第17話 権謀術策
文字数 2,111文字
「邪道だわっ!」
感想を求めると、リューズは不満を述べた。
暇つぶしにと、勧めたアニメ。どうやらお気に召さなかったようだ。
「邪道って、なにがだ?」
面倒くさそうな雰囲気から逃げ出したロイスは、リューズの様子を見に来ていた。
「斬り合ってる内はまだ許せたけど、なんで剣から魔術みたいなのがでてくるのよ!」
「んなもん、派手だからに決まってるだろ? っつか、そうでもしねぇと剣の出番なんてねぇしな」
武器として、剣は優秀とはいい難い。
一番の利点は携帯性――両手を開けたまま、装備可能な点と言っても過言ではないだろう。
かつての戦争でも、補助的な役割を担っていた。主な武器は弓と槍。それらが扱えない場面、もしくは失われた時に初めて剣は抜かれる。
「そんなことない! そりゃぁ、遠距離武器が相手だと敵わないかもしれないけど、白兵戦じゃ最強なの!」
「そうか? 槍はおろか鈍器にすら劣るイメージだけどな」
「私は勝てる!」
「そりゃもう論点が違ぇだろ……」
ロイスは呆れて頭をかくも、リューズは気にせずに突っ走る。
「そもそも、剣の使い方が間違ってるのよ! 無駄に振り回したり、打ち合ったり、なにか飛び出したり……」
「あー、一応聞くが……そいつが妄想の産物だってことはわかってるよな?」
熱く語りだすリューズに、ロイスは不安になってくる。マゲイアには、こういった娯楽が存在しなかった。
「そんくらいわかってるわよ!」
心外だと叫び出しかねない勢いで、リューズは声を張る。
「こんな変な人間が実在してたまるもんか!」
「いやー、テメーもいい勝負だがな……って、んな睨むなよ怖ぇーな」
宥めるようにロイスは手をふる。
「そいや、テメーはどうする気だ? ここにいんのは成り行きだろ?」
アルルに放ってきたのと同じ質問。
ただ、ロイスにとってはリューズの返答のほうが大事なので表情を引き締める。
「違う。ここにいるのは迎え撃つ為よ」
「やっぱ殺人狂か?」
「まぁ、戦闘狂ではあるかもね。けど、私は無駄にしたくないだけよ」
「……後悔してんのか?」
「まさか。ただ、取り返しのつかないことをしてしまったのは否めない……」
リューズはしおらしい表情を浮かべるも、一瞬。
「でも、だからこそ……絶対に無駄にしたくはない。マゲイアに、ハーミットって奴に、剣の力を見せつけないと気がすまない」
――やっぱ殺人狂じゃねぇか。
と、ロイスは思うも口にはしなかった。
彼女のリミット、年齢を考慮すると焦る気持ち――死に急ぐのもわかる。
例え王族並みの魔力を有していたとしても、彼女の魔力 は、そう長くは持たない。
「そういう、あんたは?」
「どうだろうな。今考えると、もうちょいマシな能力にしとけば良かったと思うけどよ」
それが無駄な仮定だとはわかっている。
そんな論理的な思考ができなかったから、愚者 なのだ。
色々なことを知った、今ならば言える。
普通に生きていくならば、転換魔術 や付加魔術 のほうが優れている。戦いに関しても、汎用性の面では圧倒的だ。
だからこそ、マゲイアは必死で隠し続けてきたのだろう。
銃一つでさえ、知られてしまえば危うい。
今のマゲイアの住民が、魔術を放つ時にイメージするのは弓。
物凄く早く――それで思い浮かぶのは、放たれる矢しかない。
チェンジとチャージは使用者の想像を超えることはなく、イメージ通りに働く。
つまり、兵器の存在を知ればリミットにも負けない脅威と成り得る可能性があった。
「まさか、戦うなんて思ってもいなかったからな」
やれやれといった口調であるが、ロイスの瞳には神妙な光が宿っていた。
「なに? あんたもやる気なの?」
「ぶっちゃけ、マゲイアはどうだっていい。今のオレには関係ねぇからな。けど、フィロソフィアは別だ」
「フィロソフィアは私が蹴散らしたから、来ないと思うけど?」
リューズの発言を鼻で笑い、ロイスは吐き捨てる。
「バーカ。こいつはフィロソフィアの描いた絵図だぜ?」
「こいつって……?」
「テメーの逃亡だよ。まぁ、あのガキに関しては偶然だろうがよ」
理解の追いついていないリューズに、ロイスは丁寧に説明する。
「フィロソフィアは、不審者 の存在を知っていたはずだ」
「誰かに気づかれるような、へまを踏んだ覚えはないけど?」
「人には、だろ? テメー、機械はスルーしてなかったか?」
監視カメラ、赤外線……ロイスの挙げる単語にリューズは眉根を寄せる。
「あのガキに確認すりゃわかると思うが、機械に関しては全てフィロソフィアに丸投げしてたと思うぜ」
そこでリューズの存在を隠蔽した。
「なんで、そんな真似を?」
「さぁな。ロクでもねぇ理由ってしかわかんねぇ」
