出す。
その内の二個旅団は、クル・ヌ・ギアの包囲に当てられた。ここを訪れる者はいないので、ここから逃げ出させないのが目的となる。
必要な武器も用意されていた。
今朝方、運ばされた『ナニカ』は自動小銃。遮断物のないこの位置、この人数で撃てばまさしく弾幕。ハンドウェポンでありながら、兵器並みの殺傷能力を発揮する。
残った兵の内、六個連隊はここに住む者たちを外に出さぬよう、八個中隊は作戦実行のサポート――現場に誰も近づけないよう、包囲網の形成。
機密上、実行に当たるのはフィロソフィアの特殊部隊のみとなる。
ただし彼らには土地勘がないので、案内役として一人、同行が求められた。
カズマはもと来た道を戻っていく。
振り向けば沢山の車、仰げば戦闘機。銃口を背負いながら、アクセルを踏み続ける。
つい先程まで、リューズの行為を認められなかったくせしてこの様だ。
けど、ここで抗ったとしても無駄死になるだけだとカズマは言い聞かせる。自分一人が邪魔したとしても、フィロソフィアは止まらない。
――だったらどうする?
自問するも、答えは出ない。いつものようにずるずると、結果的にリューズたちを裏切る行為に加担していた。
それでも、この作戦が失敗に終わることを望むのは卑怯だろうか? 彼女らの勝利を祈るのはズルいだろうか?
コウモリのような立ち振る舞いをしている自分を、彼女たちはどう思うだろうか?
裏切られたと傷つくだろうか? 仕方ないとわかってくれるだろうか?
気付けば、傷つきたくないと思っている自分がいた。
それ以上に、死にたくないって思っている自分にカズマは気付いた。
死の境地に立たされ、あっさりと自分の意見をひるがえす。
大人の男なのに。だとすれば、少女のリューズが生きる為に他人の命を奪ったのは仕方ないんじゃないかって、カズマは思い始めていた。
彼女を傷つけてしまったんじゃないかって、今更ながら後悔する。
だけどもう、遅い。
カズマの役目は終わり、前線から外される。
フィロソフィアの装備から、殺す気がないのは読めた。
警棒タイプと射出型のスタンガン。それに兵士たちは重厚な衣服に加え、視界を狭めるヘルメットまで着用している。
お粗末な装備からして、特殊部隊といえどフィロソフィアでは白兵戦の鍛錬が低い実情が窺える。
本来、彼等が得意とするのは射撃。それも目視すら不可能な距離から、圧倒的な数と力で押し切るものだ。常に優位な位置から一方的に攻撃するのが基本戦術。
よって、第一に求められるのは兵器の扱い方。
しかし、その兵器はあらゆる武器よりも重たいので彼らの肉体は屈強であった。いくら体術で圧倒しようとも、そう簡単には制圧できないだろう。
フィロソフィアの兵たちが動き出す。
指示を聞く限り、逃げられないように包囲――
そして、真っ先に窓を割り始めた。