適当な推測をロイスは滑らせる。
「人体実験とかさ、さすがに交友があってもやらせてはくれねぇだろ?」
感想を求めると、リューズは不満を述べた。
暇つぶしにと、勧めたアニメ。どうやらお気に召さなかったようだ。
「邪道って、なにがだ?」
面倒くさそうな雰囲気から逃げ出したロイスは、リューズの様子を見に来ていた。
「斬り合ってる内はまだ許せたけど、なんで剣から魔術みたいなのがでてくるのよ!」
「んなもん、派手だからに決まってるだろ? っつか、そうでもしねぇと剣の出番なんてねぇしな」
武器として、剣は優秀とはいい難い。
一番の利点は携帯性――両手を開けたまま、装備可能な点と言っても過言ではないだろう。
かつての戦争でも、補助的な役割を担っていた。主な武器は弓と槍。それらが扱えない場面、もしくは失われた時に初めて剣は抜かれる。
「そんなことない! そりゃぁ、遠距離武器が相手だと敵わないかもしれないけど、白兵戦じゃ最強なの!」
「そうか? 槍はおろか鈍器にすら劣るイメージだけどな」
「私は勝てる!」
「そりゃもう論点が違ぇだろ……」
ロイスは呆れて頭をかくも、リューズは気にせずに突っ走る。
「そもそも、剣の使い方が間違ってるのよ! 無駄に振り回したり、打ち合ったり、なにか飛び出したり……」
「あー、一応聞くが……そいつが妄想の産物だってことはわかってるよな?」
熱く語りだすリューズに、ロイスは不安になってくる。マゲイアには、こういった娯楽が存在しなかった。
「そんくらいわかってるわよ!」
心外だと叫び出しかねない勢いで、リューズは声を張る。
「こんな変な人間が実在してたまるもんか!」
「いやー、テメーもいい勝負だがな……って、んな睨むなよ怖ぇーな」
宥めるようにロイスは手をふる。
「そいや、テメーはどうする気だ? ここにいんのは成り行きだろ?」
アルルに放ってきたのと同じ質問。
ただ、ロイスにとってはリューズの返答のほうが大事なので表情を引き締める。
「違う。ここにいるのは迎え撃つ為よ」
「やっぱ殺人狂か?」
「まぁ、戦闘狂ではあるかもね。けど、私は無駄にしたくないだけよ」
「……後悔してんのか?」
「まさか。ただ、取り返しのつかないことをしてしまったのは否めない……」
リューズはしおらしい表情を浮かべるも、一瞬。
「でも、だからこそ……絶対に無駄にしたくはない。マゲイアに、ハーミットって奴に、剣の力を見せつけないと気がすまない」
――やっぱ殺人狂じゃねぇか。
と、ロイスは思うも口にはしなかった。
彼女のリミット、年齢を考慮すると焦る気持ち――死に急ぐのもわかる。
例え王族並みの魔力を有していたとしても、彼女の
「そういう、あんたは?」
「どうだろうな。今考えると、もうちょいマシな能力にしとけば良かったと思うけどよ」
それが無駄な仮定だとはわかっている。
そんな論理的な思考ができなかったから、
色々なことを知った、今ならば言える。
普通に生きていくならば、
だからこそ、マゲイアは必死で隠し続けてきたのだろう。
銃一つでさえ、知られてしまえば危うい。
今のマゲイアの住民が、魔術を放つ時にイメージするのは弓。
物凄く早く――それで思い浮かぶのは、放たれる矢しかない。
チェンジとチャージは使用者の想像を超えることはなく、イメージ通りに働く。
つまり、兵器の存在を知ればリミットにも負けない脅威と成り得る可能性があった。
「まさか、戦うなんて思ってもいなかったからな」
やれやれといった口調であるが、ロイスの瞳には神妙な光が宿っていた。
「なに? あんたもやる気なの?」
「ぶっちゃけ、マゲイアはどうだっていい。今のオレには関係ねぇからな。けど、フィロソフィアは別だ」
「フィロソフィアは私が蹴散らしたから、来ないと思うけど?」
リューズの発言を鼻で笑い、ロイスは吐き捨てる。
「バーカ。こいつはフィロソフィアの描いた絵図だぜ?」
「こいつって……?」
「テメーの逃亡だよ。まぁ、あのガキに関しては偶然だろうがよ」
理解の追いついていないリューズに、ロイスは丁寧に説明する。
「フィロソフィアは、
「誰かに気づかれるような、へまを踏んだ覚えはないけど?」
「人には、だろ? テメー、機械はスルーしてなかったか?」
監視カメラ、赤外線……ロイスの挙げる単語にリューズは眉根を寄せる。
「あのガキに確認すりゃわかると思うが、機械に関しては全てフィロソフィアに丸投げしてたと思うぜ」
そこでリューズの存在を隠蔽した。
「なんで、そんな真似を?」
「さぁな。ロクでもねぇ理由ってしかわかんねぇ」
適当な推測をロイスは滑らせる。
「人体実験とかさ、さすがに交友があってもやらせてはくれねぇだろ?」